金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(営巣地)184

2020-09-27 07:51:38 | Weblog
 光学迷彩のお陰で無駄な争いをせずに湖の南端に辿り着いた。
ひときわ大きな木を見つけた。
太くて高い。
離れているのに木の頂きが見えない。
まるで、この辺りの木々の親玉のよう。
駆け寄った。
 一言で表せば、ぶっとい樹。
楕円形なので直径は確とはしない。
たぶん、歴史を見守って来た古代樹・・・。
横に張り出した側には雨宿りできそうな洞がある。
 鱗の様な樹皮。
手を当てた。
荒い手触りなのに剥がれそうにはない。
じっとしていると、掌に生命の息吹が伝わって来た。
 俺は風魔法を身に纏い、幹伝いに上に跳んだ。
頂きの途中に手頃な枝を見つけた。
そこに腰を下ろした。

 湖越しに高山の方向を見た。
まだクイーンが裾の上空で警戒していた。
彼女だけではない。
配下のワイバーンも2翼。
クイーンに付き従って旋回していた。
 俺はズームアップで営巣地を見た。
裾野は一面が岩場になっていて、
あちこちにワイバーンの姿が見え隠れした。
成体も幼体もいて、無防備に遊んでいた。
 俺は岩場が気になった。
この岩場は・・・。
背後の高山を見た。
まだらに緑があるものの、山肌は土色。
吹き出物の様な塊を無数、確認した。
これは・・・火砕流の痕跡。
 うっすらとした雲の上に山頂がある。
尖った山頂でも、こんもりした山頂でもない。
破壊されたような・・・、これは噴火の痕跡に違いない。
大噴火で吹き飛ばされたのだ。
今は噴煙がないから安心だが、先は分からない。

 焦れたのか、アリスが荒い言葉を投げて来た。
『怖いの、尻込みしてるの、馬鹿じゃない。
観光に来たわけじゃないわよ、皆殺しよ、皆殺し』
 ハッピーが尻馬に乗った。
『パー、皆殺し、皆殺しパー』
 俺は困った。
怖いのでも、尻込みでもない。
ワイバーンの前にもう一つ、問題がある。
探知に引っかかる物があるのだ。
動きからして飛行体。
それが此方に急速に向かって来ていた。
 俺はその方向に向きを変えた。
アリスもようやく気付いた。
そちらに目を遣った。
『これは・・・、』
 向かって来る飛行体の魔波はアリスに似ていた。
小さいが強力な波動。
それが群れなして急速接近して来た。
「妖精の群れです。
一体はアリスより上位の存在です」脳内モニターに文字が走った。

 光に近い全力の風魔法で飛んで来る。  
敵意が感じ取れないので、ジッと待ち受けた。
追い付いた群れは瞬時に俺達を包囲した。
明らかにアリスと同種の妖精、数は12体。
 上位の存在と思える個体が俺達の前に進み出た。
アリスは三対六枚羽根だが、
それは花弁のように羽根を全面展開していた。
まるで女神か、天使、見たことないけど。
ても、アリス並みにちっちゃい、可愛い。
 それが俺に視線を向けて来た。
見えているのか。
無敵の光学迷彩の筈なんだけど。
俺はアリスを振り向いた。
『見えているみたいだけど・・・、見えるのかな』
『見えてるわよ。
うちの里の長老は、ダンマスと同格なのよ』
 ペリローズの森の長老。

 長老に念話で尋ねられた。
『人間の子よ、尋ねる。
ダンマスの気配があるが、同種とは考えられん。
その訳を聞かせてくれんか』
 声は若いが、侵し難い威厳が感じ取れた。
俺は正直に答えた。
『俺自身、訳が分かりません。
気がついたらダンマスを討伐していました。
で、ダンマスの力を得ました。
それに・・・、今は魔女魔法の遣い手でもあります』
 長老の小さな顔が強張った。
『むっ、魔女魔法。
得体が知れぬ奴だな。
・・・。
それは、今はいい。
ここで何をするつもりだ』
 長老は俺だけでなく、アリス、ハッピーと、
値踏みする様に視線を巡らした。
俺は隠すものはない。
『二人は眷属です。
三人でワイバーンの営巣地を壊滅する為、ここに来ました』
 長老はアリスを睨み付けた。
『まったくお前は育っておらぬな』と言い、俺に視線を転じた。
『里の者が世話になっているようだな』
 俺は恐縮した。
『いいえ、いいえ。
眷属にしましたが、構わなかったのでしょうか』
『構わん、構わん。
眷属は一時の事。
先にお主の命が尽きるから何の問題もない』明け透けに言われた。

 周りの妖精達が姦しい。
仲間同士で何のかのと論議していた。
それを尻目に長老が言う。
『お主ほどの力があれば営巣地の壊滅は可能かも知れん。
しかし止めてくれぬか』
 途端、アリスが反論した。
『なに言ってるの、今日、ここで壊滅させるわよ』
 長老が怒気を露わにした。
『馬鹿もん。
何も知らんくせに。
知らんもんは黙っとれ』
 アリスが反論した。
『何を知らないと言うの』
 長老はアリスを無視し、俺に言う。
『森には森の生態系がある。
互いが互いを必要悪と認識して、その生存を許している。
ワイバーンもその一つ。
増えては困るが、絶滅させれば、もっと困る。
・・・。
大が中を餌にし、中が小を餌にする。
小はもっと小さなものを餌にする。
そして最も小さきものである我らが大きなものを餌にする。
この理屈、分かるか』
『なんとなく・・・。
目に見えぬ小さきものは疫病のようなものですか』
『ふっふ・・・。
我らは疫病ではないが、似たようなもの。
成体のワイバーンは喰わぬが、卵や幼体に悪戯して、
全体数を減らしておる。
適正数にしておると言っても過言ではない』
『もしかして、最上位にあたるワイバーンを壊滅させると、
森の生態系が崩れるのですか』
『話が早い。
そうなんじゃよ。
ワイバーンは増えても問題は少ない。
飛んで餌場を探せるからな。
困るのは飛べない中くらいの魔物が増える事なんじゃよ。
餌を巡って至る所で争うことになるからな。
我等としては数が多過ぎて、手に余る。
結果として森が荒れ、終いには枯れる。
だから控えてくれぬか』


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