金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

白銀の翼(劉家の人々)217

2013-03-17 09:59:50 | Weblog
「面白いが、厄介ではあるな」とヒイラギ。
「アンタは生ける武神と呼ばれていたんでしょう。何とかしなさいよ」
「生ける武神に出来る事は、
相手が望むと望まぬに関わらず、あの世に送り込むことだけだ。
悪いな、役には立てない」
「この役立たず」
 願いを叶えて貰おうと陶洪が目の前で土下座していた。
昇ろうする朝日が、うっすらと少年の姿を照らし出した。
小さな少年が、より小さく見えてしかたない。
 陶兄妹の事情は、侍女の宋純から聞いていた。
発端は三年前。
領邑の北にある小さな村が盗賊の集団に襲われた事にあった。
盗賊団に狙われたのは村の長を務める裕福な陶家。
陶洪、陶涼兄妹の実家であった。
 急を聞いて邑の騎馬隊が駆けつけたものの、既に盗賊団は逃げ去った後。
陶家の者達のみならず、幾人もの使用人が死傷し、あちこちに倒れていた。
陶兄妹は陶家の庭で発見された。
亡骸の傍にしゃがんで泣きじゃくる陶洪。
その足下には血だるまになった母親が倒れていた。
母親は息絶えていたが、しっかりと太刀を握っていた。
おそらく最後まで抵抗したのだろう。
その母親に添い寝する格好の陶涼がいた。
彼女は血だまりで気を失っていた。
 マリリンは陶洪に歩み寄り、身を屈めるように両膝を地につけた。
少年に顔を近付けた。
「陶涼が目が見えなくなったのは、助けられた次の日だと聞いたけど」
「はい。
助けられて、この舘で身体を洗われ、綺麗な身体にして頂き、
その夜は何事もなく眠ったのですが、
朝が明けたら妹は目が見えなくなっていました」
 傍で聞いていた麗華が言葉を添えた。
「あの娘の身体を洗うときは私も手伝ったから、よく覚えているわ。
あの時のあの娘は目が見えていたの。
疲れてフラフラだったけど、一人でも歩けた。
なのに朝になったら急に目が開かなくなったの」
 他の姫達も同意して頷いた。
「そうよ」
「あの時は驚いた」
「次の日には目を開けなくなったのよね」
 マリリンは麗華に問う。
「目か、目の近くに傷は」
「何もなかった。綺麗な顔をしていたわ」
 マリリンは陶洪にしっかりと言う。
「みんなの話しから推測と、陶涼は目が傷付いて見えなくなった分けじゃないわ。
それに目の病でもなさそうね」
「では」
「おそらくは心の病ね。
目を開けると嫌な事を思い出すのでしょう。
両親のみならず、知り人が次々と斬られては、仕方のないことよ。
小さな子なんだから。
だから目を開けるのを拒否するようになった」
「そんな・・・」
「凍った物を溶かすには暖かな物よ。
いきなり焼いては火傷するだけだから、長い目で見るのよ。
貴方が優しく接してあげれば、きっと、いつか目を開けるわ」
 陶洪の肩から力が抜けた。
「いつになったら・・・」
「急かせないことが大事よ」
 陶洪の目に小さな炎が宿る。
それをマリリンは見抜いた。
「忠告するけど、貴方は前に武官になりたいと言っていたわね。
それは止めなさい」
 武官になって稼いで、妹の目の薬を買おうというのだろう。
 陶洪がいきり立つ。
「マリリン様が駄目なら良い薬師から買うしかないでしょう。
それには武官が近道です」
「貴方が武官になって、戦に駆り出されて戦死でもしたら、陶涼はたった一人になるのよ。
そうなると永遠に目を開けないわ」
 陶洪の身体から力が抜けた。小刻みに震える。
 麗華が口を差し挟んだ。
「陶洪、聞きなさい。
お婆さまが内緒にしろと言っていたから、これまで黙っていたけど、
しかたないから言うわね。
実はね、良い薬を買って、何度か陶涼に試してみたの。
勿論、陶涼にも誰にも内緒でね。
食事と一緒に飲ませてみたけど、残念な事に効かなかったわ。
良くなる気配もなかった」
 陶洪は半開きの口でマリリンと麗華を交互に見遣る。
 マリリンは優しく言う。
「長い目で見守ってあげるの。
貴方が大人になってお嫁さんを貰い、暖かい家庭を持ち子供を作りなさい。
陶涼が安心して目を開けられる暖かい家庭を作るのよ」
「それだけで良いんですか」
「心の病には他に手がないの。
脅したくはないけど、暖かい家庭を作り維持するのは武官になるより大変よ」
 聞いていた関羽が、わざとらしく大きく笑う。
「はっはっは・・・。
確かに大変だ。暖かい家庭を維持するのは至難の業だ」
 姫の一人。丸い顔に丸っこい身体の劉水晶が陶洪に言う。
「マリリン殿は神樹から剣を受け取ったけど、神様じゃないと思うの。
毎朝、棍を合わせているから分かるわ。
技は切れるけど、力では関羽殿に押されっぱなし。
それに馬には舐められ、麗華様には頬を打たれる始末。
加えて女言葉。
そんな神様がいると思うの。
でもね今の暖かい家庭を作るという話し、それは合点が行くわ。
心の病には、遠回りだけど一番じゃないかしら」




ランキングの入り口です。
(クリック詐欺ではありません。ランキング先に飛ぶだけです)
にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ


コメントを投稿