マリリンはこの二、三日、ホッとしていた。
麗華達の前で素直に号泣し、
差し支えのない範囲で事情を説明したのが良かったのかも知れない。
今では身も心も軽やか。
溜めていた負は全て吐き出した。
吐き出した代わりに味方を得た。
年若い娘達で、全幅とはいかないまでも、かなりの信頼が置けた。
誰も見ていないならスキップしたい気分。
今なら雲の上だって歩ける。
午後いつものように赤劉城の市場を冷やかして歩いた。
供は陶兄妹と侍女の宋純。
今やこの三人はマリリンにとって欠かせない存在。
まるで家族のようなもの。
宋純が叔母さんで、陶洪が弟、陶涼が妹。
交わす言葉も以前に比べて柔らかくなった。
マリリンが目の見えぬ陶涼の手を引いて、市場を案内した。
「三歩前の右側に屋台が出ているからね」
「だから美味しそうな匂いがするんだ」と陶涼。
「匂いに釣られて転ぶんじゃないわよ」
「酷い、私はもう子供じゃないんだから。
あれっ、この匂いは前に食べたお店だよね」
覚えていたらしい。
市場独特の喧騒と匂いが陶涼に良い影響を与えていることは確かだ。
それで彼女が目に開ける気になるかどうかは、また別の問題だか。
そんな様子を陶洪と宋純が後ろから嬉しそうに見守っていた。
突然、前方で怒鳴り声が響いた。
数軒先の居酒屋から男達が飛び出して来た。
いずれも屈強な者達ばかり。
最後に出て来た男を見てマリリンは驚いた。
関羽ではないか。
酔っていて、足下がふらついていた。
その関羽を、先に飛び出した男達が取り囲む。
男達も酒が入っているようだが、足下はしっかりしていた。
体格は関羽が頭一つ抜けていても、相手は五人。
その五人がめいめい勝手に関羽を罵った。
人数で優位を確信しているらしく、一人として尻込みしない。
双方とも酒が入っていても場所柄は承知か、腰の太刀を抜く気配はない。
こんな人出の多い場所で刃物沙汰では、直ぐに役人が駆けつけて来る。
それを恐れているのだろう。
「喧嘩慣れしている」と言うべきか。
手を繋いでいる陶涼に問われた。
「喧嘩が始まるの」
目が見えなくても事態を察したようだ。
「そうだよ。
珍しいことに酔っている関羽殿が、五人を相手に喧嘩するらしい」
「ええっ、関羽殿なの。
それは大変、止めなくちゃ」
陶涼は関羽にも可愛がられているので、心配になるのだろう。
「大丈夫よ。
関羽殿は、お酒が入っていても強いわ。
酔ってるくらいで丁度良いのかもね」
陶涼が握っている手に力を込めた。
「分からない。
どうして、お酒が入っている方がいいの」
「酔ってない時は力の加減がないの。
真面目だから精一杯やるの。人を殺すくらいの力を込めるわ。
でも酔ってると、機嫌が良いのか、手加減が出来るの」
実際、目の前の関羽は飛んでくる罵詈雑言を楽しそうに聞いていた。
五人相手にも関わらず、どうしても真剣になれないのだろう。
その態度、傲慢無礼に見えなくもない。
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麗華達の前で素直に号泣し、
差し支えのない範囲で事情を説明したのが良かったのかも知れない。
今では身も心も軽やか。
溜めていた負は全て吐き出した。
吐き出した代わりに味方を得た。
年若い娘達で、全幅とはいかないまでも、かなりの信頼が置けた。
誰も見ていないならスキップしたい気分。
今なら雲の上だって歩ける。
午後いつものように赤劉城の市場を冷やかして歩いた。
供は陶兄妹と侍女の宋純。
今やこの三人はマリリンにとって欠かせない存在。
まるで家族のようなもの。
宋純が叔母さんで、陶洪が弟、陶涼が妹。
交わす言葉も以前に比べて柔らかくなった。
マリリンが目の見えぬ陶涼の手を引いて、市場を案内した。
「三歩前の右側に屋台が出ているからね」
「だから美味しそうな匂いがするんだ」と陶涼。
「匂いに釣られて転ぶんじゃないわよ」
「酷い、私はもう子供じゃないんだから。
あれっ、この匂いは前に食べたお店だよね」
覚えていたらしい。
市場独特の喧騒と匂いが陶涼に良い影響を与えていることは確かだ。
それで彼女が目に開ける気になるかどうかは、また別の問題だか。
そんな様子を陶洪と宋純が後ろから嬉しそうに見守っていた。
突然、前方で怒鳴り声が響いた。
数軒先の居酒屋から男達が飛び出して来た。
いずれも屈強な者達ばかり。
最後に出て来た男を見てマリリンは驚いた。
関羽ではないか。
酔っていて、足下がふらついていた。
その関羽を、先に飛び出した男達が取り囲む。
男達も酒が入っているようだが、足下はしっかりしていた。
体格は関羽が頭一つ抜けていても、相手は五人。
その五人がめいめい勝手に関羽を罵った。
人数で優位を確信しているらしく、一人として尻込みしない。
双方とも酒が入っていても場所柄は承知か、腰の太刀を抜く気配はない。
こんな人出の多い場所で刃物沙汰では、直ぐに役人が駆けつけて来る。
それを恐れているのだろう。
「喧嘩慣れしている」と言うべきか。
手を繋いでいる陶涼に問われた。
「喧嘩が始まるの」
目が見えなくても事態を察したようだ。
「そうだよ。
珍しいことに酔っている関羽殿が、五人を相手に喧嘩するらしい」
「ええっ、関羽殿なの。
それは大変、止めなくちゃ」
陶涼は関羽にも可愛がられているので、心配になるのだろう。
「大丈夫よ。
関羽殿は、お酒が入っていても強いわ。
酔ってるくらいで丁度良いのかもね」
陶涼が握っている手に力を込めた。
「分からない。
どうして、お酒が入っている方がいいの」
「酔ってない時は力の加減がないの。
真面目だから精一杯やるの。人を殺すくらいの力を込めるわ。
でも酔ってると、機嫌が良いのか、手加減が出来るの」
実際、目の前の関羽は飛んでくる罵詈雑言を楽しそうに聞いていた。
五人相手にも関わらず、どうしても真剣になれないのだろう。
その態度、傲慢無礼に見えなくもない。
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