★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇バリリ四重奏団とウィーン・コンツェルトハウス四重奏団によるモーツァルト:弦楽四重奏曲第14番/第15番

2023-04-20 09:40:43 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)


モーツァルト:弦楽四重奏曲第14番「春」
       弦楽四重奏曲第15番

弦楽四重奏:バリリ四重奏団(第14番)
      ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団(第15番)

発売:1964年

LP:キングレコード MR5049

 モーツァルトは生涯で23曲の弦楽四重奏曲を書いた。それらは、次のような4つのグループに分けられている。第2番~第7番=「ミラノ四重奏曲」、第8番~第13番=「ウィーン四重奏曲」、第14番~第19番=「ハイドン四重奏曲」、第21番~第23番=「プロシャ王四重奏曲」。これらのうち、第8番以降はすべてウィーンで書かれている。モーツァルトの弦楽四重奏曲の先生に当る人はハイドンである。ハイドンこそが弦楽四重奏曲の古典的形式を完成させたのである。それは1789年に書き上げた6曲からなる「ロシア四重奏曲」と名付けられている弦楽四重奏曲であり、これらは、それ以前の弦楽四重奏曲とは異なり、全く新しい特別の手法によって作曲れた。一方、ザルツブルクからウィーンに移ったモーツァルトは、ハイドンが新たに編み出した弦楽四重奏曲の手法を参考に6曲からなる弦楽四重奏曲を完成させ、ハイドンに献呈した。これが「ハイドン四重奏曲」であり、このLPレコードには、このうち、第14番(ハイドンセット第1番)と第15番(ハイドンセット第2番)が収められている。モーツァルトは、6曲のハイドンセットを完成させた翌日の1785年1月15日と2月12日に、ハイドンを自宅に招き、弦楽四重奏曲を披露したという。第14番は、ハイドンが編み出した新しい手法が、モーツァルトという天才を経過することによって、一層の高みにたどりついたことが聴き取ることができる作品となっている。実に落ち着いた弦楽四重奏曲に仕上がっており、均整の取れた構成は弦楽四重奏曲の醍醐味を存分に味わせてくれる。この作品を作曲した頃に、モーツァルトは交響曲第35番「ハフナー」や歌劇「後宮からの誘拐」などを作曲している。バリリ四重奏団の演奏は、深みのある中に、如何にもウィーン情緒が漂う洒落た趣も伝えてくれる。一方、第15番はニ短調の作品(モーツァルトは短調の弦楽四重奏曲を2曲書いた)で、深い諦観に覆われた中にも、起伏に富んだ軽快さが何とも心地良い弦楽四重奏曲であり、如何にもモーツァルトらしい天衣無縫さがさが横溢した作品となっている。この曲は、モーツァルトの妻コンスタンツェが最初の出産の最中に作曲されたという。演奏するのはウィーン・コンツェルトハウス四重奏団で、独特の透明感のある優雅な雰囲気が、何ともいえない雅な趣を演出して秀逸な演奏となっている。(LPC) 

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◇クラシック音楽LP◇ボロディン弦楽四重奏団のチャイコフスキー:弦楽四重奏曲第1番/第2番

2023-02-09 09:48:09 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)


チャイコフスキー:弦楽四重奏曲第1番/第2番

弦楽四重奏:ボロディン弦楽四重奏団

LP:日本ビクター SMK‐7540

 このLPレコードで演奏しているボロディン弦楽四重奏団は、1944年にモスクワ音楽院の学生によって結成された。当時から「現代世界屈指のクヮルテット」と高い評価を得ていた。完璧なアンサンブルと極めて高い音楽性が特徴で、当時は「現代の弦楽四重奏曲演奏の一つの頂点を示すもの」とも言われた。作曲家のショスタコーヴィチとのゆかりが深く、しばしば作曲の相談を受けたという。また、ピアニストのスヴャトスラフ・リヒテル(1915年―1997年)とも長年にわたって共演を重ねてきたことでも知られる。そして、メンバーの入れ替わりを経て、世界で最も活動歴の長い弦楽四重奏団として、現在でも活発な演奏活動を続けている。ボロディン弦楽四重奏団は、1912年にブリュッセルで結成後、ウィスコンシン州マディソンに拠点を移して活動を続けているプロ・アルテ弦楽四重奏団に次いで活動歴の長い弦楽四重奏団であり、2015年には結成70周年を迎えた。当初、モスクワ・フィルハーモニー四重奏団と名乗っていたが、1955年に、近代ロシアの室内楽の開拓者というべき作曲家ボロディンにちなんで改名された。そのボロディン弦楽四重奏団が、同胞であるチャイコフスキーの2つの弦楽四重奏曲を収めたのがこのLPレコード。チャイコフスキーは、全部で3曲の弦楽四重奏曲を作曲した。これら3曲はそう馴染みがある曲でもないが、1871年に作曲された第1番の第2楽章の「アンダンテ・カンタービレ」だけは、クラシック音楽のファンでもなくても、誰もが知っているメロディーで有名。チャイコフスキーは1869年の夏、カーメニカ村でペチカ職人の歌っていた民謡を採譜したが、これが基となって、この有名な「アンダンテ・カンタービレ」の主題が生まれたという。初演は1871年3月16日に行われたが、好評を得たようだ。「音楽評論」の1885年11月7日号で、音楽評論家のキュイはこの弦楽四重奏曲第1番について「第1楽章で、すでにこの才能あふれる作者の個性が打ち出されている。快い旋律、素晴らしい和声法、変化に富み、手の込んだリズム」と高く評価している。そして、1873年12月の終わりから、翌74年の1月にかけて作曲されたのが弦楽四重奏曲第2番。この作品も好評で、初演で「強い感銘を与えた」と記録されている。ただ、ロシアの作曲家、ピアニスト、指揮者のアントン・ルービンシュテイン(1829年―1894年)は「これは室内楽の様式でない」と言ったというが、この意味は「古典様式のわくからはみ出した作品」という意味のようだ。つまり、チャイコフスキーが意欲的に弦楽四重奏曲に取り組んだ結果、そのような批評が生じたとも言える。これは作曲時期は、ちょうど交響曲第2番「小ロシア」と交響曲第3番「ポーランド」の両交響曲のほぼ中間に当たり、この2つのシンフォニーに似かよった性質をもつとも言われている。第1番に比べ、この第2番の方がより本格的な弦楽四重奏曲の様式を備えた作品となっている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇バリリ四重奏団のベートーヴェン:弦楽四重奏曲第3番/第4番

2023-01-12 10:04:11 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)


ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第3番ニ長調op.18-3
        弦楽四重奏曲第4番ハ短調op.18-4

弦楽四重奏:バリリ四重奏団

発売:1965年

LP:キングレコード MR 5089

 バリリ四重奏団は、1954年に結成された弦楽四重奏団である。その洗練されたウィーンスタイルと柔軟さに溢れた豊穣な音、そして4人の息がピタリと合い、安定し、しかも奥ゆかしい表現力などが高く評価され、当時随一の人気を誇っていたクァルテットであった。第1ヴァイオリンがウィーン・フィルのコンサートマスターのワルター・バリリ(1921年―2022年)、第2ヴァイオリンがウィーン・フィルの第2ヴァイオリンの首席奏者のオットー・シュトラッサー、ヴィオラがウィーン・フィルの首席ヴィオラ奏者のルドルフ・シュトレンク、そしてチェロがエマヌエル・ブラベッツの各メンバーからなっていた。ウィーンの演奏の伝統とバリリの個性を融合した格調高い上品なアンサンブルを築き上げ、世界的な名声を得た。1957年(昭和32)には来日を果たしたが、1959年バリリが右腕麻痺に冒されたため解散。ベートーベンやモーツァルトの演奏に一時期を画した。ベートーヴェンの弦楽四重奏曲は、第1期(1798年~1800年)op.18の6曲、第2期(1805年~1806年)op.59の3曲、第3期(1809~1810年)op.74、95、そして第4期(1824年~1826年)op.127、130 ~133、135の4つの時期に分類することができるが、このLPレコードに収録されている曲は、第1期に属する弦楽四重奏曲第3番と第4番の2曲である。第1期の6曲は、古典的ソナタ様式を基礎とした時期の最後に属し、次の実験的革新期への移行期につくられた作品。ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第3番は、作品18の6曲の中で一番先に完成されたもので、明るく、若々しさに溢れた弦楽四重奏曲となっている。ベートーヴェン28歳の時の作品。第1楽章アレグロ、第2楽章アンダンテ・コン・モート、第3楽章アレグロ、第4楽章プレストの4つの楽章からなる。バリリ四重奏団は、そんなベートーヴェンの若さ溢れる弦楽四重奏曲を、実に爽やかに軽快に演奏しており、後期の弦楽四重奏では到底聴くことができない、聴いていて自然に楽しくなってくるような雰囲気を巧みに表現している。一方、ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第4番は、1800年頃(30歳)作曲された作品で、「悲愴ソナタ」や「運命交響曲」と同じハ短調というベートーヴェンにとって宿命的な調性で書かれている。それだけに、作品18の6曲の中では一番独創性に富んでおり、説得力のある若き日の力作の一つとなっている。第1楽章アレグロ・マ・ノン・タント、第2楽章アンダンテ・スケルツォ・クワジ・アレグレット、第3楽章メヌエット、アレグレット、第4楽章アレグロの4つの楽章からなる。バリリ四重奏団もそんな弦楽四重奏曲を、深い洞察力をもって弾きこなしており、リスナーはそれによって、弦楽四重奏曲の持つ醍醐味を余す所なく味わい尽くすことができるのである。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ウェラー弦楽四重奏団のモーツァルト:弦楽四重奏曲第21番/第23番(「プロシャ王セット第1/3」) 

2022-11-14 09:48:50 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)


モーツァルト:弦楽四重奏曲第21番「プロシャ王セット第1」
       弦楽四重奏曲第23番「プロシャ王セット第3」 

弦楽四重奏:ウェラー弦楽四重奏団

         ワルター・ウェラー(第1ヴァイオリン)
         アルフレード・シュタール(第2ヴァイオリン)
         ヘルムート・ヴァイス(ヴィオラ)
         ルートヴィヒ・バインル(チェロ)

発売:1979年

LP:キングレコード GT 9257
 
 モーツァルトは、全部で23曲の弦楽四重奏曲を遺している。このうち、第2番~第7番は「ミラノ四重奏曲」、第8番~第13番は「ウィーン四重奏曲」、第14番~第19番は「ハイドン・セット」、第21番~第23番は「プロシャ王セット」と名付けられている。「ミラノ四重奏曲」は、1772年に父と共に行った第3回目で最後のイタリア旅行の途中さらにミラノ到着後に書かれ、ディヴェルトメント風の性格を帯びた作風となっている。「ウィーン四重奏曲」は、1773年に父と共に向かったウィーンに滞在中に書かれた。ハイドンによって確立された弦楽四重奏曲の様式にモーツァルトが対峙した作品群であり、ハイドンの弦楽四重奏曲の形態に従い、第1楽章は(第10番を除き)ソナタ形式、第2楽章、第3楽章はどちらかが暖徐楽章、どちらかがメヌエット、そして第4楽章がソナタ形式かロンド形式、あるいはフーガという構成をとっている。「ハイドン・セット」は、1781年にザルツブルクを去ってウィーン定着した時期に書かれた作品群であり、ハイドンに献呈された。モーツァルトが2年あまりを費やして作曲したこれらの作品は古今の弦楽四重奏曲の傑作として親しまれている。モーツァルトはハイドンを自宅に招きこれらの弦楽四重奏曲を披露したという。このLPレコードには、モーツァルトの弦楽四重奏曲の最後を飾る3曲からなる「プロシャ王セット」のうち、第1番と第3番の2曲が収められている。献呈相手のプロシャ王とは、フリートリッヒ・ウィルヘルム2世のことで、バッハ時代の有名なフリートリッヒ大王の甥にあたり、若い頃から音楽の素養を持ち、自分でもチェロを演奏したという。このため「プロシャ王四重奏曲」の弦楽四重奏曲は、チェロの独奏的な性格が現れていることが指摘されている。「プロシャ王第1」は、いかにもモーツァルトの室内楽の雰囲気が横溢しており、聴いていて楽しさにあふれた曲。 「プロシャ王第3」は、モーツァルト最後の弦楽四重奏曲らしく、深みのある聴き応えある曲となっている。 ウェラー弦楽四重奏団は、1959年に第1ヴァイオリンのワルター・ウェラーを中心に結成され、メンバー全員がウィーン・フィルの楽団員により構成されていた。結成から10年余り活発な活動を展開したが、ウェラーが指揮者に転向して、ウィーン・フィルを去ったことにより解散した。全員がウィーン・フィルのメンバーであっただけに、その優雅な音の響きは誠に心地良く、聴き終わった後、その印象が強く残る。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇パレナン弦楽四重奏団のフランク:弦楽四重奏曲 ニ長調

2022-11-07 09:47:13 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)


フランク:弦楽四重奏曲 ニ長調

弦楽四重奏:パレナン四重奏団

LP:東芝EMI EAC-40144

 セザール・フランク(1822年―1890年)は、ベルギー出身で、フランスで活躍した作曲家、オルガン奏者である。1837年、パリ音楽院に入学。その後、教会オルガニストとして地道な演奏活動を送る。その間、作曲活動を行い、交響曲ニ短調、ピアノ五重奏、ヴァイオリンソナタ、歌曲「天使のパン」など、現在我々がしばしば耳にする名曲を生み出したのである。このため他の作曲家とは異なり、華やかなイメージとは程遠く、禁欲的な教会音楽家としてのイメージの方が定着している。セザール・フランクは、ネーデルラント連合王国のリエージュに生まれ、1837年にパリ音楽院に入学し、作曲、ピアノ、オルガン等を学ぶ。1858年に就任したサント・クロチルド聖堂のオルガニストの職には、その後生涯にわたってとどまった。最晩年の1885年ごろから、現在よく知られる代表作を次々に作曲。フランクの死の年に作曲された唯一の弦楽四重奏曲 ニ長調は、そんなフランクの資質を体現したような曲である。他のフランクの曲と同じように、聴けば聴くほど深い精神性が滲み出てくる弦楽四重奏曲であり、全体がフランス音楽の特徴に彩られた美しい弦楽四重奏曲に仕上がっている。ここでもフランクの特徴でもある、いくつかの主題的な材料を各楽章で用いる循環形式が使われており、対位法の駆使と相俟って、最晩年の充実した作風が聴いて取れる。このLPレコードで演奏しているのは、嘗てフランスの弦楽四重奏団として名を馳せた、ジャック・パレナンによって1943年に結成されたパレナン四重奏団である。その影響を受けた作曲家達は“フランキスト”と呼ばれ、のちにドビュッシーらの印象主義音楽と対抗することになる。ジャック・パレナンはパリ音楽院で著名なカルヴェに師事。このカルヴェの指導の下、同音楽院で学んだ3人と共に弦楽四重奏団を結成した。1957年と1961年の2回、来日を果たしている。同弦楽四重奏団の特徴について「そのひびきは、ウィーン四重奏団のものともボヘミアの四重奏団とも違う。まさに、フランスの団体そのものであり、どちらかというと明るい音色だが、その明るさを特に強調しているわけではない。それに、つややかであるというよりも、もっと鋭敏な反応を示しそうな張りつめた緊張感をみせもする」とこのLPレコードのライナーノートにおいて門馬直美氏はその演奏の特徴を紹介している。その演奏を聴くと、まるで透明感溢れる水彩画を見ているようでもあり、LPレコードの良さがひしひしと伝わってくるのである。(LPC)

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