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この著者の入江昭氏は、私が大学時代に読んだ国際政治学者として尊敬する人になった一例です。
その書く簡潔で分かりやすい筆致、余計な知識は一切書かないでツボを得た知識や情報だけを書くその文章には感嘆せざるを得なかったです。
本一冊を書くのに、何10冊いや少なくとも100冊以上の本を読み、国内の雑誌や新聞はもちろん海外の雑誌や新聞をそれこそ100以上接しないといけないわけで、その中から感銘を呼び起こす文章を書こうものなら、ピックアップのテクニックは非常に大事になってきます。
絶えず読み手のことを考えて、理解しやすい文を書く姿勢が素晴らしいと思いました。
私が入江氏の本を読んだ初めは『新.日本の外交』という本でしたが、これも非常にわかりやすく、重要事項の重さがひしひしと伝わってきました。
私が大学時代に、在籍した大学の国際政治学の教授に、「日本の学者で海外の本に翻訳されている例ってありますか?」と訊いたところ、その教授は入江昭氏を挙げていました。
私は、「なるほど!」と思いました。
これだけわかりやすく、読んでいて重要性がひしひしと伝わってくる学者もそうそういるものではないからですね。 外国人が読んでもわかりやすいでしょう。
この本は、その入江氏が英語版で書いた本を日本人が翻訳したという異例の本なのです。
しかしそういう本でも相変わらず、非常にわかりやすい筆致であることは間違いありません。
日中関係の100年間を扱った本ですが、国際社会の中で日本人が知らなくてはいけない重要なことが書いてあるな、ということがわかった本です。
私が大学時代に、中国の近代化についての講義を履修したのですが、当時の中国の経済は今のように発展しておらず、社会主義を国家が採用したということのみならず、膨大な人口、他民族、多言語という障害が足かせとなって、中国は経済発展がうまくいっていなかった状態でした。
だから、「今こんな状態だから、中国の経済発展は非常に前途多難だな。」ということを思ったものです。
しかし、今や中国は世界2位の経済的な地位を手に入れました。
そうできた理由はいろいろあるでしょう。 私は、このブログで中国の首相になった朱鎔基の偉業を挙げてきました。
朱鎔基
彼の政治的な手腕が、現在の中国の大々的な経済発展の契機になったとみています。
その内容については、莫邦富という中国人ジャーナリストの書いた本が非常に参考になると思います。
しかし、入江昭氏の『日中関係この100年』を読むと、1900年代の前半から、工業発展の潜在的な力の萌芽は見て取れるのです。
その詳細はこの本を読んでいただくとして、これは非常に新たな発見でした。
世界大戦前の、中国の対日本との戦争に敗れたことや、列強による中国の分割などの事例を見ると、中国は工業化に適しない国なんだ、ということを思ってしまいますが、そうではなかったのです。
中国の軍部が分裂して統率力がなくて列強との戦争に敗れた、ということがわかりました。
そのために、中国はその賠償金を払わなくてはいけなくなった…これも中国経済が遅れた原因になっていました。
1945年に第二次世界戦争が終わりましたが、その後中国国内で共産党と国民党が戦争をして、共産党が勝ち、その共産党が社会主義を採用してしまったがために、生産が不効率になり、経済発展が滞ってしまったのです。
要するに不運続きだったのですね中国は。
「資本主義は、国内の発展、成長が飽和点に達すると外部としての外国を必要とする。
そのため、それまで国内にとどまっていた大資本は海外へ進出し、ヨーロッパ以外の国を植民地化していった。 その結果、先進資本主義国同士による植民地争奪戦が繰り起こされたのである。」
これはレーニンによる植民地論ですが、中国と同じく社会主義を採用したロシアの首相になった人の文章ですが、非常に説得的ですね。
レーニン
こういったことも、社会主義を採用するか云々に迷っていた当時は、植民地争奪戦による戦争の後であっただけに、多くの人に魅力的に映ったでしょうね。
私も、当時に生まれたら、社会主義を目指す政党の議員に投票し、社会主義を援護する論文を多数発表していたかもわかりません。
しかし、そのレーニンの理論がいつまでも普遍的に妥当するかといえば、そうではなかったことはのちの歴史を見ればわかるでしょう。
やはり普遍妥当の理論ではなかったようです。
その理論でない社会主義を採用したのが中国発展の妨げになったことは明白で、そのレジームの切り替えが必要になり、そうしたようです。 中国は周知のように、今も共産主義国を標榜していますが、経済体制は市場経済を採用しているのです。 それで経済がうまくいっているのですね。
もし、中国が共産主義を捨てていたら、こんにちの中国の地位はなかっただろうということも言えるわけです。 「はあ?」と思われるでしょうが、以下お読みくださいませ。
現在のように、1国の経済の破たんが他国に波及する、という時代にもなってしまった時代においては、強力な政府が必要なのです。
早急にいや超早急に政府がことを運ばなくてはいけない事態になったら、その際には強力な政府でなくてはいけないのは言うまでもありません。
2007年以降の世界経済危機に際して、中国は50兆円に及ぶ財政出動をし、それで危機を乗り切ることができたのです。
しかし、日本はあのリーマンショックの影響が日本にも波及し、多くの派遣労働者がくびになり、宿舎からも追い出され日比谷公園にそのくびになった人たちの村が出来るほどになりました。
共産主義下の市場経済…非常に興味深い事例ですね。
★その内容については、佐伯啓思氏の『経済学の犯罪』が非常に興味深いです。
興味のあるかたは以下をどうぞ。
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経済学の犯罪 稀少性の経済から過剰性の経済へ (講談社現代新書)
この本が書かれてから後、中国には朱鎔基が国のかじ取りをしました。
彼による非常に強力なイニシアティブによって経済改革が成功したのがわかります。
中国の経済は、それまでの社会主義による官僚主義により汚職や腐敗がはびこり、経済成長を圧迫していたのは、誰でもわかる事態でした。
そういった人たちのリストラは不可欠であるのは誰にでもわかりますが、それを断行するのは至難のわざでありましたが、朱鎔基は1200人中300人のリストラを断行しました。
「部」や「委員会」も40から29にまで減らしました。
のみならず、浦東開発計画を成功させ、中国版の不良債権である三角債問題も解決、そして中国の中央銀行の頭取を朱鎔基が兼任することによって銀行の汚職や横領を多数摘発し、更迭処分を受けた幹部は3000人にも上ったのです。
異常な舵取り能力によって中国の発展はなされることになったのです。
これは、先の莫邦富という中国人ジャーナリストによる本で知ることができます。
その格好の本は『アジア覇権の行方』という本に詳しいです。
★その『アジア覇権の行方』は以下!
↓
アジア覇権の行方―日本を脅かす中国その実力と正体
こういった本を附せて読むと理解が深まって面白いです。
入江氏も、「これから中国は、これをこうこうすれば発展するだろう」などという予測はしていなかったようで、この本にもそういうことは書かれていません。
入江氏もこのような事態になるとは予測できなかったのではないでしょうか?
現代において日本は、中国との関係を抜きにして国家としても人民としても生活していくことはできないのは明白です。
その際に、大切なのは、これまでの100年間に日本が中国にしたことの功罪の確認ですね。
中国への経済協力、領土の分割…etcです。
功と罪、両方の確認ですね。
中国への領土分割、戦争を仕掛けたこと、虐殺等の罪の再認識は当然のことながら、これまでに日本が中国にしてきた功も当然認識していかなくては、対米の外交姿勢のようにこれまでアメリカの経済を支えてきたことについて胸を張って言わなくては、相手の思うツボになってしまいます。
罪の面においても、中国の領土分割をしたのは何も日本だけではなく西洋列強もしたのです。
そのことも胸を張って言わなくてはならないでしょう。
そういったことを知っておくにこの本は格好のお勧めになります!
最初にも書いたように入江氏の書いた本は非常にわかりやすいですし簡潔です。
しかも重要事項が山ほど書いてありますし、他の本にはない事項も多数あり、そのことから好奇心が喚起され、いくらでも読み進めてしまうのです!
また何回も読んでみたくなる魅力にあふれているのです。
それ以上のものはそうそうあるものではないです。
●この本は以下よりどうぞ!
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日中関係この百年―世界史的展望
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日中関係この百年―世界史的展望
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