《ニュース》
ピューリッツァー賞などを受賞した著名な米調査報道ジャーナリストのシーモア・ハーシュ氏がこのほど、昨年9月に起きたノルドストリーム爆破事件について新たに続報を公表し、話題を呼んでいます。
《詳細》
ハーシュ氏は、米共和党関係者が民主党本部に盗聴器を仕掛けたウォーターゲート事件や、ベトナム戦争での米軍による虐殺事件、アメリカ政府の黙認の下でイスラエルが核保有国になった経緯などを独自にスクープしたことで知られる有名なジャーナリストです。
ハーシュ氏は今年2月、ノルドストリーム爆破事件がアメリカの工作によって引き起こされたとする記事を公表しました。2021年末、バイデン政権の主導によって中央情報局(CIA)の職員らを含む特別チームが結成。ノルウェー海軍の協力を受けて水中音波探知機を海中に投下し、最先端の信号処理技術によって爆発させたと論じています。
バイデン政権はハーシュ氏の論を否定し、ウクライナの特殊部隊による犯行だとする見方が広まるも、その後も実行犯は特定されないまま事件から1年が過ぎました。迷宮入りする現状に対し、9月26日に開かれた国連安全保障理事会では、米政府の関与を調査するよう求める声もあがっています(*)。
(*)米コメンテーターが理事会で指摘した。バイデン米大統領自身がウクライナ戦争勃発以前の昨年2月7日時点で、ノルドストリームの破壊を予告しているにもかかわらず、主流メディアはその事実を無視していると指摘した上で、ハーシュ氏の報道に言及している。
そうした中、爆破事件から1年が経った9月26日、ハーシュ氏はさらに詳細な続報を公表しました。
それによれば、当初ノルドストリーム爆破作戦は、プーチン露大統領がウクライナに侵攻しないための「抑止力」として立案され、ホワイトハウスに召集されたCIAのチームはその理解で参加していたとのことです。
爆破を抑止力として機能させるため、ウクライナ戦争が始まる前か、もしくは始まった直後に爆破作戦を実行し、アメリカ政府としてその意図について声明を出す計画だったとのこと。しかしバイデン政権とCIAの意図には乖離があったといいます。
というのも政権にとってパイプライン爆破の目的は、ドイツとロシアの切り離しであり、さらには安価なエネルギー供給網によって北大西洋条約機構(NATO)がロシアの支配下に入らないようにすること、つまりウクライナ戦争とは無関係だったとのことです。
ハーシュ氏の情報源によれば、CIA側は昨年1月時点で計画に関する諸問題を解決しホワイトハウスに報告したとのこと。その後昨年2月7日、バイデン氏がドイツのショルツ首相との共同記者会見で、以下のように発言して記者団を困惑させたことは注釈で前述した通りです。
「もしロシアが(ウクライナに)侵攻すれば、つまり戦車や軍隊が再び国境を超えれば、ノルドストリーム2はなくなります。私たちはそれを終わらせます」「約束します。我々にはそれができるのです」
ハーシュ氏の続報によればバイデン氏の発言後、CIAチームはホワイトハウス側から、パイプラインを直ちに攻撃することはないと言われたとのこと。その代わり、戦争が始まってから"オン・デマンド(要求に応じて)"で発動できるよう準備しておくように指示を受けたといいます。ハーシュ氏の情報源は、「その時、パイプラインへの攻撃が抑止力にならないことを理解した」と明かしています。