玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

万能薬、あるいは大さじ一杯の砂糖

2008年10月29日 | 「水からの伝言」
アメリカの小説を読んでいると、あちらの人は体の具合が悪いとき「アスピリンさえ飲めば大丈夫」という感じで気軽に飲みまくっている印象を受ける。頭が痛いといってはアスピリン、疲れたといってはアスピリン。あくまでも小説を読んだだけなので実際どうなのかは知らない(無責任)。
アメリカ人は「万能薬」好きなのか。そういうものがあればそりゃ便利だよね。
でも、本当になんでもかんでもアスピリンで大丈夫なの?

kagaku331: あれっと思った話
市の広報誌に,廃油から石けんを作るという記事がありました。
 その中で,「あれっ!」と思ったことがありました。

 廃油石けんは,良くある話で,油をそのまま捨てるとCODを上げるので,使える物にするという発想は悪くないです。
 しかし,油を石けんにするには,アルカリ性の水溶液と反応させなければなりません。
 水と油ですから,それをうまく混じり合わせるのにアルコールや洗剤など,界面活性剤を加えます。
 そして,加熱してかき混ぜます。
 この時注意しなければならないのは,かき混ぜている液がはねたりして皮膚に触れないようにすることです。
 温度の高いアルカリ性の水溶液は,タンパク質をとかすはたらきが大きいからです。

 広報誌には,その石けんづくりの時にEM菌を入れるので,環境浄化にも役立つことが期待されるという話がありました。


アメリカのアスピリンほどではないが、日本には「EM菌」なるものがあって愛好者はどこでもなんにでも混ぜたがるようだ。
もっとすごい(ひどい)例が幻影随想で紹介されている。

幻影随想: ニセ科学の総合商社としてのEM

セラミックの材料にEM菌を混ぜるとありがたい効果あるのだとか。
黒影さんが突っ込んでいる通り完全にナンセンスなのだが、たぶん愛好者の耳には届かないのだろう。
鰯の頭も信心というかなんというか。

「なんにでも混ぜたがる」という点で、ある種のおせっかいな人たちを思い出した。
私が料理をしていると「あ、これを混ぜるとおいしくなるから。絶対だから!!」とか言って横から手を伸ばしてくる人がいる。「化学調味料愛好家」だったり「砂糖好き」だったり「醤油マニア」「バターファン」「蠣油信者」「豆板醤教徒」「オリーブオイル友の会」などなど。
味の好みは自由だから、自分の家で自分が料理するときは甘かろうと辛かろうと何でも好きに入れればいい。
でも人が料理してるときに横から手出しするな!うっとうしいんじゃボケ!!(なぜか関西弁になる)

人間の味覚の基本として「甘み」と「油」が好まれるのは確かだ。料理の本にも「隠し味として砂糖を少し入れる」とか「カレーの仕上げにバターを大さじ一杯」などと書かれている。
とはいえ、「それさえ入れればおいしくなる」とか「たくさん入れれば入れるだけ良くなる」というものでは断じてない。一人前のドレッシングに一つまみの砂糖を入れるのは結構だが、大さじ一杯は悪夢だ。カレーにバターを入れるのはいいけれど、肉じゃがには合わない。

EM菌なるものの場合は、適切に使えばある程度の効果はあるようだが(その辺が微妙なところ)、アメリカ人のアスピリンのごとく気軽に万能薬として使いまくっていいものじゃない(「EM菌投入は河川の汚濁源」kikulog)。
世の中に実際に万能薬があれば便利だけど、多くの場合「万能と信じたいから万能と思い込む」確証バイアスが働いているようである。

EM菌(万能薬)愛好家の「いつでもどこでもEM菌」の安直さは「おいしさの秘訣は隠し味の砂糖」という情報(これ自体は事実)を聞きかじった料理の素人が「とにかく砂糖を入れればおいしくなるんだ」と思い込むようなものではないか。
煮込み料理に砂糖、は別にいいけれど大量に入れてギトギトに甘くする。玉子焼きならともかくオムレツにもスクランブルエッグにも砂糖。ゆで卵にも砂糖を付けて食べる。果ては冷奴や刺身にも砂糖をふりかけて「おいしいおいしい」と喜ぶ。
…さすがにそこまでやる人はいないだろうけど、もしいたら味覚障害はもちろん糖尿病が心配だ。そんな食生活を続けていたら体をダメにしてしまう。

伝え聞くEM菌愛好家の行状は「なんにでも山盛りの砂糖」と大差ないように思われる。
特に問題なのは、EM菌発明者の比嘉教授自身が「いつでもどこでも(大量に)」という普及戦略をとっていることだ。自分の発明品が有用だと信じ、広く使ってほしいと願う気持はわかるが、それにしても度が過ぎる。
小林カツ代やグッチ裕三が「きょうの料理」で「どんな料理にもたくさん砂糖を入れましょう」「入れれば入れるだけおいしくなります」などと言えば大ひんしゅくだが、EM菌の場合それに近いことがまかり通っている。困ったものだ。

ちなみに、北海道(道東)ではアメリカンドッグに砂糖をまぶして食べるそうである。秋田では納豆に砂糖を混ぜるとか。
私の住んでいる地方でも、家によっては赤飯に水煮した小豆ではなく「甘納豆」を入れることがある。初めて食べたときは衝撃的だった。