呂布は田獲を肩に担ぎ、母屋の玄関を出た。
一斉に声が上がった。
みんなが玄関前で待ち構えていた。
増えた野次馬達がまるで味方を迎えるような喝采をすれば、
屋敷の家来達は悲鳴に似た声を上げた。
田澪の馬車が近くに来ていたので、その前に肩の荷をゆっくりと下ろした。
「これが田獲か」と確認を求めた。
彼女が馬車から気絶している男を見下ろした。
「そうよ、この屋敷の主人。
手荒なことはしてないわよね」
「今のところは。
さて、どうしたものか」
屋敷の家宰が駆け寄って来た。
傍らに片膝ついて息があるのを確かめると、安堵して呂布を見上げた。
「何をした」
「何も。
勝手に気を失ったので、担いで来ただけだ」
呂布は思案した。
腕力には自信あるが、この手のことは大の苦手。
なにせ本来は他人事でしかない。
そこで、野次馬達に聞いてみた。
「貸した金を取り立てようとおもうが、この有様だ。どうすればよい」
野次馬達が乗ってきた。
「俺達が家捜ししようか」
「人質にして貸した金と交換だ」
「頭を丸めさせろ」
それぞれが手前勝手ことを言う。
単に面白がっているだけで、全く何の参考にもならない。
田澪が何か言いたそうな顔をしていた。
しかし立会人なので我慢しているらしい。
呂布は昔からある方法を試みようと思った。
晒し者。
丸裸にして表通りに晒すのだ。
それを田澪に告げると嫌な顔をされた。
「起こしてから談合してみては」と。
突然、金切り声が届いた。
玄関から大柄な女が飛び出して来た。
髪を振り乱し、何事か喚きながら、こちらに駆け寄り、
気絶したままの田獲に縋り付いた。
様子から他の者達は眼中にないらしい。
女は必死で田獲の身体を揺さぶり、名前を呼ぶ。
何回も何回も繰り返す。
その甲斐あってか田獲が薄目を開けた。
それに安心したらしい。
ホッと溜め息をついた。
それも束の間、表情を変えた。
「ようやく状況に気づいた」という風な色。
顔を上げて周りを見回した。
特に呂布を念入りに繁々と睨め回した。
女は視線を傍の家宰に転じた。
「借りているお金を直ぐにお返ししなさい」
家宰が目を丸くした。
「それは・・・、奥様、今すぐですか」
会話から女が田獲の女房であると分かった。
「そうです」
家宰にとっては納得出来ない指示だったのだろう。
動きだしが鈍い。
躊躇いの表情で立ち上がり、周りの家来達を見回した。
女房がキツイ声で言い渡した。
「直ぐに動きなさい。私の言うことに従えないのですか」
そこまで言われては、家宰と威張っても結局は使用人の一人、逆らえない。
幾人かの家来を連れ、母屋の裏手に回った。
そちらに蔵があるのだろう。
それを見送った後、女房は夫の田獲を家来に委ねた。
「部屋で休ませなさい」と。
意識を取り戻した田獲であったが、呂布にも田澪にも目を呉れない。
何事もなかったかのように、家来の肩を借りて、弱々しげな風情で母屋に帰って行く。
女房は形だけでなく肝も太いようで、
大勢の野次馬の好奇の目に晒されても動じない。
昂然と顔を上げ、家宰が金を揃えるのを待っていた。
やがて家宰が家来達に金を持たせて戻って来た。
すると女房は呂布ではなくて田澪を交渉相手とした。
相手を見る目もあるようで話が早い。
田澪の目の前に金を積み上げ、借金の証文と交換した。
そうなると、「用がない」とばかりに田澪と呂布に屋敷敷地からの退出を促した。
取り戻した金を田澪の馬車に積み込み、一行は田睦家に戻ることにした。
呂布は馬車に馬を寄せ、何気なさそうに言う。
「終わってみれば簡単だったな。
みんながみんな、あの女房殿のようであれば気楽なんだが」
それを馬車の中の田澪が笑う。
「呂布、アンタは女を見る目がないわね」
呂布が不審げな顔をすると、彼女が続けた。
「あの女は外面が良いだけ。
今頃は怒り心頭で、誰彼構わず怒鳴りつけているわ」
「まさか」
「そういう女なの。
借りた金を返さなかったのも、あの女の指示よ。
亭主を立ててるように見せて、みんなを騙しているけど、
屋敷の実権はあの女が握っているの。
嘘だと思うなら、賭けてもいいわよ」
呂布は賭けない。
それを見て彼女が言う。
「しばらく身辺には気を付けるのよ。
あの女、昔だけど、刺客を放った事があるから」
一斉に声が上がった。
みんなが玄関前で待ち構えていた。
増えた野次馬達がまるで味方を迎えるような喝采をすれば、
屋敷の家来達は悲鳴に似た声を上げた。
田澪の馬車が近くに来ていたので、その前に肩の荷をゆっくりと下ろした。
「これが田獲か」と確認を求めた。
彼女が馬車から気絶している男を見下ろした。
「そうよ、この屋敷の主人。
手荒なことはしてないわよね」
「今のところは。
さて、どうしたものか」
屋敷の家宰が駆け寄って来た。
傍らに片膝ついて息があるのを確かめると、安堵して呂布を見上げた。
「何をした」
「何も。
勝手に気を失ったので、担いで来ただけだ」
呂布は思案した。
腕力には自信あるが、この手のことは大の苦手。
なにせ本来は他人事でしかない。
そこで、野次馬達に聞いてみた。
「貸した金を取り立てようとおもうが、この有様だ。どうすればよい」
野次馬達が乗ってきた。
「俺達が家捜ししようか」
「人質にして貸した金と交換だ」
「頭を丸めさせろ」
それぞれが手前勝手ことを言う。
単に面白がっているだけで、全く何の参考にもならない。
田澪が何か言いたそうな顔をしていた。
しかし立会人なので我慢しているらしい。
呂布は昔からある方法を試みようと思った。
晒し者。
丸裸にして表通りに晒すのだ。
それを田澪に告げると嫌な顔をされた。
「起こしてから談合してみては」と。
突然、金切り声が届いた。
玄関から大柄な女が飛び出して来た。
髪を振り乱し、何事か喚きながら、こちらに駆け寄り、
気絶したままの田獲に縋り付いた。
様子から他の者達は眼中にないらしい。
女は必死で田獲の身体を揺さぶり、名前を呼ぶ。
何回も何回も繰り返す。
その甲斐あってか田獲が薄目を開けた。
それに安心したらしい。
ホッと溜め息をついた。
それも束の間、表情を変えた。
「ようやく状況に気づいた」という風な色。
顔を上げて周りを見回した。
特に呂布を念入りに繁々と睨め回した。
女は視線を傍の家宰に転じた。
「借りているお金を直ぐにお返ししなさい」
家宰が目を丸くした。
「それは・・・、奥様、今すぐですか」
会話から女が田獲の女房であると分かった。
「そうです」
家宰にとっては納得出来ない指示だったのだろう。
動きだしが鈍い。
躊躇いの表情で立ち上がり、周りの家来達を見回した。
女房がキツイ声で言い渡した。
「直ぐに動きなさい。私の言うことに従えないのですか」
そこまで言われては、家宰と威張っても結局は使用人の一人、逆らえない。
幾人かの家来を連れ、母屋の裏手に回った。
そちらに蔵があるのだろう。
それを見送った後、女房は夫の田獲を家来に委ねた。
「部屋で休ませなさい」と。
意識を取り戻した田獲であったが、呂布にも田澪にも目を呉れない。
何事もなかったかのように、家来の肩を借りて、弱々しげな風情で母屋に帰って行く。
女房は形だけでなく肝も太いようで、
大勢の野次馬の好奇の目に晒されても動じない。
昂然と顔を上げ、家宰が金を揃えるのを待っていた。
やがて家宰が家来達に金を持たせて戻って来た。
すると女房は呂布ではなくて田澪を交渉相手とした。
相手を見る目もあるようで話が早い。
田澪の目の前に金を積み上げ、借金の証文と交換した。
そうなると、「用がない」とばかりに田澪と呂布に屋敷敷地からの退出を促した。
取り戻した金を田澪の馬車に積み込み、一行は田睦家に戻ることにした。
呂布は馬車に馬を寄せ、何気なさそうに言う。
「終わってみれば簡単だったな。
みんながみんな、あの女房殿のようであれば気楽なんだが」
それを馬車の中の田澪が笑う。
「呂布、アンタは女を見る目がないわね」
呂布が不審げな顔をすると、彼女が続けた。
「あの女は外面が良いだけ。
今頃は怒り心頭で、誰彼構わず怒鳴りつけているわ」
「まさか」
「そういう女なの。
借りた金を返さなかったのも、あの女の指示よ。
亭主を立ててるように見せて、みんなを騙しているけど、
屋敷の実権はあの女が握っているの。
嘘だと思うなら、賭けてもいいわよ」
呂布は賭けない。
それを見て彼女が言う。
「しばらく身辺には気を付けるのよ。
あの女、昔だけど、刺客を放った事があるから」
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