金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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金色の涙(白拍子)95

2009-01-29 21:13:21 | Weblog
 五右衛門は仕事の手順を説明していた。
今夜は大仕事なので、念には念を入れなければならない。
事前の打ち合わせを疎かにすると、これまでの経験から碌な事が無かった。
 今夜の相手は京でも一・二を競う質屋。
短時間で効率的に済ませて、京の外へ逃げる算段でいた。
 目の端に、緩慢に起き上がるヤマトの様子が映った。
なんだか、いつもと雰囲気が違う。
何かを訴えるかのように軽く睨むではないか。
そして、外を見るように促がした。
 次の瞬間には、ヤマトは素早く身を翻した。
隙間から部屋の外へ抜け出した。
 五右衛門はヤマトの動作を理解した。
仲間達に気付かれぬように、外の気配に注意を払う。
微妙な違和感を感じた。
清浄な竹林の空気に濁りが混じったようなのだ。

 ヤマトは廊下から土間、床下を抜けて家の外へ。
何の躊躇いも無く、屋根に跳び上がった。
遠目に捕り手達の姿を見つけた。
彼等は剣呑な空気を漂わせながら、慎重に接近して来るではないか。
 何故ここが露見したのか。
呼び集めた者達に尾行がついてないかどうか、五右衛門は事前に物陰に潜み、
慎重に見張っていた。
彼の目を逃れる者がいるとは思えない。
となると、尾行ではなくなる。それは、裏切り者の存在しか考えられない。
 「金色の涙」は圧縮保存したままだった猫又を解凍展開した。
一瞬で猫又がヤマトを支配した。
本来のヤマトに異存はない。
今ではすっかり「金色の涙」の判断を信頼していた。
 猫又は屋根に四足で踏ん張るように立ち、空に向かって高々に吼えた。
遠い記憶にある「戦いの歌」だ。
山猫が戦いを挑む時、「俺はこれから戦うよ」と甲高い声で歌うように吼える。
それは狼の遠吠えを連想させる。
 竹林の空気が一変した。
捕り手達は場違いな咆哮に足を竦ませた。
「不逞浪人狩り」に来たのであって、狼狩りではない。
そこここで禁じられた私語が飛び交う。

 屋内にいた者達も驚いて顔を見合わせた。
悪事に慣れていても、身近に獣の咆哮を聞かされては、ビビってしまうらしい。
 五右衛門はヤマトの咆哮とは別に、微かだが人の声を聞き取った。
四方から聞こえてくる。どうやら包囲されているらしい。
これをヤマトは伝えたかったのだろう。
 事前に尾行の有無を確かめた五右衛門は、裏切り者の存在を確信した。
助っ人として呼んだ五人の内の誰かだろう。
が、今はそんな詮索してる暇はない。
己の命に代えても仲間達を脱出させなければならない。
 五右衛門は皆を見回した。
「すまん。どうやら囲まれたようだ」

 猫又の咆哮が竹林から京北の山々に響き渡った。
鞍馬での鬼騒動の戦塵はまだ燻ぶっていた。
狐や狸達の戦いぶりを物陰から見ていた山猫達は、何か物足りなげに感じていた。
そこに猫又の歌。聞き逃す筈がない。
静まりかけていた血が昂ぶる。
一匹が呼応するかのように、雄叫びを上げた。別の一匹が駆け出した。
釣られたかのように山々の山猫達が動き出した。

 忍犬二匹が咆哮を聞いて背筋を伸ばした。
じっとその方向を睨みつけながら低く唸る。
威嚇の中に怯えも混じっていた。
喜蔵が傍にいなければ、そそくさと逃げたかもしれない。
 喜蔵は二匹の様子から、咆哮の正体がヤマトと気付いた。
となると、今日の相手は石川五右衛門だ。
「不逞浪人狩り」というのは名目で、所司代の中からの漏洩を恐れたのだろう。
用心深い与力ではないか。
ただ一つ心配が。五右衛門相手にしては人手が少ないのだ。
何か手当てをしているのだろうか。
 喜蔵は与力の傍に寄った。
「お見事ですな。五右衛門を窮地に追い込むとは」
 その言葉に与力の表情が緩む。
「気付いたか」
「はい」
「狼のように吼えているのが黒猫だろう」
「そうです」
「お主には黒猫の押さえを頼む。五右衛門は我等で捕らえる」
「この人数で大丈夫ですか。相手は五右衛門です」
「わざと北を手薄にしてある」

 五右衛門が先頭に立ち、家から飛び出した。
脇目も振らずに捕り手達を斬り捨てた。
瞬時に包囲網の弱い所を見抜いた。
手薄な北側へ仲間達を導く。
竹林を抜け、林に入る。
 捕り手達の姿が消えるが、代わりに別の者達が姿を現した。
十四・五人。柿茶色の装束に身を包んでいた。
雑賀の忍びが埋伏していたのだ。
 前方を塞がれてしまった。
背後からは捕り手達が追って来る気配。
愚図ついていると再び包囲されてしまう。
 五右衛門の決断より、相手側の方が先に動いた。
先頭の者が口を開いた。
「五右衛門のみに用がある。他の者達は立ち去れ」
 五右衛門の背後にいた一人が呼応するかのように、右へ逃れた。
助っ人で呼んだ者だ。
他の助っ人達もそれに続いた。
残ったのは五右衛門配下の三人のみ。




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