金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

金色の涙(白拍子)176

2009-11-01 10:14:17 | Weblog
 ここの立ち並ぶ町屋も徳川方の命令で無人であった。
佐助は争いに巻き込まれぬように、手前の路地で足を止めた。
ぴょん吉もそれに倣った。
物陰から、遠目に様子を探る。
 前方の道の真ん中に一人が倒れていた。
その身形からして忍者だと知れた。
身動きせぬことから、事切れているのだろうと判断する。
 近くの屋根から一人が音も無く飛び降りた。
大柄だが動きは俊敏。素早く路地裏に曲がった。
 それを二人が追って来た。
屋根から飛び降りたのだが、姿を見失ったらしい。
言葉を交わすことなく左右に分かれた。
 両者の体捌きは見慣れたもの。
紛うことなく忍者。城の魔物達とは違うらしい。
 おそらく片方は徳川方の忍者。
もう片方は近隣の大名の手の者。上杉か佐竹あたりではなかろうか。
 佐助は何れにも味方するつもりはない。
後で正体が露見すれば、上方の猿飛一族全体が恨まれる。
「隠遁の術」で物陰に同化するように努めた。
 大柄な忍者が再び姿を現わした。
横合いから飛び出して左の者の胴を斬り、蹴り倒した。
 星明かりが大柄な忍者の顔を照らした。
 佐助の漏らした、「小太郎」という言葉を、ぴょん吉は聞き逃さない。
「知り合いか」
「少し借りがある」
 残った一人が慌てて振り返った。
太刀を構えて小太郎を睨み付けた。
 小太郎は待ちきれぬように前に出た。
 ぴょん吉が佐助の肩を叩いて小太郎の背後を指差した。
何者かが屋根に潜んでいた。
その動きからすると小太郎の味方ではない。
伏兵の役目を負っている者だろう。
 佐助は口笛を吹いた。
昨夜、小太郎が吹いた鳥の鳴き声を真似た。
似てはいないが気持は通じたらしい。
 小太郎の動きが止まった。
慎重に左右に目を配る。
 屋根に潜む者が太刀を抜いて小太郎の頭上に忍び寄った。
確実に仕留めようとしている。
 佐助は小太刀を抜いて物陰から飛び出した。
「上だ」
 驚いた小太郎だが、佐助を認めるとその場から後方へ跳び退った。
屋根から敵が飛び降りてくるより僅かに早かった。
 佐助の小太刀が飛び降りて来た敵の背中を刺し貫いた。
敵は短く呻いた。太刀を放し、両手を上に差上げながら崩れ落ちた。
 小太郎が、「これで貸し借りなしだな」と佐助に肩を並べた。
 佐助は、「確かに」と応じた。
そして二人で残った敵をジッと睨み付けた。
 敵は足を止めて躊躇った。
佐助と小太郎の二人を交互に見た。
一人で立ち向かうには不利と悟ったのだろう。
 そこに複数の足音。
忍者は足音を立てぬ訓練を受けていたが、疲れから動きが悪いらしい。
一人を追って複数の忍者達がドタドタと駆けて来た。
 先頭の忍者は小太郎の配下だった。
荒い息遣いで小太郎の傍に来た。
「疲れたよ」
 追ってきたのは四人。
その四人も息遣いが荒い。
もう一人を合せて五人になった敵は数的に有利と判断したらしい。
即座に包囲した。
 佐助に気付いた配下が微笑む。
「ありがたいね」
「でも、囲まれた」
 疲れてるわりには口は滑らか。
「まとめて片付けるには丁度良い」
 小太郎が不機嫌そうに割り込んだ。
「三対五で丁度良いのか」
 配下は意に介さない。
「最初は二対十。それが今は三対五。こちらは増えたが敵は減った。
お頭が三人、残りは俺達で」
 小太郎は、「人使いが荒いな」と鼻であしらう。
軽口を叩いていても二人は敵から目を離さない。
 手持ちの手裏剣が尽きたのだろう。
敵はジリジリと包囲を狭めてきた。
太刀で仕留めるつもりのようだ。
 その時だった。
配下が膝から崩れ落ちた。
脇腹が濡れていた。血に違いない。
おそらく手裏剣を受けていたのだろう。
 配下が小太郎を見上げた。
「連中の毒は、・・・回るのが遅い」
 そして佐助を見た。
「お頭を、・・・頼む」
「任せてくれ」
 頷く佐助に配下は満足そう。
毒が回るまで痩せ我慢していたようだ。。
手を貸そうとする小太郎に、「もう、・・・役に立たん。・・・すまん」と謝り、
目を閉じながら頭を落とした。
 そこで生じた隙を敵は逃さない。
まず二人が襲ってきた。
残った三人は二番手として、いつ駆けてもいいように身構えた。
 不意に物陰から、ぴょん吉が飛び出して来た。
疾風の如き速さで三人のうちの一人を襲った。
容赦のない一撃。背後から狐拳を見舞う。
激痛にともなう大きな悲鳴が上がった。
 突然の闖入者に敵の動きが鈍った。
その間隙を突いて佐助と小太郎が、襲ってきた二人を斃した。
 残った二人は判断に迷っているらしい。
互いに顔を見合わせた。
星明かりはあるが、ぴょん吉が陰から陰に移動しているので、
居場所も正体も掴めない。
時を置かずに逃走を開始する。
 追跡しようとする佐助を、小太郎が、「捨て置け」と止めた。
小太郎は配下を抱き上げ、何事か囁きながら近くの家に入った。
そして小さな居間の畳の上に降ろした。
無表情で傍の襖に火を点けた。
瞬く間に火が襖全体に燃え広がった。
 小太郎は、「これで良い」と佐助を促して外に出た。
気持が分かるだけに佐助は何も言わない。
黙って後をついて行く。
 表で小太郎は左右を見回した。
「お主の連れは」
 佐助が答えるより早く、ぴょん吉が屋根から小太郎の目の前に飛び降りた。
突然の出現に小太郎は後退り。驚きながらも警戒した。
「これは」
 ぴょん吉が、「私はぴょん吉」と名乗った。
 狐の名乗りに小太郎の口は半開き。目が点になった。
その背後で家から煙が噴出し始めた。
 ぴょん吉が、「ここで立ち話もなんだ、場所を移そう」と先頭に立った。
 振り返って目で問い掛ける小太郎に佐助は頷いた。
「仲間だよ」




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