金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(劉家の人々)215

2013-03-10 09:57:58 | Weblog
 劉桂英は時折、マリリンの調教振りを覗き見た。
たいていは邑内の城へ出掛ける際に遠回りして馬場に立ち寄り、誰にも声掛けず、
陰からコッソリと観察した。
調教を開始してから五日が経ったが、様になっていない。
剛と名付けた青毛に乗ってはいるが、乗せられている感がしないでもない。
それはまあ、致し方のないところ。
なにせ相手は、これまで人をまともに乗せた事のない馬。
それに乗っているだけでも立派なもの。
 見守っていると、
本人の言にある通り、確かに騎乗に慣れていないようで、一つ一つの手際が悪い。
手綱捌き自体に迷いも見られた。
まあ、落馬しないだけ、ましかも知れない。
 マリリン本人が記憶を失った状態にあるものだから、その言動から、
「格式のある家で育てられたもの」と推測していた。
加えて、棍の扱いの巧みさから、文系の家ではなく武系の家の生まれと絞り込んだ。
が、この騎乗振りは素人丸出し。
武系なのか文系なのか、さっぱり分からなくなった。
 城に向かう場合、桂英の傍には常に供がいた。
当然ながら軽装の警護の兵士が四、五人。
彼等がマリリンの騎乗振りをクスクスと笑っていた。
それも無理からぬこと。
なにしろ剛は時折だが、マリリンの手綱を無視して柵の傍で足を止め、草を食む。
完全に舐められていた。
それが傍目にも丸わかり。
 それでも桂英はマリリンに感心した。
剛に振り回されても全く怒らない。
鞭も使わない。
どころか、逆に何かある度に鬣を撫で回し、耳元に一言、二言、小声で囁く。
しかも、騎乗の姿勢が良い。
落馬しそうな状況でも剛を信用しているのか、姿勢を乱さない。
 桂英は小声で兵士達に、「城に向かう」と告げた。
面白いので、いつまでも見ていたいが、当主としての仕事が立て込んでいた。
 桂英が城の執務室に入ると、待ちかねていたかのように朱郁が報告に現れた。
家臣筆頭、朱家の長女で、女武者として劉家の孫娘、麗華のお守り役を努めていた。
そして、それとは別に新たな仕事も割り振っていた。
邑内の太平道の動向を探る役目である。
その関係から、神樹の丘でマリリンを襲った連中の取り調べも兼ねていた。
連中が太平道の信者と見られるからだ。
今もっとも重い問題であった。
「連中の体力が回復しました。
これから尋問を開始しますが、立ち会われますか」
 相手次第だが、殴り蹴り、打たせ、骨を折らせ、肉を削がせる。
最悪、器具も使用する。
これに女武者とはいえ、女の朱郁に任せてよいものかどうか。
三十路間近で、何れは嫁がせねばならない。
「郁、貴女にはこの仕事から降りてもらいます。
この先の尋問は、慣れた者達に命じます。
貴女はこれまで通りに麗華の世話をお願いね」
 途端に朱郁の表情が緩む。
あからさまにホッとした。
「わかりました」
「しばらくは身体を休めてちょうだい」
 深々と身体を折って礼を述べた。
「ありがとうございます」
 話しは終わった筈なのに朱郁に去る気配がない。
「どうしたの、何か言い忘れたことでもあるの」
「はい」と朱郁が背筋を伸ばした。
「マリリン殿のことです。この先、如何なさいますか」
「如何とは」
「何時まで留め置かれるのか、と思いまして」
 朱郁がマリリンを警戒していることは知っていた。
「嫌いですか」
「そういう分けでは」
「もう暫くはこのままで」
 朱郁は苦虫を潰したような顔をして頷いた。
「分かりました。
それではもう一つ。
これはマリリン殿には責任のない事なのですが、
マリリン殿を一目見たいと申す者達が熱を帯びてまいりました」
 懸念していたことだ。
原因は一つしかない。
「神樹から剣が降って来たからよね」
「はい、そうです。
これまでは控え目に、神樹の使わした者、とだけ申していたのですが、
このところ、マリリン殿が街中を陶兄妹や侍女の宋純を連れて歩くと、
それを遠くから拝む者が散見されるようになりました。
マリリン様、マリリン様と。
邑外から来る者も少しずつですが増えています」
「この手の話しは直ぐに拡がるのよね」
「はい。
しかし拙いことに私共を含め大勢が目撃しているので、打ち消しようがありません」
「そうよね。邑の兵達まで目撃しているのよね。
私は見ていないけど。
・・・。
それでどういう評判なの」
 朱郁は真面目な顔で答えた。
「色々な表現はありますが、一言でいうなら神様扱いです」
 桂英は頭を抱えたくなった。
これは・・・。
全く予期していない悪い展開が見えてきた。
・・・。
その神様はさっき見てきたばかり。
馬に舐められているのを。
どう見ても人そのもの。




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