金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(足利国の国都)37

2018-02-25 06:27:28 | Weblog
 俺は国都を囲む地形にも目を奪われた。
前世の京都と同じく盆地には違いないのだが、何か雰囲気が・・・。
途中の琵琶湖は琵琶湖のままであったが、ここには・・・。
違和感の正体に気付いた。
国都を囲む山並みの植生が違っていた。
琵琶湖を過ぎてからも、そうであったが、
おそらく人手はほとんど入っていないのだろう。
見知らぬ多くの大樹や高木の間を蔦が電線のように走っていて、
原生林のままとも言えた。
魔物が出没するので当然、前世のように山中に寺社が有るわけでなし。
安全に通行できるのは騎兵が見廻りしている街道のみ、と言えた。
 その街道は行き交う人々で溢れていた。
国都に向かう人。出て来る人。
キャラバン。荷を背負った行商人。行楽客。
収穫物を荷車に乗せた農民の一行。
貴族と思わしき箱馬車の一行。
そして見廻りの騎兵の一隊。
忙しなく言葉が飛び交っていた。
その波に俺達二人もいた。
向かうのは東門。
 途中から波の足が緩くなった。
片側に行列が出来ていた。
門衛が入る者を調べていた。
馴染みの者は貴族・平民関係なく、行列を横目に顔パスで入って行く。
俺達は新規の入門なので、下馬して行列の最後尾についた。
「毎日、同じ門を出入りしていれば門衛が顔を覚えてくれる。
冒険者になったら門衛と顔馴染みになるのも仕事のうちだ」とカール。
 頷く俺にカールが続けた。
「ここまで乗ってきた馬は冒険者ギルドに売り払う。
二頭を預けると飼い葉代や、その他もろもろで結構な費用がかかる。
それよりは売り払って、必要になったら買う。その方が安上がりだ」
 
 カールから色々な冒険者常識を聞くうちに順番が回って来た。
門衛が詰めているテントのテーブルには魔水晶が置かれていた。
魔素をふんだんに含む水晶で、
魔法ギルドが真偽を判断する機能に特化した術式を施したものだ。
いわゆる真偽の魔水晶。
俺達は胸元から認識票を取り出してテーブルに置いた。
平民と分かる銅板の認識票。
表には住まう地方の刻印、村の刻印。
裏には、それぞれ個人の名前と生年月日が刻印されていた。
 カールが手短に説明した。
「俺は国都の冒険者ギルドに登録している。
今はこの子の村で事務職を請け負っている。
来月この子が幼年学校を受験するので、引率して来た」
 一人が認識票を取り上げ、魔水晶の上に翳した。
術式により真偽の判断は発光する色によって示される。
認識票自体も魔法ギルドが特殊な術式を施した物なので、
魔水晶とは親和性が高く、偽物は簡単に見破れる。
発光が青なら本物。赤なら偽物。
当然、二つとも青。
 門衛の一人に、「合格すればいいな」と見送られ、
深い堀に架けられた跳ね橋を渡った。

 門を潜ると、戸倉村とは全く違う別世界が広がっていた。
満遍なく敷き詰められた石畳の上を談笑しながら行き交う人々。
彼等彼女等の衣服が多彩で、就く職業によるのかも知れないが、
色取り取りで眩しい。
村では見掛けなかったローブ姿の者も多い。
それに帽子、フード、そして化粧品の匂い。
 遠くから聞こえてくる歌声、楽器の音色。歓声と拍手。
それらを打ち消すかのような時刻を告げる鐘の音。
 偉容を誇るのは王宮とその関連施設だ。
高さもだがデザインが他の建物とは明らかに違っていた。
誰か一人の作意なのだろう。
金主の国王か、あるいは設計者か。
 見とれていると、「ダン」と呼ばれた。
カールだ。
村を出るときは、「ダンタルニャン様」だったのが、
道中で魔物との遭遇戦を繰り広げているうちに、
「ダン」に変わっていった。
戦いの最中に様付けでは指示しにくい、と言ったとこから始まった。
別に不快ではない。
どちらかと言うと、呼び捨ての方が嬉しい。
村では村長の子供なので当然に思っていたが、
平民として村を出てからは様付けを不自然に感じていた。
平民の自覚が生まれた、と言うことなのだろう。
「あそこが冒険者ギルドだ」とカールが先を指し示した。
 冒険者ギルドは門に近い表通りにあった。
煉瓦造りの三階建てで、歴史が感じられた。
夕方近いからか出入りする者が多い。
みんな軽重はあるが如何にも冒険者、と言った格好をしていた。
「冒険者は荒くれ者が多い上、忙しいから門の直ぐ近くにある。
早い話、鼻つまみ者は国都の奥には入るな、と言うことだな。
まあ、市場とか厩舎、色街も同じ扱いだ」
 カールはギルドの前に馬を繋ぎ、俺を連れて中に入った。
中は騒然とした空気。
「この依頼書の明細をくれ」
「俺達はこれ」
「支払いは後日になります」
「今日中に精算してくれんか」と声が飛び交っていた。
 カールは正面の受付カウンターに向かった。
受付嬢の前には魔水晶が置かれていた。
「御用でしょうか」
 カールは魔水晶に認識票を翳した。
「ギルドの依頼で地方で仕事をしているカールだ。
馬の買い取りを頼む。二頭だ。ギルドの前に繋いでおいた」
 受付嬢は発光の青を確認して、後ろを振り返った。
カウンターの後ろには机が並べられ、職員達が事務仕事をしていた。
「馬二頭の買い取りをお願いします」
「おう」と一人が顔を上げた。
 大柄で厳つい顔の男は受付嬢に頷き、
それからカールを見て表情を変えた。
「おっ、カールじゃないか、久しぶり、生きていたか」
「生きてるから馬を売りに来た。
それよりバリー、お前に事務仕事が出来るのか。字が書けるのか。
計算は苦手だったろう。ギルドは大丈夫なのか」
 バリーは笑い返した。
「はっはっは、久しぶりなのに、酷い言われようだな。
ところで、その子は」
「この子が幼年学校を受験するんで引率して来た」
 俺を引き合わせた。

 バリーは入念に二頭を鑑定した。
「昔からの馴染みだろう。
そこも値段に入れてくれよ」とカールが後ろから軽口。
 バリーは、「馬鹿言うな。ギルドを潰すつもりか」カールを睨み、
「それにしても良い馬だな」俺に笑顔を向けた。
「ありがとうございます。そう聞けば村のみんなも喜びます」
 不意にきな臭い地響き。
荒々しい馬蹄。
五騎が門から風のように駆け込んで来た。
慌てふためき悲鳴を上げて左右に割れる人波。
 国都での騎乗は通常、禁じられていた。
たとえ王族に連なる貴族でも例外ではない。
許されているのは上番中の国軍の騎兵隊か、近衛の騎士隊のみ。
 五騎の背中の旗指物を見てカールが言う。
「美濃の国軍の軍旗だ。おそらく伝令だろう」
「そうなると木曾谷の大樹海の一件か」とバリー。
 木曾谷の大樹海から現れた魔物の群が木曽の町を焼き払い、
大挙して美濃の領都に向かっている、と途中の宿場町で噂していた。
 俺はカールに尋ねた。
「もしかして、例の魔物の大移動の一件なの」
「たぶん」
「美濃の国軍で止められるものなの」
「地方に配備している国軍にその義務はない。
それに国軍の任務はその地方の監視なので兵数も多くはないんだ。
おそらく千人規模だろう。
地方の治安維持は領軍にあって、これに寄親の伯爵軍、
寄子の貴族を寄せ集めた連合軍が加わる。
寄り合い所帯で贔屓目に見ても二万かな」
 俺は心配になった。
美濃が抜かれたら魔物の行き先は近江か尾張の何れかになる。
「それで勝てるものなの」
「結果は指揮官次第だ。
兵力を逐次投入するか、全兵力で迎え撃つか、どちらかだ。
全兵力を投入すれば魔物の群を殲滅出来るかも知れない。
が、味方の被害も大きい。
半分くらいは戦死覚悟になる。
そこをどう判断するか」



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