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東京四季出版/定価2750円
著者は、まえがきで、俳枕は歌枕に対して伝統が浅いという。歌枕は「万葉集」から膨大にあり和歌に余剰を持たせる修辞機能をもたらした。しかしその歌枕はいまや文学的イメージを優先し実景を知らずして詠まれることが多い。俳枕は『おくのほそ道』のように、実際に自ら足を運んでの見聞感慨を土台にして詠まれている。俳句作品に短歌の歌枕のような深みがないという指摘はあるが、俳句は短歌より現場主義で作品をなすので俳枕はこれから充実するはずである。鷹羽狩行が言う“名所で名句を詠もう”は、揺るぎない俳枕が確立する一歩だとする。芭蕉の『おくのほそ道』は歌枕を辿ったものであったが、和歌に頼らない俳句独自の名所はこれから大いに開拓の余地がある、という提案である。以下、目次から抜粋。
- 吉野と大峯あきら
- 大磯鴫立庵と草間時彦
- 葛飾と岡本瞳
- 仙台と芝不器男
- 隅田川と富田木歩
- 熊野古道と飯島晴子
- 大森海岸と大牧広
- 印南野と永田耕衣
- 伊勢と八田木枯
- 水無瀬と田中裕明
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62)石鎚山と石田波郷
以上のように、62の俳枕(場所)と62名の俳人を紹介している。
俳枕48は「箕面と後藤夜半」。どの場所であるが、俳枕として取り上げた場所の説明をした後、ここで句をなした俳句とその作者を掲載。なかでもとりわけ当地とかかわりの深いと判断した一人に絞って話を展開する。
この章で興味深かったのが有名な以下の句について。
滝の上に水現れて落ちにけり 後藤夜半
「滝を高速度映画に写し取ったような句」(山本健吉)、「滝口に現れ流れ落ちる水を活写し、滝の実相を描出。写生はこうありたい」(鷹羽狩行)、「力強い滝が簡潔に描かれ、これ以上にパワフルな滝の姿を正確に詠んだ句は他にない」(清水哲男)、「滝が滝である状態の一切がここには描かれ、それ以外にはなにもない。句そのものの姿が一筋の滝のごとくに潔く自立している」(西村和子)の鑑賞があるが、「さして感動もなければ、夜半の俳人としてんお真骨頂が窺える句でもなく、虚子の流した客観写生の説の弊が典型的に見える句」(高橋治)、「俳句史上極めて重要な一句だが、最も夜半らしいかと言えば疑問あり」(西村麒麟)との評もある。
小生はこの句に対する批判的な意見を知らなかった。複数の人の短評を集めて構成する句評の豊かさ楽しさとともに、異論を併せた試みの新鮮さと深みを感じた。それぞれの俳人の1句評が充実している。
土地に関することのみならず1人の俳人の業績をまとめて紹介しており、恰好の現代俳句入門書の趣もある。
俳句を土地と人とからめて重層的に見せてくれる豊かな内容である。広渡隆雄氏の精魂を込めての全国行脚の足に肉刺を作っての労作である。読み応えがある。
この労作をよくぞ小生に贈ってくださったと感動している。この場で重ねてお礼を申し上げたい。
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