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この本は、知識人向けの講演と科学を大学で学ぶ学生向けの講演の内容を集めたものです。
この本を読んで改めて科学や言論の大事さがわかりました。
この著者は、科学というものの、その持っているしっかりとした体系性、その堅固さ、未知の課題に立ち向かう姿勢の大事さについて強調しています。
問題があろうとなかろうと、そのうち何とか国家がしてくれるだろうとか、この社会体制が進んでいけば何とかなるという考えを批判しているのです。
「資本主義社会では、労働の目的が労働する人間の手から奪われてしまいますし、人間が孤独になったり、理性と情念が分断されたり、持続する意思が弱められたり、行動の展望が見失われたりすることが珍しくありません。」(P.113)と書いています。
知識人の基本的姿勢として、現代社会を描写し、分析して、そこから問題点をあぶりだしているのです。
この本が出されたころはまだマルクスの思想が大手をまかっていたころで、この著者もその影響が少なからず受けているなという気がします。
マルクスの思想の根幹は、資本主義批判ですから、その本をたくさん読んできた人は、当時の社会を分析すると、どうしてもマルクスの思想を思い出し、その批判を重点的に指定しまうようです。
そういう知識人は、この人のみならず、日本でも、あるいは欧米の知識人にも多くいました。
1つの思想で、ここまで変えてしまうからマルクスはカリスマ的と言わざるを得ないですね。
マルクス
ここまで天才的でカリスマ的な知識人は非常にまれですね。
しかし、この著者が書いている「現代は、科学技術の高度な発展によって人間が機械化し、動物化し、人間が自己疎外化に陥っている」とか、「私たちが受けている抑圧は、二重三重なのでして、政治上の民主主義的権利の問題でもそれは絶えず制限されそうになります。」とかいうように当時の資本主義社会を批判していますが、ことを資本主義社会だけに限定しすぎです(笑)。
「人間が機械化し、動物化し、人間が自己疎外化云々」については、何も資本主義社会だけでなく、どんな社会でも労働を提供し、それでお金(賃金)をもらう社会では当然にありますし、「抑圧」云々も資本主義社会特有のものではありません。
確かに「過労死」という言葉が出てくるほど、仕事に打ち込まなくてはいけないほどの重労働をしている会社も現代の日本や当時の日本にもありますからそれについて批判をしてよき状態になるように知識人たちが論述をしていくことも当然重要でしょう。
でもそういう会社にいても、家族との時間や趣味を削ってでも仕事に打ち込んでいる人もいますが、それはその人の価値観に負っているところが最大なのです。
私は、そういう家族との時間が作れない、趣味が全く味わえないほどの忙しい会社だったらすぐに辞めますが、そうでも辞めない人は、「家族との時間がなくても、少なくてもいい」という価値観が大きいので辞めないのであって、大事なのは、その状態から脱するように行動を起こすように当事者がすることが最重要なのです。
こういう会社があるから、資本主義社会はだめだ!というような論述をすることは誤りなのです(笑)。
務台理作というかたも、岩波新書で、そういう論述をしてましたね、「日本は社会主義に移行するべきだ」という論述を加えて。
そういう家族との時間がほとんど作れない会社が少なくなるよう、あるいはなくなるように知識人が論述をしていくことは、一般的な価値観で言えば自然でしょう。
しかし、今も当時も、そういう状態から脱する方法はありますし(例えば、ビジネスや不動産、株式などへの投資で利益を得て権利的収入で暮らす)、それを勉強し、行動に移していくことができるのです。
だから、資本主義社会だけの問題ではないのですね、そういう家族との時間が作れない、趣味が全く味わえないほどの忙しい会社は。 その人の価値観が一番大事なのです。
しかし、この著者の文には、今も頂門になりうる論述がなされています。
大衆社会になると、大衆は政治的に無自覚になる。
近代化によって官僚化は避けられない。
ということを書いておられますが、これは現代の日本にも起こっていることで、大変に重要な事であると思います。
そうならないようにこういう言を思い出し、日々の行動の指針にしなくてはいけません。
人間らしさの回復として、
1. 民主的な組織
2. 科学
この2つを重要事項としてこの著者は挙げています。
1つめの民主的な組織として、労働組合を高く評価しているのです。
これは、社会主義の理念から発生したものですね。
「こんにち、学生が全力を尽くして取り組まなければならないことは、自分自身を優れた知識人になるように一貫して形成すること」として、心がけとその方法論を詳しく書いています。
また、「人々を心から大切にし、一人ひとりの前進を心づかう豊かな心を持つ人間でなければ組織などできない」とも書いています。
やはりこの著者は、人の心や生活が良くなるように望んでいた非常に心優しい人なんだなあということがありありとわかります。
そういう人が、目指す社会として、安保条約下の大学教育を批判しているのです。
そして付言として、この著者は、現代社会において「人間らしく仕事をする能力、労働能力が形成されねばならない」とも書いています。
また、貧困問題、未開放問題、障害児問題などを挙げて、これらの問題に立ち向かう基本的な能力と探求の方向を学ぶことの重要性を強調しているのです。
非常にその通りですが、これには一筋縄ではいかない障害があるのです。
貧困に対しては、豊かになった人には、そういう人たちの心の叫びや大変さというものは、文字で分かっていても、体感することはできないのです。
体感できないからこそ自分の問題として考えることができず、その問題解決策を模索していこうという気が起きにくいのです。
ことは未開放や障害児問題も同様で、そういう人が自分の友人の中や、親戚の中にいれば、その大変さが実感でき、その解決に向かって行動することができるのです。
しかし、そういう人がいない人が、必死になって取り組もうという気が起きないのは明白です。
やはり現代社会においては、問題が必然的に生起します。
その際に、その問題点の解決にむかって多くの人が行動していくことが大事です。
多ければ多いほどいいのは言うまでもありません。
その問題点の発見と具体的な方法論を学ぶのがほかならぬ大学なのです。
「大学での講義こそが大事!」そう私は在学中に思い、今でもその意見に変わりはありません。
私の行った大学は、中以上のレベルであったにもかかわらず、講義に出ている人は半数以下でしたね。
それで、年末の試験時だけ勉強する。
しかしそのように一夜漬けで得た知識など、試験終了後にすぐ忘れてしまうことは間違いありません。
それでは科学を学ぶ意味が…と残念でした。
それは仕方のない面があるのは否めません。
アメリカの哲学者であるウィリアムジェイムズが言うに
「この世は2つのタイプの人間がいて、1つは、この世界を多元的に捉える人。この人は、リンゴもいいし、蜜柑もいいし、バナナもまずくはないし、パイナップルも結構だ。その間に序列をつけるわけではないし関係をつけるのでもない。いろんなものが並列状態にある、というふうに捉える立場の人。 もう1つは、この世界は最後は1つの絶対的な価値に収斂していって、その体系の中に諸々のモノがちりばめられている、というふうに捉える立場の人。 この2パターンに分かれる。後者の方が圧倒的に多い。」
ということです。
数ある情報を自ら進んで取り入れていく人と、世界は1つの原理によって説明できるからわざわざ情報を取り入れる必要はないしそういう行動はウンザリだ、というパターンということですね。
それは日本がいくら高学歴化しても変わらぬ事実でしょう。
ウィリアムジェイムズ
ですから、テレビ、ラジオ、雑誌、新聞、本といった媒体で市民を覚醒するように情報を流しても、それに触れた人全員を啓発することは不可能でしょう。
であるから、それだけに頼らずに、自分が、そして社会が良くなるように行動する。
また自分の生活が良くなるように努力する。
この2面性が大事なのだと思います。
市民全員の生活が良くなるように政治家に頼む…これは叶わぬことだと思います。
ロバートキヨサキが曰く、 「自分が豊かになるように政治家に頼むよりも、自分で豊かになるように努力する方が早い」ということです。
ロバートキヨサキ
私もその意見に賛成です。
でも問題点がいつになっても生起するわけですから、その問題点の提示も当然多くの人にしていくことは大事でしょう。
それによって、行動をしていく人が現れることは間違いなくおこるわけですから、そういう人が多くなれば多いほどいいことは言うまでもありません。
でもそのことによって、その内容に対して全員が覚醒するわけでないことは心していかなくてはなりません。
先の、2面性の前者である「自分が、そして社会が良くなるように行動する」ことの重要性をこの本を読んで実感し、人生の指針にしていっていただけたらなあと思いました。
●この本は以下よりどうぞ!
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現代の知識人 (1971年)
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