金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(呂布)318

2014-03-06 21:17:36 | Weblog
 呂布は田獲を肩に担ぎ、母屋の玄関を出た。
一斉に声が上がった。
みんなが玄関前で待ち構えていた。
増えた野次馬達がまるで味方を迎えるような喝采をすれば、
屋敷の家来達は悲鳴に似た声を上げた。
 田澪の馬車が近くに来ていたので、その前に肩の荷をゆっくりと下ろした。
「これが田獲か」と確認を求めた。
 彼女が馬車から気絶している男を見下ろした。
「そうよ、この屋敷の主人。
手荒なことはしてないわよね」
「今のところは。
さて、どうしたものか」
 屋敷の家宰が駆け寄って来た。
傍らに片膝ついて息があるのを確かめると、安堵して呂布を見上げた。
「何をした」
「何も。
勝手に気を失ったので、担いで来ただけだ」
 呂布は思案した。
腕力には自信あるが、この手のことは大の苦手。
なにせ本来は他人事でしかない。
そこで、野次馬達に聞いてみた。
「貸した金を取り立てようとおもうが、この有様だ。どうすればよい」
 野次馬達が乗ってきた。
「俺達が家捜ししようか」
「人質にして貸した金と交換だ」
「頭を丸めさせろ」
それぞれが手前勝手ことを言う。
単に面白がっているだけで、全く何の参考にもならない。
 田澪が何か言いたそうな顔をしていた。
しかし立会人なので我慢しているらしい。
 呂布は昔からある方法を試みようと思った。
晒し者。
丸裸にして表通りに晒すのだ。
 それを田澪に告げると嫌な顔をされた。
「起こしてから談合してみては」と。
 突然、金切り声が届いた。
玄関から大柄な女が飛び出して来た。
髪を振り乱し、何事か喚きながら、こちらに駆け寄り、
気絶したままの田獲に縋り付いた。
様子から他の者達は眼中にないらしい。
女は必死で田獲の身体を揺さぶり、名前を呼ぶ。
何回も何回も繰り返す。
その甲斐あってか田獲が薄目を開けた。
それに安心したらしい。
ホッと溜め息をついた。
それも束の間、表情を変えた。
「ようやく状況に気づいた」という風な色。
顔を上げて周りを見回した。
特に呂布を念入りに繁々と睨め回した。
 女は視線を傍の家宰に転じた。
「借りているお金を直ぐにお返ししなさい」
 家宰が目を丸くした。
「それは・・・、奥様、今すぐですか」
 会話から女が田獲の女房であると分かった。
「そうです」
 家宰にとっては納得出来ない指示だったのだろう。
動きだしが鈍い。
躊躇いの表情で立ち上がり、周りの家来達を見回した。
 女房がキツイ声で言い渡した。
「直ぐに動きなさい。私の言うことに従えないのですか」
 そこまで言われては、家宰と威張っても結局は使用人の一人、逆らえない。
幾人かの家来を連れ、母屋の裏手に回った。
そちらに蔵があるのだろう。
 それを見送った後、女房は夫の田獲を家来に委ねた。
「部屋で休ませなさい」と。
 意識を取り戻した田獲であったが、呂布にも田澪にも目を呉れない。
何事もなかったかのように、家来の肩を借りて、弱々しげな風情で母屋に帰って行く。
 女房は形だけでなく肝も太いようで、
大勢の野次馬の好奇の目に晒されても動じない。
昂然と顔を上げ、家宰が金を揃えるのを待っていた。
 やがて家宰が家来達に金を持たせて戻って来た。
すると女房は呂布ではなくて田澪を交渉相手とした。
相手を見る目もあるようで話が早い。
田澪の目の前に金を積み上げ、借金の証文と交換した。
そうなると、「用がない」とばかりに田澪と呂布に屋敷敷地からの退出を促した。
 取り戻した金を田澪の馬車に積み込み、一行は田睦家に戻ることにした。
呂布は馬車に馬を寄せ、何気なさそうに言う。
「終わってみれば簡単だったな。
みんながみんな、あの女房殿のようであれば気楽なんだが」
 それを馬車の中の田澪が笑う。
「呂布、アンタは女を見る目がないわね」
 呂布が不審げな顔をすると、彼女が続けた。
「あの女は外面が良いだけ。
今頃は怒り心頭で、誰彼構わず怒鳴りつけているわ」
「まさか」
「そういう女なの。
借りた金を返さなかったのも、あの女の指示よ。
亭主を立ててるように見せて、みんなを騙しているけど、
屋敷の実権はあの女が握っているの。
嘘だと思うなら、賭けてもいいわよ」
 呂布は賭けない。
それを見て彼女が言う。
「しばらく身辺には気を付けるのよ。
あの女、昔だけど、刺客を放った事があるから」


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