金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)7

2024-01-07 15:27:08 | Weblog
 俺は別館へ戻る道すがらエリスの姿を求めた。
けれど見つけられない。
どこへ。
答えは別館の玄関前にあった。
エリスは大勢の中にいた。
イヴ様とその側仕えの集団と共にいた。
エリスは当然の様にイヴ様と手を繋いでいた。
イヴ様の声。
「ニャ~ン」
 猫か。
イヴ様がエリスの手を振り解き、こちらへ駆け寄って来た。
俺はルーティンを守った。
両膝を付き、両腕を伸ばした。
そこへイヴ様が満面の笑みで飛び込んで来られた。
俺は素早く抱き留め、腰を上げて、高い高い。
そしてイヴ様をクルリと反転させて、肩車。
イヴ様の笑い声が止まらない。
周囲を囲む面々も生暖かい目で俺達を見守ってくれた。

 気が進まないが、イヴ様から情報収集する事にした。
「昨夜は王妃様とご一緒だったのですか」
「ううん、お母様はおしごとでおでかけ」
「カトリーヌ殿は」
「お母様とごいっしょ。
お仕事がいそがしいから、にゃくと遊んでまってなさいって」

 おそらく出立は昨夕。
時刻から推測するに、泊まりは郊外の近衛軍駐屯地。
馬の放牧場として活用されてる為に敷地は広い。
王妃様が普通の女性騎兵に扮していれば目立たない。
それが密かな入場となれば尚更だ。
そこで一泊し、夜明けと共に因幡を目指したのではなかろうか。

 王妃専用車の車列の周囲を近衛の騎馬隊で固め、
前後に国軍の騎馬隊を配すると聞いた。
遭遇戦を想定した行軍隊列とも聞いた。
そちらに耳目を集めて、その実は別の部隊の中に本人がいる訳だ。
先遣隊とか、偵察隊と称して因幡へ先行するのだろう。
近衛の部隊であればどんな関所もフリーで抜けられる。
誰何しようだなんて奴はいない。
立ちはだかる者は斬り捨て御免なんだから。

 俺は感心すると同時に、王妃様とその周辺に違和感を抱いた。
慎重なのは良い事だが、何やら深く拘泥している様にも感じ取れた。
原因は・・・。
王妃様の実父の死亡・・・。
この時期に都合良く亡くなった。
そこに発している訳か。
 企んだ奴がいるとして、その立場になって考えてみた。
企みというものは複雑ではいけない。
関係する者が多くなり、手違いが発生し易い。
よって、露見する確率が高くなる傾向にある。
 その点、単純なのは成功確率が高い。
この様に王妃様とイヴ様を切り離し、イヴ様を押さえて人質とし、
それを盾に王妃様を政から隠居させる。
これだと協力者が少なくて済む。
手早く成功させれば、政の遅滞も招かない。

 エリスを観察するに、その笑顔から不審なものは感じ取れない。
心から俺とイヴ様を生暖かい目で見守っている、そうとしか思えない。
だがだ、信念から生まれる行動はそもそも悪意でも、邪心でもない。
それは宗教的な行為に近いもの。
ひたすら信じて突き進む傾向にある。
その様な異心を掴むのは不可能だろう。
エリスだけでなく、この場に居る者達を疑うのは止めた。
疑心暗鬼に陥っては俺の目を曇らせるだけ。
だったら臨機応変に対応しよう。
気転を利かせよう。
一休み~、一休み~、一休さんだ。

     ☆

 ベティ足利とカトリーヌ明石中佐のは因幡へ向かっていた。
国都から山陰道を通って鳥取へ向かう途次にあったのだが、
地勢から難所が多く、難渋を極めた。
馬足を緩めながらベティが思わず漏らした。
「街道の整備はどうなってるの」
 カトリーヌが事も無げに応じた。
「この地を治める寄親伯爵の手落ちかと」
「・・・ひいては私の責か。
しかし何だな、街道がこの有様では尼子勢は山陰道伝いには、
都に攻め寄せられぬな」
 王兄、カーティスは石見地方の寄親伯爵家の庇護下に逃げ込み、
官軍に対し激しく抵抗していた。
寄親伯爵家、尼子の娘を正室にしていた縁を活かし、同士と語らい、
今日までその健在振りを大いに発揮していた。
 ベティが向かう因幡も石見も共に山陰道沿いに位置していた。
出立前にベティは、距離的に近いので危ぶんでいたのだが、
そんなベティに、地理に聡い近衛参謀が自信満々に言い放った。
「カーテイス様が都へ上るとしたなら、尼子家は山陽道を勧めるでしょう」

 近衛参謀が行程を組んでくれた。
馬の難所を記し、、休憩個所と宿泊箇所を指定した。
「先を急かれる気持ちは重々承知しております。
ですが、お命を最も優先して下さい。
お身に全てが掛かっております」
 それに守ってベティ一行は西へ向かっていた。
三日目、昼過ぎ。
激しい突風が吹いた。
前後から悲鳴が上がった、
崖道の下は荒れ狂う海、
ベティは前後を見遣った。
隊列が突風で乱されていた。
思わずベティは叫んだ。
「隊列には構わずに馬を鎮めなさい。
鎮めるのが先よ。
鎮めれば崖から落ちる心配はないわ」

 一人の脱落者も出さずに崖道を抜けた。
カトリーヌが馬を寄せて来た。
「全員落ち着きました。
流石は王妃様」
「褒められても困るわ。
私の出自は子爵家よ。
それもこの山陰道沿いの貧乏子爵家。
小さな頃から馬にも海風にも慣れてるわ」

 因幡に無事に入った。
「何も動きはなかったわね」
 カトリーヌが困惑の表情。
「もしかすると」
「そうよね」

 囮の、王妃専用車の車列は道路が整備された山陽道を向かわせた。
姫路から姫街道に入って鳥取へ着到する行程を組ませた。
他方の国軍駐屯地から随所に部隊を配備させたので、
比較的にゆるい行軍ではなかったのかな、とは思った。
しかし、山陰道では襲撃がなかった。
となると、囮が心配になってきた。

 ベティは実家は鳥取の領都から少し離れた海沿いの街にあった。
海浜通りの道を進んだ。
久し振りに嗅ぐ潮風と潮騒に浸っているとカトリーヌに現世に戻された。
「ベティ様、先触れの者達が戻りました」
 数が増えていた。
よく目を凝らすと、早朝に送り出した先触れだけでなく、
前々日に送り出した者達もいた。
彼彼女等は先触れではなく、密かに実家に送り出した者達だ。
鑑定スキル持ち、薬師スキル持ち、諜報の専門家、取り調べの専門家、
そしてそれらの者達を支援する騎士十名。
「実父の死因を調べ直してちょうだい」
 無理難題を押し付けたと思う。
だけど、今日ほど権力を有り難く思った事はない。

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