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「少ない予算で、無数にある活断層を同じように監視するのは、とうていできる相談ではないのです。おまけに、存在は疑われてても、位置が分からない断層だってあるんです」
「どこら辺にあるんだ?」
「大都市の地下には、大概埋まっていると思われます」
「危ないじゃないか。人口密集地こそ詳しく調べて貰わなくちゃ困るよ」
「都市直下の調査は、技術的にも難しいんです。阪神大震災を引き起こした神戸の断層も地震波形から位置は推定されているものの、いまだに確認はされていないくらいです」
「何故、そんなことになるのだ?」
「安土桃山以降、日本の大都市は、沖積平野の上に発達したからです。断層が厚い沖積層下に伏在していますから、地形で判断できません。深夜の静かな時間に人工地震を起こせば、かなり詳しい地下構造が分かりますが、必ず苦情が殺到します」
「うーん」
早川は唸った。「東京二十三区も同じか?」
「まず間違いなく、地下に伏在しているでしょう」
「そんな危険な場所に、日本の政治・経済・行政の中心があるわけか。なんだって、こんな厄介な場所に、千二百万人も住む大都市を作っちまったのかねえ?」
「逆説的ではありますが、断層が集まっているからでしょう」
「なんだって!?」
「日本のような圧縮帯は、地震がないと山ばかりになってしまいます。ところが、断層が山を崩し、川を通し、運んだ堆積物が平野を作るので、人々は水利に恵まれた平地を利用でき、町が出来ます。断層が山脈を切り裂くので、山向こうの町との交通路も開けます。つまり、地震が都市を作るのです」
早川は呆気にとられた。地震が都市を作るなど、考えたこともなかった。
「いやはや驚いたね。日本は地震の民って訳だ」
「火山の民でもありますが」
企画官は補足した。
石黒 耀 『震災列島』より 講談社
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還暦を過ぎた歳になると堅い本を読むのが辛くなって来る。
もともと哲学などの抽象用語が苦手な徳さんの特殊事情なのかも知れないが、、、。
こうして物語になっている小説から徳さんの民度にあった箇所を選び出すのが、現在の徳さんの唯一のお勉強。
何しろこの小説は地震にかこつけてやくざ一味をやっつけるというハードボイルドを装っているので、ハラハラわくわくしながらお勉強が出来るという訳。
そうそう、こんな箇所もあった。
『阿布里組の連中は、その程度で済ませるわけにはいかない。友紀や、私達家族や、この町が受けたと同じ苦痛を阿布里組の全員に味わわせねば腹が収まらない。
難しいのは、法律に従うと連中の方が有利という点だ。いったい、この国の法律はどうなってしまったのだろう。やたら細かく規定して、素人には到底理解できない巨大システムを作り上げ、結局は、法の抜け穴を探す金と時間と人力を持つ人間が勝つように出来ているのではないか?』