米ニューヨーク州の裁判所は9月26日、トランプ前大統領と息子らが10年間にわたって、資産を過大に申告していたなどとする金融詐欺疑惑をめぐり、法的責任があると認めた。

 

トランプ氏は、現在、4つの起訴(不倫口止め料会計処理問題〔3月18日起訴〕、政府機密書類持ち出し疑惑〔6月9日起訴〕、議事堂襲撃事件関与疑い〔8月1日起訴〕、ジョージア州の選挙結果を覆そうとした疑惑〔8月14日起訴〕)以外に、2つの訴訟を抱えており、この認定は、このうちの1つ、ニューヨーク州司法長官のレティシア・ジェームズ氏(民主党)が昨年9月に起こした民事訴訟に対するもの。

 

ジェームズ氏は、トランプ氏と2人の息子、トランプ一族が経営する「トランプ・オーガニゼーション」について、2011年から2021年にかけて、銀行融資などで有利な条件を引き出すために、純資産と資産価値を虚偽報告していたと主張していた。

 

2019年1月から現職に就いているジェームズ氏は、2022年11月投開票のニューヨーク州知事選に民主党から立候補したが(2021年11月に出馬表明し、当選すれば初の黒人女性として注目を集めた)、2022年6月の予備選で候補者として残ることはできず、同年11月の選挙で、州司法長官に再選されている(民主党から立候補)。

 

アメリカでは、地方(州)の司法長官や検事は、各政党から立候補して選挙で選ばれ、また、それらの役職は、政界へのステップとも考えられていることから、トランプを起訴したニューヨーク州マンハッタン地区検事やジョージア州フルトン郡地区検事などと同様、「トランプ攻撃」で民主党としての成果を上げ、政界への布石としようと考えていても、特に不思議なこととしては捉えられない。

 

今回、裁判所は、トランプ氏らは2014年から2021年に銀行などに報告した資産報告書で、ニューヨーク州のトランプ・タワーの居宅やフロリダ州の邸宅「マール・ア・ラーゴ」などの価値を年間最大22億ドル(約3278億円)つり上げたと指摘。エンゴロン判事は、「文書には明らかに、被告らがビジネスで使用した詐欺的な評価が含まれている」とした。

 

同判事は、トランプ・オーガニゼーションおよびトランプ氏やその家族が経営するその他のニューヨーク拠点の事業について「事業証明書」を取り消し、同時に独立した第三者にそれら企業の解散を管理する任務を与えるよう命じた。

 

つまりこれは、トランプ氏がトランプ・タワーやトランプ・ビルディングなど、自身の名を冠したニューヨークの不動産の一部に対する管理権を剥奪される可能性があることを意味する。

 

26日付ワシントン・ポスト紙(アメリカの代表的政治紙)は、「今回の認定は、トランプ・オーガニゼーションの本社があり、トランプ氏が主要な不動産権益を持っているニューヨークで同社が事業を行う権限を剥奪するという、トランプ氏にとっての重大な後退を意味する」と指摘。

 

その上で、「詐欺行為が広く行われていたと事前に認定することにより、今後の裁判を簡素化するよう、エンゴロン判事に求めていたレティシア・ジェームズ司法長官(民主党)の勝利を意味する」と述べている。

 

ジェームズ氏は、トランプ氏が不正取得したとする2億5000万ドル(約360億円)の返済や、商業用不動産の5年間の購入禁止、ニューヨーク州に登記のある企業で役職に就く権利の剥奪なども求めている。

 

10月2日からは法廷で陪審員なしで公判が始まるが、主に支払うべき賠償金の額に焦点が絞られることになる。

 

 

アメリカは人治国家になりつつあるのか

トランプ氏の弁護人の1人であるクリストファー・キセ氏は弁護団を代表して9月26日に声明を発表し、この認定は「言語道断」であり、「事実や準拠法から完全に乖離している」と述べた。

 

「裁判所はニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネス(MBA)をはじめとする全国的に有名な専門家の判断を自らの判断に代えた」「さらに重要なことは、裁判所は、誤解を招くようなことはなく、詐欺もなく、取引はすべて高収益であったと証言した、融資取引に実際に関与した人々の見解を無視したことである」(キセ氏)