玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

やっぱりビデオ流出犯を擁護しません

2010年11月11日 | 日々思うことなど
どうやら世間ではビデオを流出させた(と自白した)海上保安官を擁護する声が高いようだが、血の気の薄い私には理解しがたい。
私にとって今回の「流出」事件がよろしくないのは明白だ。治安を預かり、機密情報を扱う公務員としての基本的な倫理をないがしろにしている。たとえるなら、銀行員が客の金を勝手に流用するのと同じくらいダメだ。どんなに気に入らない客だろうと、流用を正義だと信じたとしても、そんなことを正当化したら業界全体の信用に関わる。「流出」海上保安官を擁護する人は、彼以外の真面目な海上保安庁官の顔に泥を塗っているようなものだ。

「流出」を擁護する論理には二種類あるはずだが、どうもごちゃ混ぜにされている。
まず一つ目は、「流出ビデオは特に秘密にする価値がないものだ」「公開は当然だ」とするもの。私が擁護するとしたら(実際は擁護しないけれど)こちらの論法を使うだろう。専門家の中にもこの点から「流出」海上保安官を起訴し有罪に持ち込むのは難しいとする見方がある。
だが、この論法なら「流出」海上保安官を英雄視するのはおかしいのである。「何も秘密にすることじゃない」「ビデオを入手した誰でも(公務員でも)Youtubeにアップして問題ないし、そうすべきだ」ということであれば、件の主任航海士はたまたま最初にアップロードしただけで、もてはやすほど特別でも偉くもない、ということになる。
二つ目の論理は「これは内部告発だ」とするもの。政府が悪事を働き国民に情報を隠しているような場合であれば、私も大いに内部告発を賞賛する。だが、典型的な内部告発は嘘を暴き、所属組織にダメージを与えるものである。今回の流出ビデオはその意味で内部告発とは言えない。衝突事件の後で前原外相は「ビデオを見れば中国側に非があることは一目瞭然」と語っていたが、実際にビデオを見た国民のほとんどが同じ感想を抱いたはずだ。政府はビデオの画像を公表しないことを選択したけれど、別に嘘をついたわけではない。
仮に流出が内部告発だとしたら(無理があるが)英雄視されるのも不思議ではない。正義のために組織と同僚を裏切ってわが身を危険に投じるのだから大いに賞賛に値する。
最初の論法(ビデオを秘密にする意味がない)と二番目の論法(内部告発であり英雄的だ)はほとんど矛盾しているのだが、「流出」海上保安官を擁護し賞賛する人たちはちっとも気にしていないようだ。そのあたりやはり擁護論は感情的で危なっかしい、と思ってしまう。

仙谷氏:海保職員による映像流出、故意なら由々しい事案(Update2) - Bloomberg.co.jp
 仙谷氏はこの職員への対応について「犯罪がもし発生しているとすれば、刑罰も含めて、行政罰もしかるべく行為の質と量に応じて行わなければならない。徹底した捜査に基づいて処分を行う必要があれば行う」と指摘した。

  世論は職員に寛大な措置を取るよう求める声が多いとの質問に対しては「国民のうちの過半数がそう思っているとはまったく思っていない。いろんな事件が起これば、けじめのついたしかるべき措置をしてもらいたい、という健全な国民が圧倒的な多数だと信じている」との見方を示した。


仙谷氏はやたらと強気だが、私には「けじめのついたしかるべき措置をしてもらいたい、という健全な国民が圧倒的な多数」とも思えない。人数的には「しかるべきけじめ」論のほうが多いとしても、人数と熱意を掛け合わせたエネルギー量では「寛大な措置を」「罰するな」派のほうが上回っているのではないか。仙谷氏がsengoku38処罰に熱意を燃やせば燃やすほど世論はsengoku38擁護に傾きそうである。

2002年に当時の田中真紀子外相が更迭されたときのことを思い出してしまう。あのとき世論の圧倒的多数(たしか8割くらい)は真紀子外相支持だった。私は「あんなメチャクチャな人を外務大臣にしておくなんてとんでもない、更迭は当然だ」と考えていたから気が滅入った。
あのとき田中氏は「もっとヤレヤレ、と仰るから、前に進もうと思ったら、どうもつっかえて進めないんですよね。で、後ろを振り返ると、スカートの裾を踏んでいたのが、けしかけた張本人だった」という名(迷)セリフを残したが、「流出」主任航海士氏の「映像は元々国民が知るべきものだ。国民の倫理に反するなら甘んじて罰を受ける」という発言も同じくらい「カッコいい」。

参考 海上保安庁に『英雄』は要らない-蒼き清浄なる海のために

ビデオ流出犯を擁護しません

2010年11月10日 | 日々思うことなど
「尖閣ビデオ」流出事件の真実がようやく明らかになりそうで結構なことであります。

【海保職員「流出」】名乗り出たのは40代の主任航海士だった…否定一転、神戸5管本部「言葉ない」 - MSN産経ニュース

名乗り出てきたのが本当の「流出」実行者なのかどうか、まだ取り調べの段階で確定はしていないけれど、特に疑う理由もないので本物として話を進める。
第5管区海上保安本部神戸海上保安部(5管)の方々には深く同情申し上げる。静かに任務に励んでいるところに突然爆弾が投げ込まれたようなものだ。政府やマスコミの批判も、「愛国者」たちの流出を擁護する叫びも、どちらもわずらわしいばかりだろう。「40代主任航海士」の上司は管理責任を免れないだろうが、同僚や部下の方たちが騒々しい議論に巻き込まれないことを願う。

一方で、流出させた主任航海士に対してはあまり、というかほとんど同情しない。
流出を擁護する人たちが言うように義憤に駆られての行動だとしても、名乗り出るまでの時間が長すぎた。仮に政府が問題視しないようであれば出てくる必要はないが、調査を行うことがはっきりした時点で正々堂々「自分がやりました」と明らかにすべきだった。彼が沈黙していた間に多くの人手が動員され少なからぬ経費が費やされたはずである。彼はそれをどんな思いで見ていたのか。
「流出」が確信犯だったとしても、いやそれだからこそ、捜査の手間をかけたことを国民に詫びてほしいと思う。

あるいは、あまり考えたくないことだが、「愉快犯」的にたいした考えも覚悟もなく「面白い映像を見せてやろう」くらいの気持でYoutubeに投稿したのだろうか。だとしたら擁護どころか軽蔑に値する。海の警察官がそんないい加減なありさまではどうしようもない。
私自身としては「流出」自体は擁護できないけれど、せめてやった者が堂々とさわやかな振る舞いを見せてくれることを願っていた。だが、捜査が進展するまで逃げ隠れしていたかのような「40代主任航海士」の姿はあまりさわやかではない。「追い詰められた末に情状酌量を期待して自首」みたいに見える。正直言ってがっかりだ。

尖閣中国漁船衝突時件は、頑なにビデオの公開を拒む政府も、「流出」事件も、「流出」実行犯を擁護し賞賛する人たちも、どれも同じく支持できない。呆れるやら情けないやら、なんとも虚しいばかりだ。

参考 ビデオ流出による3つの問題 - リアリズムと防衛を学ぶ

「こんにゃくゼリーを政治主導」デマに踊らされる情報強者を哂う

2010年10月09日 | 政治・外交
週刊ポストがまたこんにゃくゼリー「政治主導」問題についてデマを書いている。
マッチポンプ大勝利宣言みたいで胸糞が悪い。
前の記事でも批判したけれどもう一度叩くことにする。

NEWSポストセブン|仙谷氏のこんにゃくゼリーの形と硬さ決定に若手議員舌打ち
 週刊ポストが「仙谷官房長官が“政治主導”でこんにゃくゼリーの形と硬さを決定した」と先週報じたが、この件が永田町で大きな話題となっている。

 同盟国アメリカから見捨てられていた「仙谷官邸」の無様を報じた記事……なのだが、記事の本論とは少し違って、注目を集めたのは、仙谷氏が「政治主導」で「こんにゃくゼリーの形と硬さ」を決めようとしているというくだり。
 
 結局、政権を担った経験もない人が最高権力を握ると、政治主導もこの程度、という皮肉がいたく民主党議員たちの心に響いたようなのだ。若手議員の弁。

「仙谷さんの“オレ様”ぶりと、政権運営能力の隔たりに、日に日に党内の目が厳しくなっています。議員会館の食堂で、ある議員が“こんにゃくゼリーに全力で取り組んでる場合かよ”と舌打ちしていました」

※週刊ポスト2010年10月22日号

ああくだらない、くだらなすぎる。
そもそも「こんにゃくゼリー規制問題」自体が大騒ぎするような話じゃないのに、三流週刊誌が政治的意図(菅政権・仙谷官房長官叩き)からデマを流し、それを多くの人が鵜呑みにして空騒ぎする姿は愚かとも醜悪とも言いようがない。お前らみんなバカか?と言いたくなる。もういいかげんにしてくれ。
改めて言っておくと、「仙谷官房長官が“政治主導”でこんにゃくゼリーの形と硬さを決定した」という週刊ポストの記事は信用に値しない。まさに週刊誌ネタ、真偽の怪しいゴシップに過ぎない。
なぜそう言いきれるのかというと、消費者庁の正式発表と矛盾しているからだ。

こんにゃくゼリーの安全性、指標作成へ研究会  :日本経済新聞
 ミニカップ入りこんにゃくゼリーによる窒息事故対策を検討している消費者庁は27日、ゼリーの形状や大きさなど、具体的な安全基準となる指標を作成するため、専門家らによる研究会を立ち上げた。指標は年内めどに作成する方針だが、法的拘束力がない上にメーカー側の反発も予想され、実効性のある指標になるか疑問視する声もある。

 研究会は医学や食品安全などの専門家7人で構成。この日の初会合にはマンナンライフ(群馬県)、UHA味覚糖(大阪市)などメーカー側の担当者も参加した。10~11月にゼリーの形状や大きさ、硬さなどを分析、実験し、窒息事故の危険性を改めて検証。12月にもガイドラインのような安全指標を具体的な数値を示した上で作成する。


要するに、「こんにゃくゼリーの基準は専門家を集めて科学的に検討してもらいます」「メーカーの人も呼んで意見を聞きます」「法的に規制することは考えてません」ということだ。文句のつけようがない、まことに理にかなったやりかたである。仙谷官房長官の「政治主導」とやらの陰も形も(今のところは)存在しない。「今のところ」と保留したのは、もしかしたら仙谷氏が研究会に横から圧力をかけたり、あるいは研究会の報告を世論を扇動する道具として使い「こんにゃくゼリー問題を政治主導」する姿を演出する可能性はゼロではないからだ。

考えてみると、「政治主導」という言葉の使われ方はずいぶんいい加減である。政治家がどれくらい影響力を行使すれば「政治主導」なのか、客観的な基準は何もない。政治家自身の評判があがる話なら、実態は官僚任せでも「私が政治指導した」と威張り、逆に評判を下げる問題は自分が深く関わっていても「官僚が勝手にやったことだ、けしからん」「政治主導で正していく必要がある」と都合よく使い分けたりする。今回の騒ぎのようにバッシングに使われる場合もまた然り。

過去に問題になった例として、鉄道の路線決定や駅の設置について見てみよう。
「我田引水」ならぬ「我田引鉄」という言葉がある。それこそ大物政治家が「政治主導」で自分の地元に鉄道を通させ駅を置かせることを言う。

鉄道と政治 - Wikipedia
我田引鉄
「我田引鉄」と呼ばれる行為は戦前からしばしば問題視され、現在でも新線計画や新駅設置を巡ってその様な事が話題に上る事がある。

特に戦前はまだ自動車が世間一般に広まっていた訳ではなく、専ら鉄道が陸上交通の要であったため、その経路に選ばれるかどうか、駅が設置されるか否かが地域の盛衰を直接左右する生命線になった。このため、衆議院選挙の度に政党(特に立憲政友会)によって地域への鉄道敷設と引換にその地域の票を獲得しようとする工作が行われ、この集票手法は戦後まで継承される事になる。現在の高速道路・整備新幹線建設に関わる政治問題の根本と言われることもある。また、大都市周辺の地下鉄の郊外延伸線構想などを巡っては、現在でも政治家が選挙などの際に持ち出す事が少なくない。

現在大きな問題となっているのは中央リニア新幹線のルート選定だ。JR東海は距離が短く経済合理性が高いCルート(南アルプス貫通ルート)を望んでいるが、長野県は北に大きく迂回して諏訪に駅を置くことを強く求めている。仮に政治家の圧力によりCルート以外が選ばれることになれば、それこそ誰の目にもわかりやすい「政治主導」の成果といえる。この場合、成果といっても喜ぶのは長野県民(の一部)と撮影スポットが増える「撮り鉄」くらいだろうが。

こんにゃくゼリー規制問題の場合は、「リニアをCルートから外せと圧力をかける」ような理不尽な政治主導は実態として存在しない。小沢応援団の週刊ポストが仙谷氏批判のレッテルとして「政治主導」という言葉を利用しただけだ。仮に仙谷氏が「専門家がなんと言おうとこんにゃくゼリーの大きさは直径5cm以上、硬さは500g /cm2以上とする」(数字は適当です)と決め込んでゴリ押しすればまさに「こんにゃくゼリーの形と硬さを政治主導」したことになるが、そんな話はどこにも書かれていない。
どうやらポストの記事とそれに踊らされている人たちは「政治主導」という言葉をごくいい加減に使っているようだ。極端な話、「こんにゃくゼリー規制について専門家に検討してもらいます」と言っただけで「政治主導宣言だな!」と叫ぶようなヒステリーに陥っている。「政治主導」の言葉だけがあって実態が何もないのに「こんにゃくゼリーを政治指導かよ、バカじゃないか」と嘲笑するのに夢中だ。三流週刊誌の扇動に踊らされ、「こんにゃくゼリー」でニュース検索することなど考えもしない。「一犬虚に吠え万犬これに和す」ということわざを絵に描いたようなみっともない姿である。アホらしくてとてもつきあいきれない。

「こんにゃくゼリーの形と硬さを政治主導で決定」の怪

2010年10月06日 | 政治・外交
ネットの一部でおかしなニュースが話題になっている。
だが、このニュースはそのまま鵜呑みにできるものだろうか?

NEWSポストセブン|仙谷氏「こんにゃくゼリーの形と硬さ」を政治主導で決定へ
 尖閣諸島問題で境地に立たされている仙谷由人官房長官だが、失地回復のつもりなのか、この重大局面に奇妙な“政治主導”を見せている。9月27日、政府は「こんにゃくゼリーの形と硬さ」の基準を政治主導で決める方針を打ち出したのである。

 こんにゃくゼリー問題は、仙谷氏の数少ない政治実績である。自民党政権時代に野党としてこの問題を取り上げ、販売禁止を申し入れるなど、“戦う政治家”ぶりを見せた。

 官房長官になると、社会党出身の福嶋浩彦氏を消費者庁長官を抜擢し、こんにゃくゼリー規制を検討させた。もっとも、すでに業界の自主規制により、一昨年から事故は起きていないため、庁内では規制に慎重論も多かった。それを押し切ってやろうというのだから、なるほど政治主導である。

 菅政権の実態は、「外交は検察が決める。尻ぬぐいは小沢にやらせる。こんにゃくゼリーは俺たちが決める」という体たらくなのだ。

まるで冗談のようなニュースだ。失笑する人が多いのも無理はない。2ちゃんねるはてなブックマークでも「学級委員かよ」とか「三谷幸喜のドラマネタかと思った」とか笑いものにされている。ほかにも多くのブログやmixiやtwitter記事で叩かれている。確かにおかしなニュースで、仙谷氏が嘲笑されるのは当然かもしれない。
…だが何か変だ。どうもひっかかる。
いや、おかしいことはおかしいのだが、笑えるというより全体の構図が怪しくて気持が悪い。これが事実なのか、本当のニュースなのかどうか確信が持てないのだ。とりあえずGoogleのニュース検索で「こんにゃくゼリー」を調べると9月27日の消費者庁発表による記事が2件見つかった。

こんにゃくゼリーなどによる窒息事故防止の指標作成へ - Ameba News [アメーバニュース]
 消費者庁は9月27日、幼児やお年寄りの窒息事故が数件発生した、こんにゃく入りゼリーを含む食品等に関して、具体的な知見・データを得るための調査研究を開始したことを発表した。研究会のメンバーは口腔衛生学や安全工学などの大学教授ら専門家7名によって構成されるが、初会合にはマンナンライフ(群馬県)や、UHA味覚糖(大阪市)などのメーカー側の担当者も参加した。

 消費者庁はすでに「食品SOS対応プロジェクト報告」を発表しているが、今回はこの報告を踏まえたうえで、食品の形状、硬さなどの食品側のリスク要因を詳細に分析し、年内には形状などの一定の「指標」を定めることを目標としている。

 これらの発表に対してネット上では、「こんにゃくよりお餅やご飯で窒息する人のほうが多いのに、それらに対して規制はないのかな?」「誤飲で窒息の原因になってる食品のリストと件数をあげるべきだね。これ」「いっそこんにゃく売り場で売ったらいい」「指標て本当に作れるもんなのか?」などのコメントが寄せられている。

こんにゃくゼリーの安全性、指標作成へ研究会  :日本経済新聞
 ミニカップ入りこんにゃくゼリーによる窒息事故対策を検討している消費者庁は27日、ゼリーの形状や大きさなど、具体的な安全基準となる指標を作成するため、専門家らによる研究会を立ち上げた。指標は年内めどに作成する方針だが、法的拘束力がない上にメーカー側の反発も予想され、実効性のある指標になるか疑問視する声もある。

 研究会は医学や食品安全などの専門家7人で構成。この日の初会合にはマンナンライフ(群馬県)、UHA味覚糖(大阪市)などメーカー側の担当者も参加した。10~11月にゼリーの形状や大きさ、硬さなどを分析、実験し、窒息事故の危険性を改めて検証。12月にもガイドラインのような安全指標を具体的な数値を示した上で作成する。

 消費者庁は今年3月から「食品SOSプロジェクト」を立ち上げ、こんにゃくゼリーの法規制も含めた対策を検討していたが、7月に「科学的データが十分でない」として結論を先送りしていた。

 福嶋浩彦消費者庁長官は研究会の冒頭、「今こんにゃくゼリーの事故が起こってしまい、後追いで消費者庁が対策を取ることになれば最も不幸だ」として、対策を急ぐ考えを示した。

アメーバニュースと日経の二つの記事が「消費者庁がこんにゃくゼリーの安全基準の指標を作成するため専門家による研究会を作った」ことを伝えている。消費者庁のウェブサイトには「こんにゃく入りゼリー等の物性・形状等改善に関する研究会メンバーの委嘱について」というニュースリリース(PDF)が載っているから事実に間違いない。
だが、「仙谷官房長官がこんにゃくゼリーの基準を『政治主導』で決める方針を打ち出した」という情報は冒頭に引用した週刊ポストのネット版しか見つからないのだ。ニュース自体も多くの人が失笑したようにおかしい、というよりおかしすぎる。なんだか怪しい。信憑性が疑われる。
矛盾する情報を説明する方法は二つある。
ひとつは、消費者庁は「専門家による調査」を決めたのに仙谷官房長官が勝手に「政治主導」を宣言した場合。だが、それなら恥をかかされた福嶋消費者庁長官が異議を唱え、ないがしろにされた専門家が怒り、仙谷氏の理不尽な口出しがもっと大きく報道されそうなものだ。
もうひとつは、「こんにゃくゼリーの形と硬さを政治主導で決める」というニュース自体が捏造の場合。
仙谷氏を引きずりおろしたい週刊ポストが与太話を流しているのではないか。
最近の週刊ポストの見出しをチェックしてみた。小沢氏を応援し菅総理・仙谷官房長官を批判する記事がずらりと並んでいる。

週刊ポストの見出し一覧 - エキサイトニュース

 「小沢嫌い」ここに極まれり!-大新聞も官邸も常軌を逸している (2010年9月13日発売)
 小沢VS菅「街頭演説」を誌上再録-政策論争をといいながらメディアが割愛 (2010年9月13日発売)
 「ネットという鏡に暴かれたマスコミ偏向報道」 (2010年9月13日発売)
 ひきこもり仙ちゃんが愛でるiPadと幹事長-今週の官房長官 (2010年9月13日発売)
 大メディアが黙殺した9月5日の「オザワ・コール」 (2010年9月13日発売)
 負けて始まる「小沢支配」、「菅報復合体」の誕生 (2010年9月18日発売)
 「小沢を殺せ」大謀略で総理の椅子は泥にまみれた (2010年9月18日発売)
 実は市川房枝に見限られていた菅直人 (2010年9月18日発売)
 望まなくても「闇将軍」になる小沢一郎と日本の<悲劇> (2010年9月18日発売)
 菅首相の呼称が「弁理士総理」に格下げされた!-今週の仙谷長官 (2010年9月18日発売)
 アメリカに叩き潰された小沢一郎-代表選敗北は2月2日に決まっていた (2010年9月18日発売)
 役人いいなり菅政権、これじゃ「無差別連続<増税>」だ(1) (2010年9月27日発売)
 役人いいなり菅政権、これじゃ「無差別連続<増税>」だ(2) (2010年9月27日発売)
 役人いいなり菅政権、これじゃ「無差別連続<増税>」だ(3) (2010年9月27日発売)
 大新聞「世論調査」の支離滅裂-内閣支持率60%超って・・・? (2010年9月27日発売)
 「仙谷内閣」と左翼な仲間たちの「すき焼きパーティ」の一夜 (2010年9月27日発売)
 アメリカに見捨てられた仙谷・前原のポチ外交-平和ボケ国家の現実だ (2010年10月4日発売)
 民主党代表選で露呈した、この国を担う政治家&マスコミの貧弱すぎる知性 (2010年10月4日発売)


今回の「仙谷官房長官が『こんにゃくゼリーの基準を政治主導で決める』方針を決定した」という記事も、小沢氏を熱烈に応援する週刊ポストによる菅政権バッシングの一環であることは間違いなさそうだ。私自身も菅内閣・民主党政権を支持していないし、はっきり言って仙谷氏は嫌いなタイプの政治家だが、だからといって真偽不明の週刊誌ネタではしゃぐような真似はしたくない。それこそいい笑いものである。

やっぱり気になる「有言実行内閣」

2010年09月19日 | 政治・外交
「有言実行内閣」を宣言した菅総理の新内閣は高い支持率の追い風を受けて無事に船出した。
まずはご同慶の至り。

菅内閣支持率上昇、66%に…「脱小沢」を評価 : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
 読売新聞社は菅改造内閣が発足した17日から18日にかけて、緊急全国世論調査(電話方式)を実施した。

 内閣支持率は66%で、民主党代表選期間中の3~5日に行った前回調査の59%から、さらに上昇した。菅内閣としては、発足直後調査(6月8~9日実施)の64%を上回り、最高を記録した。不支持率は25%(前回28%)だった。内閣と党役員人事で小沢一郎元代表を起用しないなど、「脱小沢」路線を評価すると答えた人は70%に達し、内閣支持率を押し上げたとみられる。


私自身は菅内閣も民主党政権も支持しないけれど、菅総理がせっかく手に入れた高い支持率を世のため人のためうまく使ってくれれば文句はない。支持率は政治家にとって資産であり、かつ公共財である。まちがってもケチ臭く支持を失うことばかりを惧れ、必要な政策実行をサボるようなことがあってはならない。がんばれ菅総理。
…と書くとまるで熱心な支持者のようだが、半分以上は「(支持率)下り最速の伝説」の再現を見たいだけだったりする。今の高支持率はまさに「小沢外し」だけが評価されたもので、実際に政治を動かし始めれば菅氏自身の無能さと小沢派の逆襲でたちまちボロが出る。かといって小沢派に媚びればそれこそ国民の支持を失う。まさに前門の世論、後門の小沢。菅内閣は前途多難だ。

さて、前の記事でケチをつけた「有言実行内閣」なるキャッチフレーズ自体は世間に受け入れられたようだ。
菅氏の実行力に疑問をもち「どうせ有言不実行内閣になるだろう」と叩く人は多いが、「有言実行」という言葉自体が変だ、そんな日本語はない、と批判する人はほとんど見かけない。これはいったいどうしたことか。
麻生政権のときにささいな読み違いを槍玉にあげてさんざん笑ったり馬鹿にしたのとはずいぶん違う。「高支持率は七難隠す」というか、日本語ブームとやらの底の浅さを示すものと笑うべきか。私にとって「総理が自ら『有言実行内閣』と命名」というのは「総理が就任演説で『ら抜き言葉を多用』」と同じくらい、というと大げさだが半分くらいの違和感があるのに、どうやらほとんどの人は気にしないらしい。
別にワイドショーで笑いものにしろとは言わないが、「天声人語」などのコラム欄でちくりと釘を刺す、くらいのことはあっていいと思う。菅総理によって「有言実行」というパロディ四字熟語が公認され権威付けられたようでモヤモヤする。


「有言実行」の使われ方が気になってネットで調べてみた。

「有言実行」ってまともな四字熟語ですか?確かに定着した感があるんですが、もともと不言実行のもじりと思います。みなさんの感...(回答が古い順)|質問・相談が会員登録不要のQ&AサイトSooda!(ソーダ)
有言実行と同じ意味の言葉 | OKWave
《有言実行》という言葉はまちがいですか? - Yahoo!知恵袋
Q 《有言実行》という言葉はまちがいですか?
A だんだん使われるようになっていますが、本来は「不言実行」のパロディです。
  現在は大辞林にも載っているので間違いとまでは言わないでしょう。


相談サイトではどこでも「本来は『不言実行』のパロディ」という答が返ってくる。確認してはいないが、「広辞苑」に「不言実行」はあっても「有言実行」は載っていないそうだ。
私が「有言実行」という言葉を使うとしたらやはり「元はパロディだった」という意識を持つだろう。雑談で笑いながら「あの人は有言実行だから」と言うのはかまわないが、改まった場で使うのは憚られる。「有言実行」の「ちゃんとやるぞ、頼りにしてくれ」という主張と「元はパロディだった」というだらしなさのギャップがどうしても気になる。まがいものの言葉で人を褒めるのは失礼だし、パロディ四字熟語をそれと気付かず自分のキャッチフレーズにするのは恥ずかしいことだと思う。


菅氏は2003年9月にも「有言実行」という言葉を使っていた。

【政治】小泉首相との違いは「有言実行」女性支持率の低さは「世界の七不思議の1つだ」民主党・菅氏★2
「日本には『有言実行』という言葉がある」。民主党の菅直人代表は30日、党本部で行われた外国報道機関との記者会見で、こう語り、自らの実行力をアピールした。

どうやら菅氏お気に入りの言葉らしい。
ついでに見つけたのだが、安倍元総理が2006年の年末に「来年の抱負」として「有言実行」と色紙に書いている。

【政治】安倍首相、来年の抱負は「有言実行」 通常国会で教育再生関連法案の成立を目指す考えを強調
安倍晋三首相は25日午前、首相官邸で地元の山口放送などのインタビューに応じ、来年の抱負として色紙に「有言実行」と書いた。「何をやるかを国民に分かりやすく説明し、やると約束したことは必ず実行する」と説明した。

リンク先はどちらも当時の2ちゃんねるスレッド。菅氏にも安倍氏にも「『有言実行』ってのは『不言実行』のパロディなんだが」「『有言実行』という言葉は本来存在しない」と突っ込みが入れられている。

2003年9月に「小泉首相との違いは『有言実行』だ」と語った菅代表は翌年5月に年金未納騒ぎを煽った末に自爆した。
2007年の抱負として「有言実行」と色紙に書いた安倍総理は参院選で惨敗して9月に退陣した。
二例しかないけれど、どうやら「有言実行」と宣言した政治家は一年持たずに沈没するらしい。不言実行という「正しい日本語」をバカにした報い …ではなく、パロディ四字熟語を自らのキャッチフレーズとして使うような迂闊さが彼らの地位を奪ったのだろう。