天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

歌会始の気に入った歌

2018-01-13 07:19:22 | 世相


本日の讀賣新聞は34面(社会面)で皇居で行われた歌会始の儀を報じている。
今年の題は「語」。
久しぶりに短歌を読んだ。
このなかからぼくが気に入った作品をいくつか取り上げたい。

皇后さま
語るなく重きを負ひし君が肩に早春の日差し静かにそそぐ
皇族の方々の作品にどれだけ他人の手が入っているのかいないのかわからぬが、皇后さまの歌は毎年皇族方の中では抜けていると思う。そう感じることはみんさんが他人の知恵を借りずに作っているのかもしれない。
「早春の日差し静かにそそぐ」はありきたりだが、「語るなく重きを負ひし君」は慈愛に満ちた言葉であり巧みな言い回し。君はむろん陛下のこと。ここが効いているのであとは平凡に流れていくのがいいかもしれない。

召人 黒井千次さん
語るべきことの数々溢れきて生きし昭和を書き泥(なず)みゐる
この人の書いたものを読んだことがないのだが、歴史物は書いていないのか。「書き泥(なず)みゐる」には、さすがに作家ならではの屈折があっていい。

選者 三枝昴之さん
語るとは繋ぎゆくこと満蒙といふ蜃気楼阿智村に聞く
長野県下伊那郡阿智村はかつて満州に村を挙げて人を送ったところ。まずよくそこへ出向いたものだと思った。「語るとは繋ぎゆくこと」というような理屈っぽいことを俳句ではいう余裕がないが短歌はいえる。この歌の眼目は「満蒙といふ蜃気楼」だろう。先日読んだ角田光代の『ツリーハウス』のなかで祖母が旧満州で見たのも満州国の蜃気楼であった。核になる言葉が効いている作品は短歌でも俳句でも強い。

長野県 塩沢信子さん
片言の日本語はなす娘らは坂多き町の工場を支ふ
外国人労働者である。よく行く焼肉屋にも褐色の肌の娘さんが来て働いている。この歌も「坂多き町」がいいアクセントとなって一首を支える。

広島県 山本敏子さん
広島のあの日を語る語り部はその日を知らぬ子らの瞳の中
これは俳句的な短歌。意味を伝えるというより光を切り取った感じで印象的ということである。「瞳の中」ということで、語り部の話をよく聴いている子供たちが見える。

長崎県 増田あや子さん
いつからか男は泣くなと言はれたり男よく泣く伊勢物語
まず伊勢物語という素材がいい。在原業平である。俳句でいう二句一章の作り方。五七五でいったん切り、息を整えて七七のフィニッシュへ持って行く心地よさが魅力。「男」を二度出した効果も抜群。

長崎県 中島由優樹くん
文法の尊敬丁寧謙譲語僕にはみんな同じに見える
作者は12歳とか。わかるなあ、この心境。「尊敬丁寧謙譲語」と凝縮してここを決戦の場とした感度のよさを称えたい。

短歌も俳句と同様、ここが決め手という言葉がある。短歌は宮中のものであり俳句は芭蕉が述べたように鄙のものである。
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