天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

篠田節子『長女たち』

2014-12-01 15:42:00 | 

「家守娘」、「ミッション」、「ファーストレディ」という中篇3本を集めた小説集。版元が長女にまつわる連作3部作としたいという都合を感じてしまった。

「家守娘」は歳を取って他人に下の始末をしてもらう屈辱は絶対いや! 長女に頼りたいという認知症の母が描かれる。ほかに骨粗鬆症もありとにかく手間がかかり長女は仕事を辞めて介護にかかりきりになる。
他家に嫁いだ妹は理屈を言うが役に立たない。
母は幻覚にそそのかされて長女の食事友達(男)の家に火をつけるなど刑事事件まで起こす。
独身の長女に母の人生がしなだれかかり行き場のない事情を活写して迫力ある。

「ファーストレディ」は、夫の家との長年の摩擦もあって甘いもの偏食に生きがいを求める母のひどい生活習慣病に向きあう長女の奮戦記。
腎臓病が悪化して腎移植しか残された手段がなくて長女に「あんたのだったら、一番いいね」などと言いだす母との葛藤が描かれる。

この2篇なら連作としていいが「ミッション」はまったく異なる。
主人公は一応長女であるが、この1篇のテーマは長女対母ではなかろう。ルーツは「弥勒」にさかのぼるだろう。
篠田が根源的に惹かれるチベット、ネパール、パキスタン等の茶褐色の高地。耕作地が貧弱で山羊や羊を飼いその乳をすすってかつかつな生活を営む地域。
そこへ大志を抱いて赴任した女医。
女医は当地の生活改善を意図するが地元の呪術師らの抵抗に遭う。
西欧的な文明と土着の生き方の対決という篠田の生涯の問答がここでも熱心に行われる。

「ミッション」という異質があるために本書の題名「長女たち」はかすむ。
けれど結論の得られそうもない大きなテーマをきまじめに考え続ける篠田は健在。
テーマが大きいだけに篠田作品は中篇では物足りない。
去年、先端の近代的農業の危うさを書いた「ブラックボックス」くらいの長さを書かないと篠田の哲学する本領は出ない気がする。
篠田は800~1000ページを一気に読ませるテーマと力を持った作家だろう。
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