「植草一秀の『知られざる真実』」
2014/10/28
安倍政権が破壊する平和・人権・国民主権の三原則
第995号
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リベリアに10月中旬まで滞在していた日系カナダ人が羽田空港に到着した際
に発熱が確認された。
エボラ出血熱への感染の疑いがあるため、男性は国立国際医療研究センター
(東京都新宿区)に搬送され、血液などの検体が国立感染症研究所に送られて
詳しい検査が進められている。
検査結果は28日未明には判明する見通しである。
つい2ヵ月前にはデング熱の発症が大きく報道されたが、いまは報道がほとん
どない。
9月23日に、代々木公園で大規模な反原発集会が開催される予定だった。
しかし、デング熱の騒動で、代々木公園が閉鎖され、集会は会場変更を余儀な
く迫られた。
代々木公園に隣接する明治神宮は閉鎖されずに、代々木公園だけが閉鎖された
のは、あまりにも不自然である。
2009年には新型インフルエンザの大きな騒動があった。
しかし、結果的に見れば、新型インフルエンザも従来のインフルエンザと大き
な違いのあるものではなかった。
また、2012年には中国のPM2.5汚染が大々的に報道され、放射能汚染
に対抗するかのような取り扱いがなされたが、この報道も激減している。
専門家によれば、PM2.5の問題はタバコの煙によっても発生するものであ
るとのことで、タバコに対する規制を論じることなく、中国の環境汚染だけを
巨大問題として報道するのも、極めて不自然である。
私たちが留意しなければならないことは、
「情報は操作されている」
ことである。
人々の関心がある方向に向くことを回避するために、
「用意されているネタ」
があるのだ。
芸能人の麻薬摘発は、その典型的な事例である。
2009年の夏は、政権交代を焦点に総選挙が実施されるタイミングであっ
た。
このタイミングで芸能人の麻薬摘発が表面化した。
2014年の夏は集団的自衛権行使容認の閣議決定が行われるタイミングで
あった。
この局面で芸能人の麻薬摘発が表面化した。
現在の局面は、第二次安倍改造内閣が発足し、看板の女性閣僚が「政治とカ
ネ」の問題で相次いで辞任に追い込まれる事態が生じている状況にある。
後任の宮澤洋一経産相は、就任するや否や、SMバーへの政治資金投入、東電
株式の所有、外国企業からの政治献金など、多くの不祥事を噴出させている。
宮澤洋一氏の閣僚辞任が国会論戦の当面の焦点になる局面である。
この事態に対して、メディアが一斉に宮澤氏追及報道を自粛し始めた。
外国企業からの献金は政治資金規正法違反という、れっきとした犯罪に該当す
る恐れのあるものである。
この問題で閣僚辞任に追い込まれた事例も存在する。
ところが、メディアは、菅義偉官房長官の「問題なし」発言だけを報じて、政
権追及を自粛し始めたのである。
これと重ねるように浮上したのが今回のエボラ熱問題である。
実は、この臨時国会に、重大な法改正案が上程されている。
感染症法の改正案である。
メルマガの読者である医師が情報提供下さった。
日本経済新聞は10月14日に次のように伝えている。
感染症疑い患者から強制採血可能に 法改正案を閣議決定
「感染症の検査体制の強化に向け、政府は14日、感染症法の改正案を閣議決定
した。エボラ出血熱や新型インフルエンザなど国民の健康に重大な影響を与え
る恐れのある感染症の疑いがある場合、患者から強制的に血液などの検体を採
取することを認める内容で、今国会での成立を目指す。
改正案ではこのほか、全ての感染症について、都道府県知事の権限として、患
者や医療機関に血液など検体の採取や提出に応じるよう要請できると規定し
た。
これまでは医療機関が患者の検体を国や自治体に提供することについて明確な
規定がなく、個人情報を理由に提供に応じないこともあった。西アフリカでの
エボラ出血熱の流行や国内感染が広がるデング熱など、海外から持ち込まれる
感染症を迅速に調べるため、法制化が必要と判断した。
改正案では、中東などで流行している中東呼吸器症候群(MERS=マーズ)
や、中国などで感染が相次ぐH7N9型鳥インフルエンザを危険度が2番目に
高い「2類感染症」の枠組みに追加することも盛り込んだ。」
情報提供下さった医師は、
「患者の同意も得ずに、採血など考えられない。秘密保護法と同様に、一線を
越えた法案」
と指摘する。
エボラ熱騒動は、この法改正を実現するうえで、極めて好都合な事態なのであ
る。
「感染症の疑いがあると見なせば、国家権力が個人の血を抜き取って検査する
ことができる」
ことを確立する法改正案なのである。
基本的人権の深刻な侵害であることは間違いない。
ドイツ・ナチ党の優生政策と共通する思想に基づくものである。
突き詰めて考えると、「国権」と「人権」のどちらに比重を置くのかという問
題に帰着する。
「人権」は日本国憲法の柱のひとつである。
「平和」、「人権」、「国民主権」
が日本国憲法の三つの柱である。
安倍晋三氏は日本国憲法を嫌っているが、安倍氏が嫌っているのは、日本国憲
法の三つの柱なのである。
同時に、憲法は政治権力を縛るための存在であるが、安倍氏は、憲法の基本性
格を根本から変えることを企図していると見られる。
「政治権力を縛る憲法」
ではなく、
「人民を縛る憲法」
に変えようとしているのである。
この発想と、宮澤経産相のSMバーとが繋がるとの指摘もある。
「人民のために国家がある」
のではなく、
「国家のために人民が存在する」
との発想が根底に置かれているのだと考えられる。
日本国憲法から、
「平和主義」
の原則を取り払い、
「国民主権」
を形骸化し、
「人権」
を制限する。
これが、安倍晋三氏が思い描く、新しい日本の憲法像であるのだろう。
人権は国家の目的に沿う範囲内でのみ、限定的に認められる。
人権を制限する大義名分として用いられるのが、
「公益及び公の秩序」
である。
「公益及び公の秩序」に反しない範囲で「人権」を認めることになるのであ
る。
逆に言えば、「公益及び公の秩序」に反すると認定する場合には、「人権」が
合法的に制限されることになる。
「不可侵の権利」として人権を認めるのではなく、国家の利益に反しない範囲
内で、限定的に人権が認められることになるわけだ。
この考え方が鮮明に表れているのは、自民党の憲法改定草案で、現行の日本国
憲法の第10章「最高法規」が章ごと削除され、このなかに存在した第97条
が丸ごと削除されている点だ。
日本国憲法第97条
「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得
の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将
来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものであ
る。」
「基本的人権の尊重」
が基本的に希薄化されるのである。
国家目的で、個人の血が強制的に抜き取られ、検査にかけられることになる。
私に情報を提供下さった医師は、
「強制採血にについては、少なくとも精神保健指定医のように、複数の感染症
専門医などが、医学的に判断した場合に限定するとか、厳密で公平な運用が必
要な内容だと思う」
と述べている。
これと関わりがあるのが、学校教育における「道徳」の取扱いである。
1.「道徳」を特別の教科とする
2.「道徳」で生徒を評価する
3.検定教科書を制定する
国家の権力によって、思想・信条を支配しようとする方向が鮮明なのである。
子どもは親の背中を見て育つ。
国民は政治家の背中を見ているわけだが、その政治家が人間としての範をまっ
たく示していないのに、「道徳教育」とは笑止千万である。
「ルール教育」は必要だが「道徳教育」は百害あって一利なしである。
国家が個人の思想・信条に立ち入る権利はない。
少なくとも、現行憲法では根拠を持たない。
安倍政権は「国民主権」の大原則を無視しているからこそ、
原発、憲法、TPP、消費税、米軍基地
の問題で、主権者の過半数が反対していることを強行しようとしている。
日本国憲法の
「平和」、「人権」、「国民主権」
の三原則は、かけがえのない、日本国民共有の財産である。
この根本原則を守り抜かねばならない。
そして、足下では、エボラ熱騒ぎで人権無視の法改正がまかり通るのを阻止し
なければならない。
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