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市場混乱主因はブロック経済化&通貨切下げ競争

2015年08月27日 10時28分19秒 | 政治経済、社会・哲学、ビジネス、

                   

                 「植草一秀の『知られざる真実』」

                             2015/08/26

 市場混乱主因はブロック経済化&通貨切下げ競争

            第1229号

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安倍晋三政権の基本政策路線は

新自由主義

と言われている以外に、

反知性主義

とも言われている。

8月1日付中日新聞に元東大総長の佐々木毅氏が『時代を読む』という論評欄
に寄稿した文章で、安倍政権の反知性主義を厳しく論断した。

佐々木氏は、安倍政権が国立大学の人文社会科学系の学部・大学院に対し、組
織の「廃止」に言及した形で見直しを求めた通知について、

「「社会的要請」を金科玉条のように掲げているが、政策担当者の知的水準の
劣化が漂う。」

「大学という組織は「人間の知的可能性に対する社会の畏敬」に基礎を置くと
いうのが私の見解である。

その強みは現実を次々に知的に乗り越えていくところにあり、政府が「社会的
要請」という枠組みで封じ込めようとするのは不遜な話である。

その限界をわきまえず組織の「廃止」に言及するのは、先進国の政府のすべき
ことではない。」

安倍政権は文系学部の「廃止」を求める通知を出した。

「社会的要請」に合致しない学問は排除するとしているわけだが、この姿勢そ
のものが、まさに反知性主義なのである。

安倍政権にとって「知性」は最大の脅威、敵なのであると思われる。



麻生太郎氏が漢字をあまり読めないことが発覚して話題を呼んだが、安倍晋三
氏も漢字を正しく書けないと揶揄されてことがあった。

文書作成がキーボード操作によることが多くなり、漢字を正確に書くことがで
きない人が増えているのは事実で、この程度の問題をとやかくあげつらうこと
は、あまり意味のあることではないだろう。

しかし、国の重要な職責を担う人々が、その職責に関わる事項について無知で
あったり、事実関係を正確に把握していないとなると話は別だ。

内外の株式市場で株価が急落して、適切な政策対応が求められている。

8月25日の東京市場では、日経平均株価が前日比733円下落して、178
06円で引けた。

8月10日からの15日間で、日経平均株価は3002円、率にして14.4
%も下落した。

中国の株価が急落して、その影響がグローバルに広がっている状況にある。

この事態に直面して、財務相の麻生太郎氏が、内外市場での株価急落について
記者会見で見解を求められた。

報道によると、麻生氏は、

「中国の景気減速懸念に端を発した世界同時株安について「リーマンショック
の時とはまったく質が違う」との見方を示した。

かつての米リーマン・ブラザーズの破綻は市場で予想がされておらず、大きな
ショックとなったが、中国バブルについては「何年も前から言われており、つ
いに来たかという感じで、みんな驚くことはなかったと思う」とを話した。」

と伝えられている。



中国株価急落に関連して、麻生氏は、中国バブルについて

「何年も前から言われており、ついに来たかという感じで、みんな驚くことは
なかったと思う」

と発言したが、この発言は、現実とまったく符合しない。

上海総合指数を見ると、同指数は2007年10月に6124ポイントの史上
最高値を記録したのちに、2008年10月に1664ポイントにまで暴落し
たのち、2009年8月に3478ポイントまで反発したが、、それ以来、2
014年7月に2000ポイント水準に到達するまで、丸5年間の長期株価低
迷相場を続けてきた。

その2000ポイントの株価が、昨年10月ころから急騰し、本年6月に51
78ポイントの高値を記録した。

その大暴騰した上海総合指数が、その後急落し、8月25日には3000ポイ
ントを割り込んだのである。

どういうことか。

中国株価の「バブル」と呼べる状況は、2015年に入って初めて発生したも
のなのである。

2009年8月から2014年7月までの丸5年間、中国株価は長期低迷、右
肩下がりの停滞を続けてきたのである。

これに対して、麻生太郎氏は、

「(中国バブルは)何年も前から言われており、ついに来たかという感じで、
みんな驚くことはなかったと思う」

と述べている。

財務大臣の職にある者が、事実をまったく把握せずに、会見でこのようなでた
らめを、得意顔で話していることについて、事実を知る者は、みんな驚いてい
るのだ。

漢字を読めなくても実害は多くはないが、経済財政政策を所管する財務大臣
が、金融情勢について、事実をまったく把握していないのは、あまりにもマズ
イことだと痛感する。



世界経済の変調は、経済のブロック化と通貨切下げ競争の弊害として表れ始め
ているのだ。

TPPは、米国が21世紀の成長センターであるアジアにおける覇権を中国に
握られることを恐れて、日本を強引に巻き込んで展開されている、経済ブロッ
ク化の典型的な施策である。

日本はアジアの一国として、アジアに軸足を置いた自由貿易体制の枠組み作り
に進むべきであるのに、菅・野田・安倍の三政権は、ただひたすら、米国にひ
れ伏す政策運営を続けてきている。

日本の国家主権を失うことになるTPPに、日本は参加できない。

安倍晋三自民党は選挙公約に

「国家主権を損なうISD条項に合意しない」

と明示した。

現在交渉が行われているTPPには、ISD条項が盛り込まれているから、日
本のTPP参加は論理的にあり得ない。

ところが、安倍晋三政権は、公約を一方的に破棄して、TPP参加に突き進ん
でいる。

TPPはグローバル強欲巨大資本の利益極大化のための施策であり、日本の主
権者にとっては「百害あって一利なし」の施策である。

これを安倍政権が熱烈推進している。



中国がこのタイミングで人民元切下げに動いた、本当の理由は、TPPに対す
る揺さぶりである。

米国議会には、TPP参加に対する反対論が根強い。

米国労働者にとって、TPPが有益でなく有害であるとの認識が強く、労働者
の利害を代表する民主党で反対意見が根強いのである。

そして、民主党のTPP反対勢力は、TPPに為替条項を盛り込むことを強く
求めている。

他国が自国通貨切下げの政策対応を取ることを禁じる規定を盛り込むことを米
政府に強く求めている。

ところが、TPP交渉参加国の多くは、為替条項設定に強く反対している。

この問題が、TPP妥結のひとつのカギを握るファクターなのだ。

中国人民銀行は、この点を踏まえて人民元切下げ実施に踏み切ったのだと思わ
れる。

人民元切下げが、米国内の為替条項設置を求める勢力に、より強い要請を行わ
せる原動力になる。

米国議会が為替条項設定を強く求めれば、TPP交渉妥結が困難になる。

この点を狙って人民元切下げに進んだものと思われる。



しかし、この措置が中国株価急落の引き金を引いた。

人民元切下げで、人民元の上昇神話が崩壊した。

外資の安定的な流入をもたらす基本背景を、人民銀行自身が壊してしまったこ
とになる。

これが、中国株価急反落の主因であると言えるだろう。

全体の図式を俯瞰(ふかん)すると、要するに、経済のブロック化と通貨切下
げ競争が金融市場の混乱と世界経済の停滞を招く原因になり始めていることが
浮き彫りになるのである。

1929年のNY株式市場の株価大暴落を契機とする、世界経済の長期低迷お
よび第二次世界大戦への移行が、経済のブロック化と通貨切下げ競争によって
引き起こされたとの指摘を、いまほど再検証するべきときはないだろう。



21世紀の成長センターであるアジアを軸に自由貿易の枠組みを検討するので
あれば、

ASEAN+3(=日本、韓国、中国)

ASEAN+6(=3+印・豪・NZ)

を基本にすることが正道である。

中国、韓国という、日本の隣国との友好関係構築に全力を注がないことが、そ
もそもの誤りなのだ。

中国、韓国と友好関係を築かず、ただひたすら、米国にひれ伏す外交は、日本
の主権者の利益を損なう、売国の行為である。

そして、米、日、欧が、身勝手極まりない自国通貨切下げ政策を実行しておき
ながら、中国が通貨切下げを実施すると、これを非難するというのも、正当性
を欠く行為である。



そもそも、2008~2009年のサブプライム金融危機は、米国を軸とする
欧米資本が、想像を絶するほど巨大なデリバティブバブルを創り出したことの
副作用として発生したものである。

そして、事態の収拾に苦慮したあげく、強引な超金融緩和政策と自国通貨切下
げ政策で危機を回避した副作用として、世界経済の過度の変動、金融市場の過
度の混乱が生じているのである。

内外株式市場の株価水準は、企業収益水準を踏まえれば、著しく割高な水準に
は位置していない。

短期的な混乱が収束すれば、事態の好転を期待することも不可能ではないと思
われる。

しかし、中長期の問題として、経済のブロック化、通貨切下げ競争の構造が維
持され続けるなら、金融市場は再び動揺し、世界経済が長期停滞に陥ってしま
う可能性が高まるだろう。

国際的な政策協調、弱肉強食から共生への、経済政策目標のコペルニクス的な
転換が強く求められているのだ。





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