金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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なりすまし。(62)

2016-04-10 07:09:35 | Weblog
 俺は嫌な気分になった。
「家来を無駄死にさせて満足なのか」
 西鶴と源内がキョトンとした。
俺は続けた。
「寿命を延ばしたいのなら、自分で先頭に立って倒せばいいだろう」
 表情を改めた二匹にマジマジと見詰められた。
それでも俺の口はおさまらない。
「千年も万年も生きて、どうする。それが何になる。
仲間達の寿命が尽きても、自分だけが生き残る。
同じ事を何回も何十回も、何百回も繰り返す
長々と生きるのが偉いのか。
第一、それだけ長生きする、という証拠があるのか。
誰かが見届けていたのか。
怪物を食った結果を誰かが見届けて、長寿を約束してくれたのか」
 源内がイヤハヤとばかりに頭を左右に振った。
「慮外な熱き奴じゃな」
 西鶴が後を引き取った。
「疑い深いんは結構なこと。
我らんも千年も万年も寿命が延びるとは思ってへん。
我らんゲテモンやけど馬鹿ではおまへん。
やけど百年か二百年は寿命が延びるます。
ワシも源内も百年ほど前に、あないな怪物を食ってますんや。
そや、思い出どした。
我らん先達ん狼はんは三百年は生きたんや」
 驚いた。
千年には遠く及ばないが、長寿が実証されていた。
狐や犬狼等、獣の寿命は人間に比べて半分にも満たない。
十年から二十年が普通だろう。
運良く長寿だとしても三十年。
それを覆し、狼が三百年も生きていた。
目の前の二匹も百歳を越えていた。
 源内が言う。
「家来を無駄死にさせてる分けではござらぬ。
あの薫香は長くても五日ほどにて消え失せしめる。
薫香が消え失せしめると長寿の効果も失せしめる、なる言われておる。
それにて家来どもは、長寿を望む家来はなれど、その前に食わねばならね」
「お前達の為に戦っている分けではないのか」
「捕った獲物は主の我らが最初に口をつける。
それが主の仕事じゃからな。
けれど、我らは昔に食ったから、もう結構。
充分に長生き致しおる。
こたびは家来共の獲物じゃ。
形だけの献上を受けるが、直ぐに下げ渡す」
「すまん、勘違いしていた。
家来が討ち取って、お前達に献上するのかと思っていた。すまん」俺は頭を下げた。
「人が獣に頭を下げるのか。
初の事見た」源内が満足そうに言う。
 西鶴も満更ではなさそうな表情をした。
 俺達の目の前の戦いは今も熱く続けられていた。
犬や狐の闘志は未だ衰えていない。
仲間が斃されても一匹として後退りしない。
痛み苦しみ横たわる仲間を横目に、遺骸を踏み越え、前へ前へと足を進めた。
それ以上に驚いたのは怪物の動きだ。
鈍るそぶりの欠片さえ見られない。
俺は心配になった。
「あれで倒させるのか」
「今戦っているのは、人にて申すなら足軽。
部将共は遠巻きにして、相手の動きを見取っておる。
見切ったと思えば、その部将共が一斉に出撃する」
 とても見切れるとは思わなかった。
怪物が右に左に飛んで跳ねて、流れる体捌きで四つ足共を翻弄していた。
殴る、蹴る、余裕があれば引き裂き、へし折る。
あるいは捕らえた四つ足を武器とし、それでもって他の四つ足を薙ぎ払う。
それのどこに隙を見出すというのか。
俺ではとうてい無理。
 ところが新たな動き。
これまでとは違う咆哮が夜空に響き渡った。
それを合図に、最前線にいた犬狐共が一斉に後退した。
替わって四方から新手の犬狐共が駆けだした。
彼等が部将なのだろう。
間合いが遠いにも関わらず、彼等が一斉に宙に飛んだ。
鳥かと思わせる脅威的な飛翔で、四方から怪物の遙か頭上に到達した。
宙で四つ足を大きく伸ばした。
犬狐の区別なく手足を絡ませて密着し、宙で巨大な生きる網とした。
個の利害も、種の利害もない。
ただ一つの目的の為に犬狐で網を組んだ。
怪物を上から圧して包むように落ちて行く。
多勢の利を活かし、隙間なく絡み付いて自由を奪う。
それでも暴れるようなら、両手両足を食い千切る。
そう見て取れた。
 怪物の武器は手足四本のみ。
これでは網の一部分が砕けても、絡み捕られる事からは逃れられない。
その前に逃れるしか手がない。
が、一旦退いた犬狐達も傍観していない。
怪物を逃さぬように再び包囲網を構築し、狭め始めた。




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