金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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なりすまし。(15)

2015-10-28 21:27:08 | Weblog
 どうやら、「あるぷす」は社名であるらしい。
その軽自動車から一組の男女が、まるで転げ落ちるように、飛び出して来た。
様子から同僚同士と見えた。
近くに居た作業員に駆け寄り、女の方が早口で何事か捲し立てた。
剣幕に押されたのか、聞かれた作業員は辺りを見回した。
そして俺に目を留めると、行き成り指差した。
 女は俺を視線のうちに捉えると、笑顔で駆け寄って来た。
走る姿は頂けないが、意外と人目を惹く容姿をしていた。
化粧映えしてるのかと思ったら違った。
すっぴん。
年の頃は三十路前後だろう。
俺の正面に立つと、息を整えるより先に軽く頭を下げた。
大人の女の香りが俺の鼻を擽った。
息を整え、「発掘の責任者の雨宮さんですね」と確認し、手早く名刺を手渡し、
「地元のテレビ局です。土饅頭の掘り返しを取材させて貰えませんか」用件を告げた。
 断る理由はない。
許可しようと・・・したものの、言葉を飲み込んだ。
視界の片隅に異な動きを捉えたからだ。
送れて来た男の動きに目を奪われた。
男は小さな鞄から、さらに小さなカメラを取り出した。
スマートフォンをバージョンアップして、取材向けのカメラに特化させたものだ。
長時間収録に耐え得るようにバッテリー容量も大型化されているので、
見た目、不格好、蛙に似ていた。
次にマイクを取り出した。
慣れた手付きでマイクとカメラを同期させ、マイクを女に手渡し、
自分はカメラを構えた。
レンズが俺に向けられた。
 女がマイクチェックするのを横目に、俺はカメラのレンズを遮った。
「俺の顔出しはNGで」
 女がキョトンとした顔で俺を見た。
男もカメラをずらして俺を見た。
それから二人で顔を見合わせた。
 女が真顔で俺に言う。
「NGなんて、まるで芸能人みたい」
 聞きようによっては、「馬鹿にしてる」みたいに聞こえるだろう。
だが女の表情からそれは窺えない。
深い意味は微塵も感じられない。
 俺は本名と偽名を使い分けて生活していた。
テレビで顔出しなんて、どこで誰の目に触れるか分からない。
出演は墓穴を掘るに等しい。
だからといって、正直には説明出来ない。
強引に切り抜けるしかない。
 ところが女はアッサリ、NGを受け入れた。
「足下だけを撮るのでインタビューさせてくれ」と言う。
 これ以上の拒否は出来ない。
受け入れた。
 女の表情が崩れた。
「有り難う御座います。
それでは、
・・・、
掘り返されるのは昔々に人身御供になった女児達の墓、いわゆる昔風の墓、
土饅頭ですね」
「ええ」
「その数は三つとか」
「そうです」
 当たり障りのない質問が続いたと思ったら、急に変わった。
「犠牲になった女児達の数が分かりますか」
「それは聞かされていません」
「そうですか。
その土饅頭を雨宮家が個人で管理していた理由は」
「この辺りの大地主だったからでしょう。
今で言うところの村長か町長のような存在でしたからね」
「ご謙遜を。
武士階級よりも広い土地を所有し、懐事情は豊かだったのでしょう。
市長か県知事の間違いではないですか」
 答えようがない。
すると女が両目を細めた。
「人身御供になった女児達は雨宮家の犠牲になった分けですよね」辛辣に問う。
 これまた答えようがない。
事実かどうかではなく、他人の俺には関係ないこと。
 女は執拗な追求はせず、話題を変えた。
「ここにあった神社はすでに移転したんですよね」
「そうです、それが」
 女が妙な目力を出した。
「その神社も雨宮家の個人所有。
一般家庭で神社を所有するのは珍しいですよね」
 俺が応じないので女は続けた。
「噂では、移転の際に土饅頭を置き去りにした。
それで土饅頭に祀られていた女児達の霊が怒り、祟って、
この峠で交通事故を何件も引き起こし、大勢の死傷者を出した。
そうと知って、雨宮家は慌てて土饅頭の移転を決めた。違いますか」
「もっと続けてくれません。聞きたいですね」
「別の噂もあります。
それを私なりに考えてみました。
その被害者の中に貴男の妹さん夫妻もいましたね。
残念なことに二人とも亡くなりました。お気の毒です。
貴男が家を捨てたので、妹夫婦が雨宮家の後継者になった。
でも二人が亡くなったことで、貴男にも後継者復帰の目が出てきた。
そういう噂もあります。如何ですか」まるで取り調べ。
 女は話し終えると挑発的な目付きで俺を見据えた。
 傍で聞いていた刑事と教授が異議を唱えようとした。
それを俺は片手で制し、無表情で女を見返した。
「俺で時間潰しをしていると、肝心の土饅頭の掘り返しが終わりますよ」
 女は当初のイメージを、かなぐり捨て、鼻で笑った。
「そうよね」と応じ、相棒を振り返りもせずに、「行くわよ」と駆け出した。
 駆け去る後ろ姿を目で追いながら、刑事と教授が口を揃えた。
「喰えない女でしょう」
「喰っちゃうと、腹を壊しそうですね」
 教授が朗らかに笑う。
 刑事は、
「いつもあの調子で相手を怒らせるんですよ。
怒らせて、相手が口を滑らせるのを待っているみたいです」
と苦虫を噛み潰したような顔。




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