木のつぶやき

主に手話やろう重複の仲間たちのこと、それと新聞記事や本から感じたことを書き込んでいきます。皆様よろしくお願いします。

books94「バイリンガルでろう児は育つ」(全国ろう児をもつ親の会編)生活書院

2008年04月03日 00時43分24秒 | books
バイリンガルでろう児は育つ―日本手話 書記日本語で教育を!

生活書院

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「全国ろう児を持つ親の会」の出版意欲の高さには毎回敬服させられる。社会に訴えていかなければならないという強い意志を感じる。会長の岡本みどりさんの書かれた「はじめに」にはこう書かれている。「本書は、子どもが「聞こえない」と分かった保護者、教育に携わる学生や専門家、新生児にかかわる医療関係者と耳鼻科医、また多くの方々に読んでいただきたい。バイリンガルろう教育とはどのようなものなのか、ろう児にとってなぜ必要なのか、バイリンガルに育てるためにはどうすればいよいのか、といった問いに答えてくれることだろう。」
全体が5章に分かれていて5人の方が分担して執筆されている。
例によって私がチェックした部分を以下に転記しておきます。
21ページ「自分にその言語が理解できないからといって「閉鎖性」をいうのは多数者の身勝手である。」・・・昔は、「ろう社会の閉鎖性」なんてことが言われた気がします。それってホント聴者の身勝手な解釈ですよね。というのは、読み取りができなくてなんて話しているか分からない自分を擁護するためにろう社会を「閉鎖的だ」って言ってるようなもんなんですから。
23ページ「ろう者の場合、ディアスポラ(散在状態)が常態である点で音声的な少数言語とは異なっている。」「ろう者の場合、人工内耳などの技術が開発されているとはいえ、まったく問題なく言語的多数者(聴者)に同化することは、音声言語話者の場合に比べてはるかに困難といえよう。」「ろう者は、同化や分離といった、少数者問題の基本的な「解決法」がきわめて適用しにくい点でも、特異な言語的少数者であるといえる。」・・・そうなのだ、単に「言語的少数者」と見ることは問題を見えにくくしてしまうだけだと思う。でも27ページでは「表面的な相違点を強調しすぎることには注意する必要がある」とも書かれている。
27ページ「5 ろう児にとってのバイリンガル教育の意義」では、「従来、ろう教育は主にろう者が障害者であるという視点から論じられてきたが、ろう者は明らかに言語的少数者としての側面をも持っているのであり、この側面を十分に考慮することなくろう教育を論じることはできないはずである。」・・・手話を理解しない教員が口話にこだわって権威主義的になるのは、ろう者を「障害者」という視点からしか見ていないことの証でもあるだろう。29ページの注3にも「ろう者が言語的少数者としての側面をもつことと、ろう者がいかなる意味で「障害者」であるかということは別の次元であり、二者択一の問題ではないことを確認しておきたい。」と書かれていてとても共感した。ホント「どっちか」でろう同士が対立しているっておかしいと思う。その点「6 他の言語的少数者との連携に向けて」という発想にも大いに賛同する。
31ページ「実際に教育に使うことによって語彙や表現が生み出され、言語の機能が拡張されるということである。「表現が充実していないと教育に使えない」のではなく、「教育に使うことで表現が充実する」のである。」・・・素晴らしい記述ですよね。「(その日本語に相当する)手話がない」んじゃなくて、その言葉を使うべき場所にろう者がまだ社会進出できていないだけなのだと思う。
36ページからの「第2章 バイリンガル教育とろう児の母語としての手話言語」は少々内容が難しかったです。
80ページからの「第3章 手話力と学力との関係に関する研究」(とりあえず今夜はここまででいったんアップします・・眠い。)

 なお、出版元の生活書院のホームページに詳細なもくじが掲載されています。
第1章 言語的少数者の教育としてのろう教育/木村 護郎クリストフ
 1 言語的少数者とは?
 2 音声言語的少数者とろう者の共通点
 3 言語的少数者としてのろう者の特徴
 4 言語的少数者のなかのろう者
 5 ろう児にとってのバイリンガル教育の意義
 6 他の言語的少数者との連携に向けて

第2章 バイリンガル教育と、ろう児の母語としての手話言語/スクトナブ・カンガス
 1 言語の未来は
 2 言語が消滅する理由
 3 言語権人権の文脈における「差配人なき」新帝国主義的支配
 4 言語に関する権利をもつのは誰か
 5 「母語」の定義
 6 母語喪失の代償
 7 結論

第3章 手話力と学力との関係に関する研究/ジム・カミンズ(中島和子訳)
 1 はじめに
 2 音声言語における第一言語と第二言語の関係
 3 就学前幼児のアメリカ手話と英語を媒介語とする学力の獲得・増進
 4 学齢期のろう児のASLの力と英語力との関係
 5 授業言語としての手話言語使用は学力獲得に貢献するか
 6 まとめ

第4章 スウェーデンのろう学校より/ケーシュティン・オールソン(荒川明久+全国ろう児をもつ親の会訳)
 1 1980年までの流れ
 2 1981年から現在まで

第5章 日本におけるバイリンガルろう教育/佐々木倫子
 1 なぜバイリンガル教育なのか
 2 ろう児の家庭におけるバイリンガルの視点
 3 ろう児の学校におけるバイリンガルの視点
 4 コミュニティにおけるバイリンガルの視点
 5 達意のバイリンガルになるために

 おわりに

コメント
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