金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)8

2024-01-14 12:36:02 | Weblog
 ベティはまず先触れからの報告を聞いた。
「葬儀は王妃様の到着を待って行われます」
 予定される参列者名が一つ一つ上げられた。
この地方の親しい者達ばかり、意外性のある名前はなかった。
問題はなさそうだ。
ベティは死因を調べた者達に視線を転じた。
「そちらはどうだったの」
「子爵様は快く遺体を引き渡して下さいました」
 先代子爵の遺体は氷魔法使いにより冷凍保存されていた。
早速解凍して貰い、派遣されたスキル持ち達が綿密に調べた。
結果、毒殺と判明した。
だが、葬儀前にそれを公表すると混乱を招く。
そこで、彼の者達は子爵家へ申し入れをした。
葬儀が終わるまで真相を一時的に秘して欲しいと。
渋々ながら同意してくれたそうだ。

 ベティは彼の者達の表情に違和感を抱いた。
何やら口を濁しているように見受けられた。
隠し事があるのやも。
だが、彼の者達の心情を慮っている場合ではない。
今は緊急事態なのだ。
そこでベティは正面突破を試みた。
「洗い浚い話しなさい、悪いようにはしないわ」
 代表して薬師スキル持ちが言う。
「毒を解析したところ、非常に特殊な物でした。
蝶と蛇と蠍、その三つの毒をブレンドした物で、
完全に趣味に走った毒薬でした。
特徴は、無味無臭で無色、そして即効性、かつ長期保管が出来る。
しかし、ブレンドしなくても、似たような毒は他にも有るのです。
入手もし易い物が。
それでもわざわざブレンドした物を使用した。
・・・。
何故このような毒を用いたのか、そこが分からないのです」

 薬師スキル持ちの言葉を、その手の知識豊富な専門家が引き継いだ。
近衛の諜報部に属して二十有余年。
「特殊な毒で有る、それは確かです。
まず、闇で売買される類の物ではない。
そして、錬達の薬師が趣味に走った逸品。
すると、これだけの物を誰が、何のために、と別の疑惑が生じます。
・・・。
私が知る限り、使用例が有りません。
ただ、・・・一度上司から聞かされました。
以前、極めて珍しい毒殺を担当した。
詳しくは言えんが、お前も当たる日が来るかも知れん。
その時は覚悟して置け。
上の上から圧力が掛かる。
まあ、逆らわん事だな。
下手に逆らえば一件の書類と共に焼却される恐れがある」

 ベティはここまで聞いた上で推量した。
ブレンドの仕様に意味があるのだ。
製造元が誰なのか。
そしてそれが犯行の意味合いを暗示させる。
・・・。
捜査する側に向けられたサインだとすると。
カトリーヌに尋ねた。
「近衛に暗殺部隊があるのかしら」
 カトリーヌもそこに思い至っていたのだろう。
顔色が悪い。
「公式には存在しません」
「公式には」
「その様な部門からの予算要求がないのです」
「そうよね、公式に暗殺を謳う訳がないものね。
だとすると・・・」
 愚図愚図している暇はない。
非公式だと断定して話しを進めるしかない。

 鑑定スキル持ちがおずおずと口を開いた。
「あのですね、この際ですから申し上げます。
スキルを偽装して王宮区画に出入りしている者達がいます。
もしかしてそれですか」
「知っているの」
「はい、許可された【偽装の指輪】をはめて、自由に出入りしています。
上司に伺ったところ、関わるな、と釘を刺されました」

 取り調べの専門家がやれやれとばかりに言う。
「これは部内に流れる噂です。
出来れば聞き流して頂くと助かります。
実はですね、国王陛下直属の部隊があるそうです。
近衛か国軍にかは知りませんけど」
 ベティは王妃の威厳を捨てて正直に驚いた。
「えええっ、・・・旦那様には聞いてないわよ」
 亡き陛下からは何も。
縁戚であるポール細川子爵からも聞いていない。
陛下に仕える侍従長、侍従、秘書達は至って普通だった。
彼等の行動に陰を感じた事は欠片もなかった。
どこにその様な者達が・・・。
「あくまでも噂です、聞き流して下さい」
 聞き流せない。
【偽装の指輪】、そして直属の部隊。
仮にだ、その直轄の部隊が毒殺を実行したとしたら・・・。
それは何の為に・・・。
誰の指示で・・・。

 カトリーヌの顔色が変わった。
何やら青白い。
強張った表情でベティを振り返った。
「ベティ様、亡き国王陛下は毎朝散歩なさってましたよね」
「ええ、そうよ、それが」
「散歩コースは安全の為、毎日違いましたが、
一つだけルーティンがありました。
庭園で鯉に餌をやってらっしゃいました。
その際に付き従うのは護衛騎士ではなく、庭師の長のみ。
護衛騎士や近習は、心が休まらないから、と遠ざけられておりました」
 そうだった。
雨の日も雪の日も、嵐の日も。
「鯉の様子を見る、そう仰っていましたね」
「はい、私どももそう聞いています。
問題はその庭師です。
初代様の頃に庭師の職が設けられた、とも聞いています。
初代様と共に戦場へ赴いて亡くなった者達の縁者だそうです」
「庭師を代々務めるお家柄にしたのね」
「はい、初代様が彼等に居住する家屋敷を与え、
国中から珍しい草木を集めて庭園としろ、そう命じられたそうです」

 ああ、そうか。
初代様は国軍にも近衛にも諜報部を設けた。
それを信用せぬ訳ではないが、個人でも諜報網を構築した。
それが草木収集を言い訳にした庭師の集団。
彼等は草木を集める過程で国内各地の状況も把握した。
そこにベティは感心している場合ではなかった。
 問題が一つ。
国王陛下が亡くなって朝のルーティンも無くなった。
今日これまでの間、彼等はどうしていたのだろう。
考察した。
彼等は初代様のお雇いだから、無碍な扱いはされない。
家屋敷や職務のみか、それなりの予算も組まれていると思えた。
かと言って、彼等には報告する相手がいない。
同時に、指示を下す者もいない。
この新しい国王を望めない状況下、どう動く。

 評定衆へ接触するか。
それとも評定衆の特定の一人に。
いやいや、それはない。
あそこに席を置くのは政に慣れた者達。
下手すれば使い潰される。
一筋縄ではいかぬ。
となれば、管領か。
ベティは管領のこれまでの言動を思い返した。

     ☆

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