佐藤正衛 『北アジアの文化の力』

2018-02-18 14:18:38 | 宗教と社会

この本を書いた人は、勉強もかなり重ねているのがわかりました。

 

非常に筆致が読みやすくてよかったです。

 

北アジアでは、主にモンゴルにおけるシャーマンが天上界における神との交流を通して、その言葉を、地上の人たちに伝えて、その言を実際の生活に活かすようにしている生態の詳細を、著者自ら足を運んで見聞した内容と、他の著書を自身で読み、調べた内容を綺麗にまとめて論じてあるので、興味深く読みました。

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近代まで、北アジアにおける地方では、世俗的権威と聖的権威は未分化で、氏族や部族の長になるのは主にシャーマンであったようです。

そういう宗教的な生活は、現代の日本人とくに都市生活者にとっては、眉唾モノに写り勝ちですが、これまでの人類の歴史を垣間見ると、そういった宗教的な側面は、無視できないはずというモラルですから、坦懐な精神で読ませてもらいました。

私のような本をたくさん読んできた人にとっては、どうしても科学的に思考がなりがちですが、やはり無視できない側面を宗教は持っていると思います。

この本の2ページに日本は「民族の形成と文化の創造において、北アジアから受けた影響は決して無視できない」と書かれていますし、そういう側面にも関心を持つ人は決して私だけではないでしょう。

北アジアのシャーマニズムはインド、イランなどの南方文化の波にも表れており、複合的な発展を遂げた文化であるようです。 また、天神の意思には君主といえども無条件に従わねばならない神聖なものであった。

そのお告げは、テムジン(チンギス-ハーンの本名)が高原統一の事業へ踏み出す一大画期となったのだといいます。

ここを読んで、興味深くなった人は多いのではないでしょうか?

ここまで当時のひとたちにとってシャーマニズムは大事だったのかということですね。

シャーマンが巫儀において動物に化身するという表象が、近代になっても北アジアの人々の間で生き続けていたということですね。

その巫儀において、あたかも鳥となったように飛ぶ真似をしたり、牝牛となって角で突いたり蹄で地面を引っかいたりするなど、やってきた精霊と同じしぐさをして見せたり、また彼らと同じたがわぬ声を出すことを証言した例は数多いというのです。

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天神は存在であり、人の道を外さず、道理に生きるもののみを愛しみ恩寵を授けるのである。

人々は天神に愛でられるかどうかを物事の判断と行動の基準とし、己を厳しく律した、ということですね。

ここを読んで私は非常に感銘を受けました。

人間は私を含め弱い存在であり、自分の意思の赴くまま行動していては悪い方向へ流れていく危険性を宿しているわけであり、そうならないためにもやはり規律が必要なのではないかと思われてならないのですね。

そのために、やはり人間を超越した神や仏といった存在の措定は必要でしょうし、なくてはならないでしょう。

そういうものを精神の中に措定することで、人は傲慢になることを避けることができるでしょう。

クリスチャンは、自分が神に見られていると思っているゆえに、キセル乗車ができないようですね。

こういった宗教的な効能もまた無視できないでしょう。

しかし、そういった事は、本や教育による手段でも代替できるということもいえるでしょう。 どちらを取るかあるいは両方を取るかは、人それぞれでしょう。 私は両方を取りたいですね。

呪術的な説話を創造し、それによって共同体の維持をはかった。

中世モンゴルの歴史書である『元朝秘史』には、

「天幕の戸口の上の窓から「光る黄色の人」が月の光を伝うように入ってくると彼女の腹をさすり、、その光は腹にしみいっていった。 そして出ていくときは、月が沈み太陽が昇り始める狭間の光の筋にそって黄色い犬のように這い出て行った。そうこうするうちにアランコアは懐妊し、夫がいないのに三人の男子を生んだというのである。 このうち一番末の子は、ボドンチャルと名付けられた。」

このボドンチャルこそが、モンゴル帝国創建を成し遂げたボルジギン氏の始祖であるというのです。

この『元朝秘史』は歴史書でありながら、史実以外にもこういった説話的な話が多く盛り込まれており信憑性に欠ける面があることは事実ですが、しかし、今はまだしも当時のような本などの文字の伝達が発達していなかった当時において、このような巧みな表現がなされていたということは想像しずらいことは、明白でしょう。

ゆえに、この話は実際に起こったことを、そのまま書いたのではないかと思われてならないのですね。

やはり天神からの思し召しがあったのではないかと。

またシャーマンは、千里眼(約1キロ四方で起こることは何でも見通せる)を持つ存在として認識されていたようです。

そう思える人は、信じたらいいですし、信じたくない人は信じないでいいでしょう。

私はそういう面に信憑性があると思ったので、更に読み進めてしまいました。 そういった話が、民族の結束を高めるのにかなり役立ったことは間違いないでしょう。

私が推奨する文字による人の律しだけでは、当時上手くいったかどうかは非常に疑問ですね(笑)。

北アジアの諸民族の文化的伝統が北方の森林文化、南方の草原文化という2つの文化に由来していることは忘れてはならないでしょう。

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168から232ページまでに長い心理社会学的な詳説がなされていますが、これはユングやフィンタイゼンといった著名な心理学者の学説の説明であり、ほとんど北アジアのシャーマンについての関連付けもなく述べられているだけなので、読むのに大変な気苦労をしてしまいました(苦笑)。

これは、この本の著者の学をひけらかすためなのか、あるいは紙数稼ぎのためなのかはわかりかねますが、本題の趣旨との関連付けがなければ、読んでもほとんど意味をなさないのは言うまでもないでしょう。

そして最後に書いてある本の要旨についても、そういった著名な学者の言葉を引用しているので、残念至極でした。

しかし、その前の個所に関しては意味がありますので、そこについてはお勧めしたいと思います。

●この本は以下からどうぞ!

北アジアの文化の力―天と地をむすぶ偉大な世界観のもとで

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