金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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金色の涙(白拍子)175

2009-10-28 20:47:38 | Weblog
 武州松山城の反乱の報に接した大久保忠隣は矢継ぎ早に指示を飛ばした。
まず大掛かりな物見を武州松山城に送り出した。
同時に、他でも反乱の気配がないかどうかを探る為、
江戸城から引き連れて来た甲賀忍者衆を用いた。
さらに、反乱軍に背後を衝かれぬように、幾つかの部隊を側面に回し遊撃とした。
 大久保が一呼吸入れるのを待っていたかのように高力清長が声をかけた。
「榊原殿は来られるのか」
 榊原康政は本多忠勝と並び称される名将であった。
今は館林の己の領地に戻っていた。
もしあの日、彼が江戸にいたなら大将に推されていただろう。
それは衆目の一致するところだ。
 榊原と反りの合わない大久保は苦い顔をした。
しかし、相手が古参の高力では答えぬわけにもいかない。
「榊原殿の手を煩わせるまでもないと思っていたから呼んではいない」
「とりあえず、これまでの状況を報せたらどうだろう。
蚊帳の外というわけにもゆくまい」
「そうだな、そうしよう」
 榊原に関して突っ込んだ話しをしたくないらしい。
承諾して話しを打ち切った。
 大久保は一族の総領息子として焦っていた。
武将として本多や榊原の後塵を拝し、新参の井伊にも抜かれてしまった。
禄高でも評判でも彼等の下なのだ。
それが悔しいらしい。
 だが、本人が思うほど周囲の評判は悪くはない。
戦巧者として敵味方に一目置かれていた。
それでも将来、大久保党を率いる事になる身としては肩身が狭いらしい。
なんとしても名実ともに武将の筆頭に立ちたいと奮闘していた。
 高力もそうと察して複雑を顔をした。
 井伊直政は素知らぬ顔で、両者の気まずい空気の中に割って入った。
「武州松山は手前が引き受けます。赤備え隊の事もありますからね」
 少し考えてから大久保は答えた。
「今、陣を払えば敵に何事かと勘ぐられる。
明日の焼き討ちの前の陣替えの時に、それとなく姿を消してくれるか」
 ここで井伊が陣払いして武州松山へ向かえば、岩槻城の焼き討ちの指揮は、
気兼ねなく自分が揮える。
そう考えたのか、大久保の顔が綻びそうになった。

 本隊傘下の各隊の布陣が終えるや、本陣で軍議が開かれた。
左右に高力と井伊を従えた大久保が、岩槻と武州松山城の状況を手短に説明した。
情報が漏れていたのか、武州松山の反乱の話しに誰も驚かない。
明日の焼き討ちの手順と井伊隊の離脱も、何の抵抗もなく受け入れられた。
 暮れる前に軍議は終わろうとしていた。
そこに、新たな報せが飛び込んだ。
武州松山城に近い所に領地を与えられた家中の者からだ。
 反乱の首謀者が判明した。
「北条道庵」というのだそうだ。
 その名に誰も心当たりがなかった。
井伊も、「北条の血縁にそういう名は聞いたことがない」と首を捻った。
 反乱の名目も判明した。
それは、「徳川家が六公四民を公布するのを阻止する」というものだった。
 六公四民とは税率の話しだ。
公が大名の取り分で、民が領民の取り分。
 家康は、「ここは我慢じゃ」と税率の話題自体を禁じていた。
なにしろ関東には北条の遺風が色濃く残っていた。
民に優しい治世であったからこそ、武田、上杉の侵入を受けても、
誰一人として離反する者がいなかったのだ。
 その優しい治世の代表例が税率。
北条氏の税率は四公六民。
あまりの破格さに徳川家は困っていた。
性急に税率を上げれば民の離反に繋がり、領内が乱れる。
下手すれば豊臣の介入を招くかもしれない。
そういうわけで上げる事など有り得ないのだ。
 どうやら税率の話しを俎上に載せられぬ事に付け込まれたらしい。
 大久保が怒りに顔を染めた。
「その六公四民というのは、どこから出た話なのだ」
 井伊は冷めたような口調で語った。
「おそらく、北条道庵も六公四民もでまかせ。
北条の名と六公四民で人を集めるつもりではないでしょうか」

 佐助は河原の掘っ立て小屋で寝ていた。
前日同様、昼間寝て、夜に起きるつもりでいた。
それが、隣で寝ている者の気配で目を覚ました。
一人で寝た筈なのに、誰かと背中合わせになっていた。
 入り口を塞ぐように寝ていた馬はどうしたのだろう。
騒げば佐助が気付かぬわけがない。
警戒心の強い馬の目を盗むとは。
慌てて起きようとすると、その者の声。
「俺だよ」
 狐のぴょん吉だった。
壁の隙間から差し込む星明かりの中で眠そうな顔をしていた。
 もぞもぞと首を擡げ、こちらを見た。
嗅覚だけで佐助を探し当てたらしい。
これだから伏見の狐は侮れない。
 佐助は自分の迂闊さに忸怩たる思い。
半身を起こした。
「一声かけてくれよ」
「気持良さそうに寝ていたから遠慮したんだよ。驚いたのか」
「少し。・・・それより、川越はどうだった」
 のそのそと起き上がって足を組む。
胡座をかくのが巧い狐だ。
「城は魔物の巣窟になっていたよ」
「城下の者達は」
「気付いていないようだ。鈍いのだろう」
「天魔は、・・・見つけたか」
「それらしい気配は感じなかったな。こっちは」
「同じだ。城に魔物はいるが、天魔の手掛かりは無し」
 ぴょん吉が、「肝心の天魔は見つからないのか」と溜息をついた。
 佐助は自分の感じた事を話した。
「ここの魔物達は本物の魔物とは思えない。操られている気配がする」
「確かにそんな感じはする。まるで生気が抜け落ちているみたいだ」
 一人と一匹は、「誰かが操っている」と意見が一致した。
天魔が操っている可能性が高い。他は考えられない。
そこで夜の探索に出る事にした。
 外で寝ていた馬も起き上がり、同行したそうに足を鳴らす。
佐助は、「ここで待ってろ。必ず帰るから」と必死で言い聞かせた。
理解したのかどうかは知らないが、馬は寂しそうに腰を落とした。
 ぴょん吉が馬を横目に、「夜は寒いな」と愚痴りながらついて来る。
星明かりを浴びぬように、陰から陰に移動しながら、城への接近を計る。
 前方の立ち並ぶ町屋で争う物音。
無数の手裏剣が、空気を切り裂き飛び交っていた。
刀も振り回しているらしい。金属音が夜空に響いた。




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寒くなりました。
インフルに気をつけて。

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