自転車操業日記

自転車と組版ソフトについての備忘録。

本日操業。

2011-04-05 23:31:37 | 泡沫
現金なもので,あったかくなってきたからミニヴェロも辛くない。
今週は夜桜ウィークだな。

有斐閣という版元さんが「法学教室」という雑誌を出している。
えらい学者さんの随筆みたいなのが載っていて,そこに「何か理解したと思ったら,その分野には関心のない恋人に理解できるように説明してみろ」みたいなことを書いてる人がいた。なぜ「恋人」なのかというと,恋人なら,自分に興味はなくてもあなたの話をまじめに聞いてくれるだろう,そういう人に理解させることができないなら,ちゃんと理解できていないのだ,ということだった。ちょうど同じ頃に読んでいた『猫のゆりかご』に似たような(こっちは3歳児だけど)ことが書いてあって,おかしかったので覚えている。

ちょっと前の話だけど,気象学会が原発の放射性物質の拡散予測を公開するな,と会員に要請した,という記事を見かけた。科学者のやることかよそれが,とすごくがっかりして,上の話を思い出したのでした。

アタシは自然科学者を尊敬しています。敬愛しているといってもいい。机上の空論をもてあそぶのではなく,どこかで必ず,ごまかしのきかない自然現象と切り結ぶ人々。だからすごく悲しかったよ。
情報を公開することでパニックを引き起こすというのなら,そしてそれが意図とちがうというのなら,情報の出し方が悪い。わかってもらえてないんだ。

放射線被曝についてリスクって,報道ではほとんど見かけてない。何が起こるか分からなくて,ただ「カラダニワルイモノ」がばんばん垂れ流されていて,ここのお水で出た,ここのお野菜がこうだった,だから赤ちゃんにお水をあげたらダメ,お野菜は出荷停止,なんて言っている。まるで即効性の毒物みたい。
たぶん,アタシたちは影響が「ある」か「ない」かしか聞こうとしていない。それは,最悪を避けようとするからなんだろう。「なし」なら最悪は絶対に避けられるってことはわかりやすい。ただ,「ある」はそうじゃなくて,「最悪」かもしれないし,「けっこう困るレベルで悪い」かもしれないし,「悪いんだけどほとんどわかんない」ですむかもしれない,って幅があって,しかもそれぞれが同じ可能性で起こるわけではない,というのは伝わりにくい。報道する人,説明する人は,まずこのへんを理解してほしい。
そのうえで,予測される危険の範囲とそれを避ける方法を考えて,どうするか判断するための材料を示してほしい。自分の健康や生命に関わることなんだから,「恋人の話」どころじゃないくらい,耳を傾けられると思うのだけど。

「ただちに影響はない」って,「将来的には不具合がおこる(たとえばガンとか白血病とかを発症する)可能性が上がる可能性がある」って感じなのかな。いまは影響ないけど,将来起こりえる可能性は0じゃないというような。でもこれって,ふつうに生きていても同じでしょ。ただ,これまでの環境でふつうに生きてた状態より,その可能性が上がることが問題なのでしょ。

なのに,じゃあどのくらい上がるのかみたいな話は全然ない。どういうメカニズムで上がるのかについての説明もない。要は,突然変異誘発物質にふれるっていうことなんでしょ? で,触れたからといって必ず変異は起こるわけなくて,でも起こる確率は線量に応じて上昇する,っていう理解でいいのよね。だったら,ほかの変異源との比較で話はできると思うんだけど。同じくらい確率を上げるものを示して,これと同じくらいやばいですって。そういえば,自然線量がどのくらいかっていうのも,あんまり見なくなったねえ。もっとも,ナマの数字を示されても,なんかよくわかんない。単位もわかりやすいとはいえないし。
メカニズムについては進化系の研究者呼んできて分子時計の話してもらったらどうだろう。自然被爆ってどういうものかの説明にもなりそうだし。
お医者さんには日常的な例ではなしてもらったらわかりやすい。いまはガンは早期に発見できれば治る病気だっていう話も聞く。検診の大切さを説く健康情報はあふれているのに,それに関連づける説明すらない。

データに基づいて,起こりうることを予測して,起きてしまったときに対処する方策を提案するのも,科学者の仕事だと思う。
なのに,そういう情報は一切なくして「ほーらこういうふうにここまで拡がるんだよ-」って言われたら,触ったら死ぬ毒物を恐れるようなことになるのは当然でしょう。何のための予測なのかを考えればわかりそうなものだけど。予測のための予測,じゃないのでしょ?
放射線のリスクを説明するのは気象学会の役割ではない? じゃ,説明できる人といっしょにやればいいだけのこと。
情報を隠すのは疑心暗鬼をあおるだけ。後出しでわかってることを全部出しても,「まだ何かかくしてるんじゃない?」っていわれ続けるよ。狼少年になりたいのかな。

本をつくれないかしらと思ったけど,これは今すぐやんなきゃならない。原稿作って校正して,なんてのんきなことやってられる話じゃない。できるだけ敷居が低い方がいい。テレビでもラジオでも,専門の人を集めていいコーディネイターといっしょにはなしを聞くような企画をしたらどうなんだろう。科学番組作りのノウハウをうまく生かせるのではないかと思う。バラエティとかも。

気象学会の対応も悲しいけど,文系のアタシとしては,1000年とかそれ以上続いてきた地域の歴史がぶっつりと絶たれてしまった,っていうことも,すごくすごく悲しい。たぶん,だんだんにその痛みが強くなるような気がしている。

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