24年2月12日(日)付け東京新聞より
■新聞を読んで「説明でなく解決策論じよ」(菅原琢東京大学特任准教授)
野田内閣は「社会保障と税の一体改革」を掲げ、消費税増税に舵を切った。言うまでもなく、われわれの生活に関わる重要な議論であり、報道の存在価値も問われる。
新聞では、政府を非難する際に説明不足という言葉をよく用いる。言い換えると、国民が説明を望んでいるというのが記者の認識のようである。だが、どこまで説明すれば記者は満足するのだろうか。なかなかその説明を目にする機会はない。この点、ベテラン記者が政策を論じた2月2日の論説特集「社会保障と税の一体改革」は興味深く、その試みを評価したい。
鈴木穣記者による「背骨のある日本モデル示す責務」は、冒頭の「白状した」という罵り言葉はともかくとして、子育て支援の不十分さや就労支援の乏しさや就労支援の乏しさなどを指摘し、誰を支えるのか改革の理念が明確でないと指摘しており、納得できる記事であった。
一方、その隣の長谷川幸洋記者による「成長こそ財政再建の道」では、経済成長による増収という方向性の欠落や、不景気下の増税による負の連鎖を指摘し、マネタリーベースを拡大する金融政策を処方箋として提示しており、こちらもなるほどと思う。
ただ、それぞれ納得できる二つの議論も、合わせると矛盾をはらむ。前者は社会保障の拡充を主張するが、後者の方策ではこの財源を提供できそうにない。歳出と税収のギャップが大き過ぎ、経済成長による税収増で埋めるのは難しい。名目GDP増による財政の好転(インフレ税)は、貧困層には重税となり前者の主張を挫(くじ)く。いずれにせよ、この特集を素直に読めば、増税せずに十分な社会保障を提供せよということになり、記者自らポピュリスムを指導する格好となっている。意地悪く言えば、高齢の記者たちが自分たちは負担をせずに社会保障を”食い逃げ”したいだけの主張に見えてしまう。
図らずもこの特集が示したように、ある課題に対する解は、あちらを立てればこちらが立たずとなる。ましてや、少子高齢化、デフレ不況、財政赤字などが長年放置されてきた果ての現在に、簡単な解など残されてはいまい。
これまで政治が課題を先送りしてきた背景には、国民代表を騙ることで政策潰しに躍起になってきた政治報道がある。歳出削減でも増税でも、国民を犠牲にするなと非難する。結果、借金が増え、増税してもそれに見合う給付がないとして、ますます国民を犠牲にするなと叫ぶ。だがその陰で、若年層の負担は着実に増えている。
われわれが政治に期待しているのは、説明ではなく解決策である。記者も説明ではなく解決策を要求し、もっとそのよしあしについて論じてほしいところである。
■新聞を読んで「説明でなく解決策論じよ」(菅原琢東京大学特任准教授)
野田内閣は「社会保障と税の一体改革」を掲げ、消費税増税に舵を切った。言うまでもなく、われわれの生活に関わる重要な議論であり、報道の存在価値も問われる。
新聞では、政府を非難する際に説明不足という言葉をよく用いる。言い換えると、国民が説明を望んでいるというのが記者の認識のようである。だが、どこまで説明すれば記者は満足するのだろうか。なかなかその説明を目にする機会はない。この点、ベテラン記者が政策を論じた2月2日の論説特集「社会保障と税の一体改革」は興味深く、その試みを評価したい。
鈴木穣記者による「背骨のある日本モデル示す責務」は、冒頭の「白状した」という罵り言葉はともかくとして、子育て支援の不十分さや就労支援の乏しさや就労支援の乏しさなどを指摘し、誰を支えるのか改革の理念が明確でないと指摘しており、納得できる記事であった。
一方、その隣の長谷川幸洋記者による「成長こそ財政再建の道」では、経済成長による増収という方向性の欠落や、不景気下の増税による負の連鎖を指摘し、マネタリーベースを拡大する金融政策を処方箋として提示しており、こちらもなるほどと思う。
ただ、それぞれ納得できる二つの議論も、合わせると矛盾をはらむ。前者は社会保障の拡充を主張するが、後者の方策ではこの財源を提供できそうにない。歳出と税収のギャップが大き過ぎ、経済成長による税収増で埋めるのは難しい。名目GDP増による財政の好転(インフレ税)は、貧困層には重税となり前者の主張を挫(くじ)く。いずれにせよ、この特集を素直に読めば、増税せずに十分な社会保障を提供せよということになり、記者自らポピュリスムを指導する格好となっている。意地悪く言えば、高齢の記者たちが自分たちは負担をせずに社会保障を”食い逃げ”したいだけの主張に見えてしまう。
図らずもこの特集が示したように、ある課題に対する解は、あちらを立てればこちらが立たずとなる。ましてや、少子高齢化、デフレ不況、財政赤字などが長年放置されてきた果ての現在に、簡単な解など残されてはいまい。
これまで政治が課題を先送りしてきた背景には、国民代表を騙ることで政策潰しに躍起になってきた政治報道がある。歳出削減でも増税でも、国民を犠牲にするなと非難する。結果、借金が増え、増税してもそれに見合う給付がないとして、ますます国民を犠牲にするなと叫ぶ。だがその陰で、若年層の負担は着実に増えている。
われわれが政治に期待しているのは、説明ではなく解決策である。記者も説明ではなく解決策を要求し、もっとそのよしあしについて論じてほしいところである。