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ギリシャ危機が示すイデオロギー対立の尖鋭化

2015年06月30日 11時42分11秒 | 政治経済、社会・哲学、ビジネス、

                   

「              植草一秀の『知られざる真実』」

                              2015/06/29

ギリシャ危機が示すイデオロギー対立の尖鋭化

           第1180号

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週明けの東京株式市場はギリシャと債権団との交渉が不調に終わったことで、
ギリシャのデフォルトとユーロ離脱のリスクを踏まえて株価が大幅に下落して
いる。

日経平均株価の下げ幅は一時500円を超えて20100円台をつけた。

今週は、米国の6月雇用統計が7月2日の木曜日に発表される。

独立記念日の休場で発表が通常よりも1日前倒しされる。

『金利・為替・株価特報』

http://www.uekusa-tri.co.jp/report/index.html

6月29日号にも記述したように、目先の最大のリスクはギリシャ情勢であ
り、最終的な着地はまだ明確でない。

ギリシャはEU等からの金融支援終了を望んでいない。

EU、ECB、IMFはギリシャのデフォルト、ユーロ離脱を望んでいない。

両者の意向は、この点では一致する。

しかし、金融支援を継続するための条件において両者の主張は食い違い、一致
点を見出せないのである。

双方は、自己の主張を通すために、「強気」の交渉姿勢を維持している。

双方がともに「譲歩しない」姿勢を示し続けている、。

交渉が決裂すれば、金融支援は打ち切りとなり、ギリシャはデフォルト、ユー
ロ離脱に陥る可能性が高まる。

このことをギリシャは望んでいない。

また、EU、ECB、IMFも望んでいない。

しかし、双方が自分の側が譲歩することはしたくないとして、交渉がまとまら
ないのである。



これを「チキンゲーム」と呼ぶ。

「度胸試し」とも呼ばれるゲームで、米国の青春映画「アメリカン・グラフィ
ティ」を観たことのある人はよく覚えているだろう。

二大の車を遠くから正面衝突する方向に全速力で走らせて、先にコースから離
脱した方を「負け」とするゲームだ。

双方の度胸が強く、最後までコースを離脱しないと正面衝突する。

勝負には勝つが、双方ともに重傷を負うことになる。

いまのギリシャと債権団は、どちらも譲らず、この方向に向かいかねない動き
を示している。

欧米の報道では、「ギリシャが譲歩しないのが悪い」という論調が目立つが、
これはウクライナ問題でも見られる特徴である。

ウクライナでの政権転覆の動きが生じたときの報道も同じである。

西側の報道は、「ロシアが悪い」というものであったが、そもそもウクライナ
政変を裏側で工作したのは米国と米国と連携するウクライナの極右勢力であっ
たと見られている。

報道は工作を指揮した側から発せられているわけで、この情報だけを鵜呑みに
すると全体の中立・公正な判断をすることができない。

ギリシャの債務問題もまったく同じ側面を有する。

双方に双方の主張があることを忘れてはならない。



ギリシャ政府は債権団が提示する財政再建案をギリシャ国民が受け入れるかど
うかの国民投票を7月5日に実施するので、債権団の判断をここまで猶予して
もらいたいという行動を示した。

これに対して、債権団は6月30日の期限は譲れないとして、この提案を拒否
している。

このまま進むと、ギリシャは6月30日のIMFへの資金返済ができなくな
り、事実上のデフォルト(債務不履行)状態に陥ることになる。

この緊張感から金融市場がリスクを回避する行動を強めている。

ギリシャと債権団との主張のすれ違いの最大のポイントは、財政再建の手法の
相違にある。

ギリシャ政府は企業に対する課税などを通じて財政再建を実現することを目指
すが、債権団は年金給付の引下げ等の実施を強く求めている。

債権団は、企業課税の強化はギリシャの経済成長を抑圧し、想定する財政再建
効果をもたらさないとの見解をも同時に示している。

ここには、経済運営に際しての基本的な立場、主張の隔たりがある。

日本でも財政再建の方法論について、主張の相違がある。

安倍政権は

消費税の増税、法人税の減税、社会保障の圧縮

などを通じて財政再建を果たすべきだと主張する。

これに対して、「弱肉強食政策」に反対する立場からは、

消費税の減税、法人課税の強化、富裕層に対する課税強化、社会保障の拡充

が提案される。

現状では、「弱肉強食派」の主張が押し通されている。

この「弱肉強食推進」の経済政策運営の考え方を「ワシントン・コンセンサ
ス」と呼ぶことができる。

今回のギリシャに対する債権団の一角を占めるIMFの本部もワシントンに存
在し、ワシントン・コンセンサスを策定した重要な一機関である。

ギリシャに対して最も強硬な姿勢を示していると見られているのがIMFのラ
ガルド専務理事であり、ギリシャに対して、ワシントン・コンセンサスに沿う
経済運営を強く求めていると見られるのだ。

このワシントン・コンセンサスの中核を占める経済運営の要諦(ようてい)
は、

市場原理

規制撤廃

小さな政府=社会保障の圧縮

民営化

である。

この「ワシントン・コンセンサス」に対する評価が重要な事項になるのだ。



米国が対日経済政策戦略の基軸に据えているのも、この

「ワシントン・コンセンサス」

である。

「ワシントン・コンセンサス」

という名称で、ワシントンにあるいくつかの機関が政策をまとめているわけで
はない。

「ワシントン・コンセンサス」

とは、1989年に国際経済研究所の研究者であるジョン・ウィリアムソンが
論文のなかで定式化した経済用語である。

1980年代以降のIMF、世界銀行、および先進国金融機関による累積債務
問題への対処として採用されてきた政策対応の特徴を抽出したものである。

内容を精査して、その考え方を客観的に捉えなおすと、これは、米国等のグ
ローバル巨大資本が世界経済での利益を極大化させるための経済政策戦略であ
ると要約することができる。



米国の価値観を絶対善として、この価値観を世界に強制的に植え付けてゆこう
とする、

ネオ・コンサーバティズム

=ネオコン

という考え方がある。

政治の分野における米国による世界制覇の考え方である。

これの経済版がワシントン・コンセンサスであると考えれば分かりやすい。

世界の経済を

市場原理

規制の撤廃

小さな政府=所得再分配の否定

民営化

の原理で運営しようとするものである。

ここから得られるものは、

グローバル強欲巨大資本の利益極大化

である。

経済危機に陥った国に対して、支援と引き換えに「ワシントン・コンセンサ
ス」に沿った経済運営を強要する。

このことにより、経済危機というショックをテコとして活用し、一国の経済制
度、経済体制を、グローバル強欲巨大資本の支配下に組み込むことができる。

こうした戦略が展開されてきたと見ることができる。



ギリシャ政府の主張は、こうした、いわゆる「新自由主義経済政策」に対する
抵抗であるとも言える。

財政再建に際して、年金給付の引下げではなく、企業課税の強化等を主張する
のは、根本に

「財政の所得再分配機能の重視」

という発想がある。

債権団は「財政再建に有効でない」と主張するが、この問題の核心は、両者の
主張の間に存在する

イデオロギーの格差

なのだ。



経済政策の運営において、いま、猛威を奮っているのが

「新自由主義」

である。

市場原理を重視し、

規制を撤廃し、

財政の所得再分配機能を抑制し、

可能な限り政府活動を民営化する。

この経済政策運営が猖獗(しょうけつ)を極めている。

そして、経済危機に陥った国に対しては、金融支援と引き換えに、この新自由
主義経済政策を強要、強制する。

いわゆる

「惨事便乗型資本主義」

=「ショック・ドクトリン」

が適用されてきた。



日本がいま直面するTPPは、形を変えた「ワシントン・コンセンサス」の適
用事例である。

日本をTPPに組み込んでしまえば、日本の諸制度、諸規制を、グローバル強
欲巨大資本の意のままに改変することが可能になる。

TPPの本質は、

「ISD条項による強制性」

にある。

はじめは羊の仮面をかぶっておいても何の問題もない。

羊の仮面でTPPに誘い込み、TPPに正式に参加した後で、狼の本性を剥き
出しにすればよいのである。

現状では、

「羊の仮面をかぶったTPP推進論」

があちこちで撒布されている。

日本の主権者は、羊の仮面の下に隠されているTPPの狼の正体を見抜かねば
ならない。



ギリシャと債権団のチキンゲームは大衝突を起こす可能性を秘めている。

ギリシャの側がその覚悟を固めているとも考えられる。

その場合、ギリシャは打撃を受けるが、衝突になった場合のダメージは債権団
の方がむしろ大きいとの読みが働いているとも考えられる。

IMFの「力を背景とした強硬姿勢」が大きな損失を生み出すリスクに警戒し
なければならない。

 
🔣コメント、オオミ・クライン著「シヨック・ドクトリン」、ミルトン・フリードマンが世界規模でより資本の自由化を進めて行くためには、その国のシヨックを利用して入り込んで行く手法を解決している本が「シヨック・ドクトリン」である。それは資本主義諸国ばかりではなく、共産主義諸国、中国、ロシアでの経済的に危機に入
っている。それは多国籍企業の利益の極大化に有益なのである。
 



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