軽くジャンプすれば済むものを、アリスは猫を貫き通す。
俺の肩に乗る仕草も堂に入っていた。
『どうするんだよ』
「ふにゃ~ん」
尻尾で俺の鼻を打った。
駄目だこりゃ。
この様子をうちの者達が生暖かい目で見守っているではないか。
ほんとに、こりゃ駄目だ。
お手上げだ。
好きにさせる事にした。
そのうちに飽きるだろう。
アリスから念話が来た。
『イライザとチョンボが来てるわよ』
言うや否や、俺の肩からポーンと飛んだ。
庭木の枝に飛び移り、枝から枝へ次々と、そして姿を消した。
探知を起動すれば見つけられるが、それは無粋というもの。
念話を飛ばした。
『程々にな』
別館の目の前の庭園敷地内に一張りの大型軍幕が見えて来た。
厚い警護態勢の向こうから煩い声。
「グッチョー、グッチョー、グッチョー」
チョンボだ。
当然、イライザも居るのだろう。
そしてイヴ様も。
笑い声が聞こえて来た。
「チョンボ、あんた煩いわよ」
「ふっふっふ、ちょんぼおこられた」
「ゲッチュ、ゲッチュ、ゲッチュ」
案内の侍女が説明した。
「チョンボは室内が嫌いなようなので、ここに居てもらいます。
イライザ殿もチョンボと一緒なされるようです」
軍幕内に入った。
チョンボとの久々の再会を喜んでいるイヴ様は俺に気付かない。
チョンボごときに・・・・。
嫉妬ではないが、負けた気がした。
それでも邪魔はしない。
片隅のソファーに腰を下ろすと、気付いたイライザが寄って来た。
「ごめんなさいね、イヴ様を取り上げたようで」
「なんか、言い方がむかつく」
イライザが笑って俺に手紙を差し出した。
夫君のカールからだ。
実兄のポール細川子爵を案じていた。
「ポール殿は持ち直した。
命に別条はないそうだ。
執事のブライアンもそう、同じく回復待ちだ。
この一件が終えたら、屋敷でゆっくり休んでくれ。
長期の有給休暇だ。
実家にも顔を出したらどうだい。
美濃では忙しくしてるんだろう」
「ええ、忙しいですね。
どなたかの商会のせいですね」
イヴ様とチョンボがこちらに歩み寄って来た。
「バルンバルンバルン」
チョンボのくせして語彙を増やしていた。
生意気だ。
イヴ様はイヴ様、自由だ。
何時もの様に俺に飛び込んで来た。
俺に怠りはない。
腰を落として両膝を地に着け、両手で優しくキャッチ。
そのまま一気に立ち上がり、イヴ様を肩車した。
「お昼にしましょう」
メイド達がチョンボの餌を搬入始めた。
イライザが俺に言う。
「私はチョンボの世話をしてる」
「ああ、チョンボに宜しく」
無視して軍幕から出ようとすると、
チョンボが片方の羽根で俺の尻を叩いた。
「グワッチグワッチグワッチ」
痛い。
子供に優しい魔物、プリーズ。
まあ、イヴ様が笑っているから良いか。
お昼は別館で頂いた。
イヴ様は盛り合わせのお子様ランチ。
ハンバーグ、海老フライ、プチトマト、グリンピースの煎り卵。
スープとパン付き。
俺もそれに合わせて、ちょいと大盛。
ハンバーグに人参のグラッセと、ブロッコリーが添えられていた。
傍目には兄用としか見えない。
だが、俺は知っている。
イヴ様は人参とブロッコリーが嫌いなのだ。
だから俺に増量されている、・・・と。
気の毒そうに俺を見るイヴ様に、見せ付けるようにして、
まず人参のグラッセ。
バターと砂糖の味がした。
次にブロッコリー。
茹で上がりのブロッコリーは、塩とマヨネーズ。
茹でてあるとは言え、味わう物ではない、たぶん。
一気に噛み砕いた。
はあ、今日も大人の階段を上ってしまった、なあ。
俺はブロッコリーの一つを摘み、イヴ様を揶揄した。
「イヴ様はお子様ですから、これはまだ無理ですよね」
「ふーんだ、おこさまでいいもん」
思い切り顔を逸らされた。
楽しい食事を終えて軍幕に戻ると、
その手前で近衛の長官が目に入った。
庭木に縛り付けられたままの人。
いかんいかん、
変なのを見てしまった。
長時間の拘束と疲れで憔悴仕切っていたのだ。
このままだと自然死しないか。
見張っている近衛兵が俺に敬礼した。
「時折、ポーションをかけているので、まだまだ大丈夫です」
俺の心配を見抜いたようだ。
俺は足を進めた。
そして、軍幕の入り口を見て引き返したくなった。
高価そうな衣服の者達が屯していたのだ。
どう見てもお貴族様の供回りの者達に違いない。
中に居る主人に、遠慮するように言われたのだろう。
一旦足を止めたが、気を取り直して再び進めた。
お昼のデザートだと思い直した。
連中は俺を見て、道を開けた。
どうやら俺を見知っている様子。
入り口の近衛兵が俺に耳打ちした。
「モビエール毛利侯爵様がいらしてます」
おお、評定衆の大物。
モビエールは毛利派閥を率いて、その権勢を誇っている人物だ。
長身痩躯で、鋭い眼光で相手を見据え、理屈攻めで説く、
始末に困る性格なのだが、それほど嫌われてはいない。
政敵である筈の三好侯爵とも酒を酌み交わす間柄。
俺とは、王妃様との関係で顔馴染み。
何度か話した事もある。
いたいた。
待合のテーブルで珈琲を飲んでいる後ろ姿、彼だ。
執事らしいのが耳打ちした。
ゆるりと振り返った。
俺を見て、笑顔を浮かべ、そっと珈琲カップを置いた。
「待ち兼ねたぞ」
圧迫すべく、わざとこの時間帯にしたのだろう。
喰えないな。
俺は表情を変えずに歩み寄った。
「お話はあちらのテーブルで」
俺の肩に乗る仕草も堂に入っていた。
『どうするんだよ』
「ふにゃ~ん」
尻尾で俺の鼻を打った。
駄目だこりゃ。
この様子をうちの者達が生暖かい目で見守っているではないか。
ほんとに、こりゃ駄目だ。
お手上げだ。
好きにさせる事にした。
そのうちに飽きるだろう。
アリスから念話が来た。
『イライザとチョンボが来てるわよ』
言うや否や、俺の肩からポーンと飛んだ。
庭木の枝に飛び移り、枝から枝へ次々と、そして姿を消した。
探知を起動すれば見つけられるが、それは無粋というもの。
念話を飛ばした。
『程々にな』
別館の目の前の庭園敷地内に一張りの大型軍幕が見えて来た。
厚い警護態勢の向こうから煩い声。
「グッチョー、グッチョー、グッチョー」
チョンボだ。
当然、イライザも居るのだろう。
そしてイヴ様も。
笑い声が聞こえて来た。
「チョンボ、あんた煩いわよ」
「ふっふっふ、ちょんぼおこられた」
「ゲッチュ、ゲッチュ、ゲッチュ」
案内の侍女が説明した。
「チョンボは室内が嫌いなようなので、ここに居てもらいます。
イライザ殿もチョンボと一緒なされるようです」
軍幕内に入った。
チョンボとの久々の再会を喜んでいるイヴ様は俺に気付かない。
チョンボごときに・・・・。
嫉妬ではないが、負けた気がした。
それでも邪魔はしない。
片隅のソファーに腰を下ろすと、気付いたイライザが寄って来た。
「ごめんなさいね、イヴ様を取り上げたようで」
「なんか、言い方がむかつく」
イライザが笑って俺に手紙を差し出した。
夫君のカールからだ。
実兄のポール細川子爵を案じていた。
「ポール殿は持ち直した。
命に別条はないそうだ。
執事のブライアンもそう、同じく回復待ちだ。
この一件が終えたら、屋敷でゆっくり休んでくれ。
長期の有給休暇だ。
実家にも顔を出したらどうだい。
美濃では忙しくしてるんだろう」
「ええ、忙しいですね。
どなたかの商会のせいですね」
イヴ様とチョンボがこちらに歩み寄って来た。
「バルンバルンバルン」
チョンボのくせして語彙を増やしていた。
生意気だ。
イヴ様はイヴ様、自由だ。
何時もの様に俺に飛び込んで来た。
俺に怠りはない。
腰を落として両膝を地に着け、両手で優しくキャッチ。
そのまま一気に立ち上がり、イヴ様を肩車した。
「お昼にしましょう」
メイド達がチョンボの餌を搬入始めた。
イライザが俺に言う。
「私はチョンボの世話をしてる」
「ああ、チョンボに宜しく」
無視して軍幕から出ようとすると、
チョンボが片方の羽根で俺の尻を叩いた。
「グワッチグワッチグワッチ」
痛い。
子供に優しい魔物、プリーズ。
まあ、イヴ様が笑っているから良いか。
お昼は別館で頂いた。
イヴ様は盛り合わせのお子様ランチ。
ハンバーグ、海老フライ、プチトマト、グリンピースの煎り卵。
スープとパン付き。
俺もそれに合わせて、ちょいと大盛。
ハンバーグに人参のグラッセと、ブロッコリーが添えられていた。
傍目には兄用としか見えない。
だが、俺は知っている。
イヴ様は人参とブロッコリーが嫌いなのだ。
だから俺に増量されている、・・・と。
気の毒そうに俺を見るイヴ様に、見せ付けるようにして、
まず人参のグラッセ。
バターと砂糖の味がした。
次にブロッコリー。
茹で上がりのブロッコリーは、塩とマヨネーズ。
茹でてあるとは言え、味わう物ではない、たぶん。
一気に噛み砕いた。
はあ、今日も大人の階段を上ってしまった、なあ。
俺はブロッコリーの一つを摘み、イヴ様を揶揄した。
「イヴ様はお子様ですから、これはまだ無理ですよね」
「ふーんだ、おこさまでいいもん」
思い切り顔を逸らされた。
楽しい食事を終えて軍幕に戻ると、
その手前で近衛の長官が目に入った。
庭木に縛り付けられたままの人。
いかんいかん、
変なのを見てしまった。
長時間の拘束と疲れで憔悴仕切っていたのだ。
このままだと自然死しないか。
見張っている近衛兵が俺に敬礼した。
「時折、ポーションをかけているので、まだまだ大丈夫です」
俺の心配を見抜いたようだ。
俺は足を進めた。
そして、軍幕の入り口を見て引き返したくなった。
高価そうな衣服の者達が屯していたのだ。
どう見てもお貴族様の供回りの者達に違いない。
中に居る主人に、遠慮するように言われたのだろう。
一旦足を止めたが、気を取り直して再び進めた。
お昼のデザートだと思い直した。
連中は俺を見て、道を開けた。
どうやら俺を見知っている様子。
入り口の近衛兵が俺に耳打ちした。
「モビエール毛利侯爵様がいらしてます」
おお、評定衆の大物。
モビエールは毛利派閥を率いて、その権勢を誇っている人物だ。
長身痩躯で、鋭い眼光で相手を見据え、理屈攻めで説く、
始末に困る性格なのだが、それほど嫌われてはいない。
政敵である筈の三好侯爵とも酒を酌み交わす間柄。
俺とは、王妃様との関係で顔馴染み。
何度か話した事もある。
いたいた。
待合のテーブルで珈琲を飲んでいる後ろ姿、彼だ。
執事らしいのが耳打ちした。
ゆるりと振り返った。
俺を見て、笑顔を浮かべ、そっと珈琲カップを置いた。
「待ち兼ねたぞ」
圧迫すべく、わざとこの時間帯にしたのだろう。
喰えないな。
俺は表情を変えずに歩み寄った。
「お話はあちらのテーブルで」
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