趙雲の混乱は、憑依しているモノの混乱であった。
モノは趙雲の記憶から時代の流れを知った。
あまりにも長い間、閉じ込められていた。
その為に憎っくき劉邦は遠い遠い過去の人。
強敵、張良も同様に過去の人。
代わりとなる劉邦直系の血筋も絶えていた。
のみならず傍系が継いだ漢帝国も一時的に途絶えた。
王莽に簒奪されたのだ。
その王莽を倒し再建された漢帝国は、傍系のさらに傍系が創建したもの。
本家と区別するために後漢帝国と呼ばれた。
初代皇帝は血筋的には遠縁の遠縁で、赤の他人も同然。
「正統性を主張するために劉家の姓を名乗っている」としか思われなかった。
しかもだ、今の帝となると更に傍系。大樹から枯れ落ちた枝葉のようなもの。
これでは恨みの晴らしようがない。
憑依したものの、恨みを晴らす相手を失い途方に暮れたモノを慰めたのは、
趙雲を見舞う娘達の熱い眼差し。
色街で働く女達だけでなく、町娘達も大勢が見舞いに押し掛けた。
臥せたままの状態で彼女達の相手をするうち、
「これもいいかな」と思うようになった。
なにしろ人であった頃は、このように女にモテタことがなかった。
人というより獣に近く、金で女を買うしかなかった。
その当時からすると、今の状況は夢のまた夢。
だけではない。
池の水面に映った額を見て、大いに気に入った。
罪人の印が刻まれておらず、奇麗なままだったからだ。
迷う趙雲を見兼ねたのか、栄静が優しく言う。
「けっして追い出そうとは思っていないのよ。
貴方が私達の仕事を手伝ってくれれば、それはそれで、とても嬉しいわ。
貴方は私の弟であり、みんなの子供でもあるのだから大歓迎よ。
でも、貴方のお父様との約束があるの。
亡くなった人との約束は破れない。分かってね」
藍天威が取りなすように言う。
「今すぐ出て行け、というわけじゃない。
身体が万全になってからだ。
それにもうすぐ秋が過ぎ、冬になる。
冬は旅には不向きだ。
だから次の春までに決めてくれ。
どこに行くのか、何者に成りたいのか。
お前が決めたら、俺達は全力で協力する」
居合わせた者達の表情が歪む。
みんなは、「趙雲を手放したくない」という顔色をしていた。
心配そうに趙雲を見遣る。
予想だにせぬ展開だが、みんなの期待には応えられない。
亡き父との間で、そんな約束が交わされていたとは思わなかった。
栄静、藍天威二人の気持ちが痛いほど分かる。
死んだ人間との約束は破れない。
不承不承ながら、「分かりました」と返事するしかなかった。
途端に、みんなの表情が落胆に変わった。
でも誰一人、口にはしない。
栄静、藍天威の二人にしても、けっして嬉しそうではない。
その顔色から、「約束を守ろうとしているだけ」と読み取れた。
暫くして栄静が口を開いた。
「疑問があるの。
貴方のお父様のことよ」
示し合わせたかのように藍天威が小さな木箱を卓の上に置いた。
一見しただけで、腕の確かな職人が仕上げた物と分かった。
手間暇たっぷり掛けられた鮮やかな彩り。
中身は知らないが、木箱だけで十分な値が付くだろう。
藍天威の手で蓋が開けられた。
見ると、短剣が納められていた。
木箱同様に柄も鞘も鮮やかな彩り。
栄静が言う。
「これは砂金の袋と一緒に隠されていたの。
呆れるくらいの値打ち物だわ。
たぶん、誰かから贈られたものね。
太刀が贈られるのは手柄の印。
けど、これは短剣。
短剣が贈られるには二つの意味がある。
手柄の他にもう一つ。
それは自害を促す意味合い。分かるわね」
趙雲は深く頷いた。
それを見て栄静が続けた。
「砂金も不思議よね。
小さな袋で二つだったけど、旅の行商で稼いだにしては大金過ぎるわ。
私達はその一つで、この町に色街が造れた。
それからすると二つもあれば、旅の行商をする必要がないの。
親子二人なら贅沢な暮らしが出来る。だけど旅から旅の旅暮らし」
藍天威が代わった。
「お前の親父さんには謎がある。
おそらく旅の行商は仮の姿。
何があったのかは知らないが、定住だけは避けていた。
これらの事も考慮して先々を考えてくれ」
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★
触れる必要はありません。
ただの飾りです。
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あまりにも長い間、閉じ込められていた。
その為に憎っくき劉邦は遠い遠い過去の人。
強敵、張良も同様に過去の人。
代わりとなる劉邦直系の血筋も絶えていた。
のみならず傍系が継いだ漢帝国も一時的に途絶えた。
王莽に簒奪されたのだ。
その王莽を倒し再建された漢帝国は、傍系のさらに傍系が創建したもの。
本家と区別するために後漢帝国と呼ばれた。
初代皇帝は血筋的には遠縁の遠縁で、赤の他人も同然。
「正統性を主張するために劉家の姓を名乗っている」としか思われなかった。
しかもだ、今の帝となると更に傍系。大樹から枯れ落ちた枝葉のようなもの。
これでは恨みの晴らしようがない。
憑依したものの、恨みを晴らす相手を失い途方に暮れたモノを慰めたのは、
趙雲を見舞う娘達の熱い眼差し。
色街で働く女達だけでなく、町娘達も大勢が見舞いに押し掛けた。
臥せたままの状態で彼女達の相手をするうち、
「これもいいかな」と思うようになった。
なにしろ人であった頃は、このように女にモテタことがなかった。
人というより獣に近く、金で女を買うしかなかった。
その当時からすると、今の状況は夢のまた夢。
だけではない。
池の水面に映った額を見て、大いに気に入った。
罪人の印が刻まれておらず、奇麗なままだったからだ。
迷う趙雲を見兼ねたのか、栄静が優しく言う。
「けっして追い出そうとは思っていないのよ。
貴方が私達の仕事を手伝ってくれれば、それはそれで、とても嬉しいわ。
貴方は私の弟であり、みんなの子供でもあるのだから大歓迎よ。
でも、貴方のお父様との約束があるの。
亡くなった人との約束は破れない。分かってね」
藍天威が取りなすように言う。
「今すぐ出て行け、というわけじゃない。
身体が万全になってからだ。
それにもうすぐ秋が過ぎ、冬になる。
冬は旅には不向きだ。
だから次の春までに決めてくれ。
どこに行くのか、何者に成りたいのか。
お前が決めたら、俺達は全力で協力する」
居合わせた者達の表情が歪む。
みんなは、「趙雲を手放したくない」という顔色をしていた。
心配そうに趙雲を見遣る。
予想だにせぬ展開だが、みんなの期待には応えられない。
亡き父との間で、そんな約束が交わされていたとは思わなかった。
栄静、藍天威二人の気持ちが痛いほど分かる。
死んだ人間との約束は破れない。
不承不承ながら、「分かりました」と返事するしかなかった。
途端に、みんなの表情が落胆に変わった。
でも誰一人、口にはしない。
栄静、藍天威の二人にしても、けっして嬉しそうではない。
その顔色から、「約束を守ろうとしているだけ」と読み取れた。
暫くして栄静が口を開いた。
「疑問があるの。
貴方のお父様のことよ」
示し合わせたかのように藍天威が小さな木箱を卓の上に置いた。
一見しただけで、腕の確かな職人が仕上げた物と分かった。
手間暇たっぷり掛けられた鮮やかな彩り。
中身は知らないが、木箱だけで十分な値が付くだろう。
藍天威の手で蓋が開けられた。
見ると、短剣が納められていた。
木箱同様に柄も鞘も鮮やかな彩り。
栄静が言う。
「これは砂金の袋と一緒に隠されていたの。
呆れるくらいの値打ち物だわ。
たぶん、誰かから贈られたものね。
太刀が贈られるのは手柄の印。
けど、これは短剣。
短剣が贈られるには二つの意味がある。
手柄の他にもう一つ。
それは自害を促す意味合い。分かるわね」
趙雲は深く頷いた。
それを見て栄静が続けた。
「砂金も不思議よね。
小さな袋で二つだったけど、旅の行商で稼いだにしては大金過ぎるわ。
私達はその一つで、この町に色街が造れた。
それからすると二つもあれば、旅の行商をする必要がないの。
親子二人なら贅沢な暮らしが出来る。だけど旅から旅の旅暮らし」
藍天威が代わった。
「お前の親父さんには謎がある。
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