斎藤立を破ったテディ・リネール
フランスといえば「パリジェンヌ」という懐かしい言葉を思い出す。これはパリ生まれの女性の意味だが、小生は金髪と白い肌の美人をすぐ思う。その象徴としてカトリーヌ・ドヌーブを。しかしパリオリンピックを見ていてフランスは白人だけの国ではないと再確認する。多民族国家である。
柔道混合団体戦で最後に引っ張り出されて日本の斎藤立をあっさり破ったテディ・リネール。100キロ超級において、2020東京、2024パリの3大会連続金メダルの猛者にしてフランス柔道界の至宝であり、肌が黒い。彼はフランスの海外県であるグアドループで生まれ、その後フランスに移った。グアドループを調べてわかったが、カリブ海に浮かぶ西インド諸島のなかの島嶼群であり、フランスの海外県である。
またサッカーのスター、キリアン・エムバペ。10代で初めて出場したワールドカップにおいて100m走者並の速さでドリブルしてシュートを決め全世界をあっと言わせた野性味満点のストライカー。彼も肌の色は黒い。彼の父はカメルーンとナイジェリアにルーツを持ち、母はアルジェリアにルーツを持つ。
フランスが特にスポーツにおいてフランスネイティヴ以外の移民にお世話になっているのは間違いない。これはフランスに限らずヨーロッパ各国にも言える事情である。フランスをはじめとするヨーロッパのいわゆる先進国と呼ばれる国々はアフリカなどを植民地にして収奪して来た、物も人も。
アメリカ合衆国は人種のるつぼであるから誰を見ても驚かない。ネイティブの原住民をほとんど殺して移民たちが乗っ取った国である。
フランスの色の黒い人はまだ小生を驚かせ、フランスとは何ぞやと考えさせられる。
フランスのみならずイギリスとは何ぞや、ドイツとは何ぞや、と考えてしまうのがオリンピックである。
日本とはなんぞや、も考える。100m予選で9.96秒を出したサニブラウン・アブデル・ハキーム。日本人ネイティブにこの記録は出せないのではないか。カタカナ名が示すとおり彼はネイティヴではない。父がガーナ人、母が日本人である。
国と人種の関係をリアルに思うのがオリンピックといっていいだろう。
フランスはいつからフランスなのだろうか。考え始めるときりがない。
フランス史の中でもっとも画期的だったのは、古代ローマ帝国のスター、カエサルのガリア遠征であろう。
カエサルが活躍したのは紀元前1世紀。当時フランスの当たりにはガリア人(ケルト人の一派)がいた。ゲルマン人もいた。ガリア人を束ねていたのがウェルキンゲトリクス(紀元前72年~紀元前46年)であった。彼を倒してガリアを征服したのがカエサルである。今のフランス人を考えたときガリア人でありローマ人でありゲルマン人でありミックスしたものが基礎になっている。ほかにも交じっているだろう。ネイティヴ(原住民)という言葉を一応使っているのだがその言葉さえ胡乱なのである。
日本史にも同じような事件があった。6世紀における物部守屋(ものべのもりや)と曽我馬子の戦いである。前者は日本ネイティブ、後者は朝鮮半島から仏教をひっさげやって来た渡来人である。馬子が勝って日本統一を果たすのだがこれは古代ローマにおいてカエサルがネイティブのウェルキンゲトリクスを下すのに似ている。
フランスも日本も外来勢力に降伏してまとまった国である。
小生はパリの100人に、ウェルキンゲトリクスが好きかカエサルが好きかアンケート調査したい気持ちがある。が、いま日本で守屋が好きか馬子が好きかと聞いてもよほどの歴史通でないと「何それ?」と思う人ばかりだろう。パリの人も同様かと思う。
ともかく、黒い肌のリネールやエムバペが讃えられるフランスは健康である。いろいろな風貌の選手たちを見て民族と国を考えるオリンピックは、思いが深まる得難い時間である。
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