金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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金色の涙(白拍子)224

2010-04-18 10:17:16 | Weblog
 八王子を出立した長安隊、三千余が多摩川の浅瀬を渡った。
長安隊の指揮を委ねられた真田昌幸は、寄せ集めの者達を部隊に慣れさせようと、
調練を重ねながら部隊を行軍させた。
「江戸入りしてから部隊の動きが悪くては長安殿に恥をかかせる」と懸念したのだ。
その為、渡河も伏兵を想定して行動したので時間がかかった。
 府中の郊外に野営し、次の日はそこで調練に一日を費やした。
付け焼き刃ではあるが部隊としての動きが円滑に行なわれるように努めた。
最大の欠点は、寄せ集めであるので初顔合わせの者達が多い事。
互いを馴染ませる事に力点を置いた。
 そんな様子を白拍子達は呆れて見ていた。
再会してからは片時も傍を離れぬ於福が、「この調子では先行きが暗い」と嘆き、
それに九郎が、「頭数だけだな」と深く同意。
 そんな二人に白拍子は説明した。
「もともと長安隊には戦慣れした者達が少ないのよ。
その数少ない戦慣れした者達は岩槻城の救援に向かったまま。
戻って来る気配がないわ」
 そんな遣り取りを離れた所から黒太郎が寝そべって見ていた。
いつまで経っても白拍子や於福には馴染もうとしない。
その片耳が不意にピンと立った。
素早く四肢で立ち上がり警戒の目を北に向けた。
 於福が片眉を吊り上げた。
「於雪様、嫌な気配が近付いて来ます」
「そのようね」
 九郎の傍に黒太郎が駆け寄った。
言うより速く九郎は黒太郎の背中に飛び乗った。
黒太郎は人よりも大きな犬なので赤ん坊の九郎を乗せても苦にしない。
一足跳びに北へ駆けた。
 後を追うように白拍子と於福も駆けた。
於福が脇に並びながら、「空を飛ばないのですか」と尋ねた。
「一緒に走りたいのよ、良いでしょう。
それより、調練している者達の邪魔をさせぬように私達で片付けましょう」
 北の雑木林を抜けた所で明らかに魔物と分かる一群と遭遇した。
およそ二百余。戦仕度をしていた。
どうやら長安隊を急襲する腹積もりであったらしい。
 先頭の黒太郎が九郎を乗せたまま、敵に躍りかかった。
繰り出される槍を強引に前足で払い除けて、首筋に噛み付く。
相手の陣笠が落ち、血飛沫が舞う。
首筋を半分食い千切り、四肢で具足を引き剥がした。
 九郎が溜めていた気を、「気の矢」として練り上げ、別の相手の目に放った。
凄まじい衝撃で、それが相手の後頭部から突き抜けた。
 於福が腰の刀を抜いて斬り込む。
次々と、手慣れた刀捌きで槍を受け流し、相手の片腕、ないしは手首を斬り落とし、
魔物の剛力を技で凌いでみせた。
 魔物よりも大柄な白拍子は素手で相手の槍をはね除けた。
そして肩で当たって弾き飛ばし、足で踏みつけて相手の腰の刀を強奪した。
刀を手にするや、まるで舞うかのような刀捌き。
魔物達の手足を切り離し、首を容赦なく斬り落としてゆく。
 三人と一匹で敵の進軍を足止めした。
先頭を崩された敵は立て直しに必死となった。
 そこへ慶次郎と佐助、若菜の三人が騎馬で現れた。
慶次郎を乗せた鈴風が闘争心丸出しで敵の右翼に突入。
強引に前足で敵を蹴り飛ばす。
佐助を乗せた坂東も負けてはいない。
頭から敵中に突っ込んで行く。
若菜を乗せた馬も釣られたように後を追う。
 彼等だけではなかった。孔雀達も現れた。
同じく騎馬で、左翼に斬り込んで行く。
先頭に立つ孔雀の目は血走っていた。
尼僧という立場を捨てて刀を振り回す様は、まるで阿修羅の如し。
右に左に、繰り出される槍を敵の腕諸共に斬り捨てて行く。
善鬼や典膳、小太郎達も負けじと敵中に躍り込む。
 普通の兵の集まりである長安隊を急襲しようとしていた魔物達だったが、
その前に立ち塞がったのは魔物慣れした強者達。
彼等に先頭のみならず隊列までも崩されてしまった。
慌てて隊列を組み直そうと図る。
 白拍子の目の前から敵が退いてゆく。
どうやら少し高台になった所に布陣するらしい。
そうはさせじと左右から慶次郎、孔雀等が食い下がる。
 白拍子は、「聞きたいのだけど」と於福の足を止めさせた。
訝しげに於福が、「どうしたのです」と振り向く。
「私は貴女達に再会する為に実体化したのかしら。どう思う」
「これは、また唐突ですわね」
「魔物達を見たら、そういう疑問が湧いてきたの。
貴女達に再会する為なのか、それとも魔物達を退治する為なのか。
何かしら意味があると思うの」
「そうですわね。
たしかに私達を閉じ込めていた結界が解けたのも、偶然にして片付けるには、
時期的にも、あまりにも偶然過ぎますものね。
何かしらの天意が動いたのでしょうか」
「天意・・・あるものなのかしら。
私が、ここ武蔵の国まで来たのは鞍馬で才蔵に偶然に出会ったから。
でなければ、ここまで来なかったわ。
それが天意というものなの。ただ、再会するだけのためのもの」
「そういえば私達も追われて逃げて来ただけ。
御陰で貴方様に再会出来たし、才蔵殿の事も分かった。
これだけの為に、随分と偶然が重なったものですわね」
「あからさまに積み重なった偶然よね」
「だとすると何がしかの意味がある筈ですわね」
 すると、足下から不意を突く声。
「人のように悩むのかい。似合わないよ、迷う魔物なんて」
 何時の間にか黒猫ヤマトが来ていた。
周囲の戦の騒がしさに、その接近には全く気付かなかった。
それでも二人は驚いた様子は微塵も感じさせない。
 於福が、「どうしてここに」と尋ねた。
「東国の狐狸達が非常態勢を敷いていてね、その連絡網から届いたのさ。
豪姫達が江戸に向かっているってね」
 白拍子は、「豪姫を怒らないでね」と頼む。
「分かっている。ここまできたら怒らないよ」
「それでこそヤマトよ」
「どうした、口が上手くなったじゃないか」
「そうかしら」
 ヤマトが真面目な顔で、「天意を知りたいか」と尋ねてきた。
「分かるの」
「おおよそは」
「説明して」
「考えてみなよ。お前の後を誰が追ってきたのか」
 白拍子は、「えっ、・・・」と目を見開き、「もしかして、豪姫」。
「もしかしなくても豪姫。その豪姫に大勢が連れられて来た」
「ヤマトもそうだったわね」
「そう。だから、お前達の再会なんていうのは小さい事なんだ」




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