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私が大学時代に読んで大きく感銘を受けた心理学者、精神分析学者の1人がこの著者である小此木啓吾であることに違いはありません。
小此木氏の分析による現代人の心理状態がまさに「モラトリアム」ということです。
それは、とにかく無事に、事件の責任者にならないようにお決まり通りにみんなと同じ様にふるまうことで先生の役割を果たそうとする。
このような一時的暫定的なあり方が慢性的に続くうちにいつの間にかつくのが、積極的な自己主張を控え、自己選択自己責任を先へ先へと先送りするモラトリアム心理であるということです。
このような人が多くなれば、当然責任の所在がおあいまいになるのです。
このような思考様式になったのは、まさしく現代社会においてであったからこそであるといえましょう。
現代人が、先行き不透明な時代においても、それほど考えもせずに、周りの人間がしているからと何十年ものローンを組んでしまったりするのは、私には信じれませんし(笑)。
それに、フリーターの人数の右肩上がりの上昇などもやはり、このような現代においてこそ発生したのだといえましょう。
1つの組織に入って忠誠を誓い、そこへ渾身する、などということはフリーターを選択してきた人には信じれないのでしょう。
こういった人たちは、やはり組織のみならず、人間関係においても暫定的です。
親友と呼べるような人ができなくても全く気にしない。
人と遊ばない、交流しない、一緒に食事や飲み会等をしない…それでいてなんの心の咎めを感じない。
それはそれで人の人生選択の自由ですが、それでは寂しい感じがします。
最近、『釣りキチ三平』で有名な矢口高雄さんの漫画を見ましたが、そこでは山の村落で暮らす人たちの姿が描かれていますが、そこで暮らす人たちは非常に心暖かい人たちです。
人との交流を最優先にしています。
憧れの人間像の多くがこの漫画にはありました。
こういった人たちの姿を見て、今の生活、特に精神生活や人間関係を見直すきっかけになればなと思います。
この矢口高雄さんの漫画のみならず、いろんな社会学に関する本を読むとわかりますが、第二位世界大戦の戦前までは、大体が自営業だったのです。
なるほど、戦争当時のありさまが分かる漫画としては、やはり『はだしのゲン』があげれますね。
主人公のゲンの家庭はもちろん、他のどの家庭も自営業ですね。
しかし、それ以降はどの家庭もサラリーマン化し、父親が家にいる時間が少なくなったのです。
そんなことは当たり前と言われそうですが、戦前ではそれは非常に珍しいことでした。
父親の後ろ姿を見て、また父親が働く姿を見て子供は育っていたのです。
しかし、現代のサラリーマン社会においては、その機会がほとんどありません。
自我理想の伝達、継承こそアイデンティティ型人間(これは先のモラトリアム人間とは正反対の心理的構造の人間)の最も重要な営みであったとするならば、家族におけるこのような父親の喪失は文明論的な視座から見ても、人々の心がモラトリアム人間化する最大の要因の1つである、ということです。
家庭を守ったり、支えたりする力を失った父親像の崩壊を体験する息子たちは、より大きな、より強い父親像を心の中に描こうとするのです。
父親にとってかわってしっかりしなければという意気込みが=「エディプスの勝利」なのです。
なるほど、精神の形成において父親の役割が非常に重要であったのは、これまでの心理学的な研究でわかりました。
でも、今のサラリーマン化した現代社会において、戦前のようなどの家庭も自営業になるように戻すことが可能か?と言われれば不可能に近いですね。
であるならば、大人たちが各家庭の子供たちの見本になるように規範的な行動をしていかないといけないことが分かりますね。
そのことを意識していきましょう。 人と人との関係はあくまで一時的暫定的なもので、あまり深く巻き込まれて自分を失うのは困る。
何か特定の人物との一体感や忠誠心を求められるのはイヤ、というモラトリアム心理の現代人にとって自分本位の暮らしこそ最も人間的で幸せという心理なのです。
こういうモラトリアム心理の中で育った世代のその子供たちは、「聖職者の聖なるものへの経緯も大学の教師たちの学問に対する憧れも失われ…ただのおじさんおばさん、あるいは男性、女性にすぎない」ということになってしまうのですね。
「国家、社会に対する帰属意識が希薄でみんな自分本位になってしまった。 特定の歴史、社会とのかかわりの中でアイデンティティを確立し、そのアイデンティティを全うする生き方を求めるアイデンティティ人間がいなくなってしまった。」 と小此木氏は書いています。
しかし、これは現代人に対する警鐘といってもいいでしょう。
人は憧れを持つと非常に生き生きと過ごすことができるのです。
生活に張りが出て、これ以上ないくらいにはつらつとしていくことができるのです。
それは、そういった憧れの対象がなかった時期と、そういう対象ができてからの時期を比較すると、そういうことが断言できます。
そういう対象を見出すためにはどうすればいいか?
とにかく本を読むことですね。
そうすることによって、そういうことが可能な人が現れるのです。
「この人の新刊は絶対に読みたい!」
「この人の本は全部集めたい!」
自然と思えるような人が現れたら、その著作家こそ、その憧れの対象なのです。
それはどんなジャンルでもいいのです。
スポーツや技芸で名をあげた人、宗教者、心理学者、社会学者、経済学者、政治学者なんでもいいのです。
人によって興味の対象は違いますし、好みも違いますからね。
ですから、私の憧れの対象を挙げて、「この人を憧れの対象にしなさい!」なんてことは言いません(笑)。
でも、憧れの対象を持つことで、人生が張りのあるものになり生き生きとなることは間違いはないですからそのことは断言しておきます。
またこの本では、「アダルトチルドレン」について言及しています。
これは80年代のアメリカにおいて作られた概念用語で、「今の不幸は親のせいなんだ」「親の育て方が悪かったから今の自分は不幸なんだ」「今自分が不幸なのは親が自分を虐待したからだ」と考える子供たちのことをさすのですね。
そう考える子供たちが多く出ても何の不思議もないでしょう。
子供のパーソナリティ形成には親の影響が多くかかわりますから。 やはり科学の発達で、そういった家族社会学、家族心理学といった本をたくさん読めば、子供は親からの影響を受けて育ったことに思い至り、今不幸ならば、「親のせいだ!」と思うようになって当然でしょう。
また逆に幸福ならば、親に多大な感謝の気持ちが芽生えるでしょう。
このように、科学の発達によって、恨みもされるし、逆に感謝もされる機会が増えるのですから、親になろうとする人、今親になっている人は、その子供に対して多大のいたわりを施さないといけないですね。
そういう心のない人は絶対に親になってはいけないでしょう。
そのことを強調するに格好の事例が、この本で提示されています。
アメリカの家庭の半数は離婚してしまうのです。
離婚せずにずっと同じ家庭で暮らすのと、離婚を経由した家庭のどちらが幸せか?
明白ながら前者のようですね。
後者の家庭としては、再婚家庭はやはり血のつながりのない継父や継母による子供虐待、連れ児に対する継父による近親姦など多くが発生します。
それは事はアメリカだけでなく日本でもありますね。
再婚家庭はやはり血のつながりがないために愛情が注げない。
それゆえに虐待や姦通などが頻発してしまうのは、再婚を経緯した知り合いの例や、内田春菊のノンフィクション小説の『ファザーファッカー』を読めばわかりますね。
それのみか、人心の荒廃もすさまじいのです。
そういう家庭では、中学生のアルコール依存、麻薬、エイズ罹患などが往々にして起こるのです。
ですから、こういった事例からも、結婚や離婚といったものは慎重にしていかなければならないことは言うまでもないでしょう。
その時の、衝動だけでしてしまうのはやはり論外なのです。
こういったことを鑑みるに、やはり現代人は心理学についての本も多く読むべきと、私は大学時代に思いました。
そして、その思いに今も変わりはありません。
いたずらに近代以前の過去の人間の精神生活や田舎の村落生活を賛美するわけでもないです。
しかし、そういった人間たちからは学べることはいくつもあるのですし、そこから学べるものは学び現代の生活に取り入れていく、そんな姿勢が必要であるなと感じたのです。
また、今の現代化した人間にも誇りに思っていい部分も厳然と存在するのですから、そこも意識していくべきでしょう。
そんなことを考えてしまいました、この本を読んで。
現代の精神生活に疑問を持ち、それについて打破するような考えを持ちたい人には読んでもらいたい本です。
●この本は以下よりどうぞ!
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◆その他、小此木圭吾氏の本の紹介欄