天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

乃南アサ『六月の雪』

2024-07-14 05:24:49 | 
     
       文藝春秋


読書メーターのprismさんのコメントが本書の内容をよく表現している。
 【prismさんによるあらすじ】
祖母の故郷、台南への旅が私の人生を変える 7日間のひとり旅。人々の絆と奇跡。声優への夢破れ、祖母と二人で暮らす杉山未来。入院した祖母を元気づけようと、未来は祖母が生まれた台南をたどる。そのなかで未来は、戦後に台湾の人々を襲った悲劇と植民地だった台湾に別れを告げた日本人の涙を知る。 そしてついにたどり着いた祖母の生家で、未来は人生が変わる奇跡のような体験をするのだった。 「わたしは誰からも愛されない。誰も愛さないなんて生き方はしたくない」 いつもどんなときも夢は突然始まる。台湾の旅情もあふれる最高の感動作。

 本書の中から印象的なところを二箇所抜粋する。
そのひとつは、
「犬が去ってブタが来た」
とね。犬は日本人のことです。ワンワン吠えてうつさいが、見張りもするし、役に立った。ブタは国民党だ。何しろ汚いうえに欲深くて、何でも壊して奪っていきおる。要するに台湾は、軒先を貸した泥棒に母屋を乗っ取られたんだ。

もうひとつ。
林先生は今度はこちらを見ないままで口を開いた。
「台湾という島は、同じ島でも根本的な部分で、たとえば日本などとは大きく違います」
「なぜなら、この島は、歴史始まってから今まで、ただ一度も独立国家だったことがない島です。今も国連にも入っていません。だから『世界の孤児』と呼ばれます」
「台湾には、日本やほかの国のような王朝とか、幕府のような歴史、ありません。王様、皇帝様も、いたことないですね。それでも台湾と日本とは、たった五十年の間だけ、一つの親戚、家族だったんです。その間は、日本歴史は僕たちの歴史でもありました」

小生はむかし渡欧した飛行機で台湾の老婦人と隣り合わせたことがある。
彼女は日本語がぺらぺらで感動したと同時に日本の占領・日本語教育を目の当たりにして身が引き締まった。彼女は日本を恨んでいるのではないか、ハラハラして応対したのだが、なんと彼女は統治した日本人軍人さんを尊敬して懐かしがっていた。日本人は私たちによくしてくれたと涙ながらに語ったのである。
そのとき小生はホッとしたものの別の場所の別の台湾人は違う感想を持つかもしれないと思った。
本書を読んでそのことを思い出した。

台湾も満州も日本が侵略しいっとき日本にした地域であるが、日本の敗戦で満州から日本が消えたのに対し、台湾に日本の文化が特に家屋として残っていることに驚いた。それは満州が大陸の中であり台湾が島であることの差であろう。
浅学にして「引き揚げ」というと満州をすぐ思い、台湾をほとんど思わなかったことに意表をつかれた。満州ものはかなり読んだが台湾ものを読んだことがなかった。

       
       ランリーファ

台湾語は福建省の方言で閩南語(びんなんご)であること、「六月の雪」は当地で「ランリーファ」と呼ばれる白い花のことであることなど、いろいろ台湾の事情を知ることができた。
乃南の並々ならぬ台湾への情熱が本書をやや長くし過ぎたきらいはある。100ページほど削ったほうがっよかった気もするが濃厚に見せてくれた。


亭仔脚(ていしきゃく)
通りに面した建物の1階部分をくり抜き、通行できるようになっているスペースのことで台湾全土で見られる建築。


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