ケーレルというのは、ピアニストのルドルフ・ケーレルのことで、これまで何回か書いてきたロシアのピアニストです。ケーレルに心酔している方のコメントをいただき今回書いています。
ネット時代はとても便利で、このピアニストは今現在どうしているのだろう、新譜は出ているのかと見てみました。そうしたらCDが1枚出ていることを知りました。
外盤でそのままタイトルを記すと、
RUDOLF KEHRER 24PRELUDES F.CHOPIN A.SCRIABIN
です。実はこのうちショパンの24の前奏曲はすでにLPで出ているものと同じでした。スクリャービンのそれは初出です。しかし録音は1976年のものでした。
ケーレルの演奏するベートーベン・ピアノ協奏曲第5番「皇帝」に圧倒的な印象を持った私は発売された(おそらく)すべてを手に入れました。
1.ショパン 24の前奏曲集(全曲)・前奏曲第25番 嬰ハ短調
2.ベートーベン・ピアノ協奏曲第5番「皇帝」&ラフマニノフ・ピアノ協奏曲第2番
キリル・コンドラシン/モスクワフィルハーモニー管弦楽団
3.モーツァルト ピアノ協奏曲第21番・リスト ピアノ協奏曲第1番
ヴィクトール・ドブロフスキー/モスクワ室内管弦楽団
4.プロコフィエフ ピアノ協奏曲第1番及、ピアノ・ソナタ第3番 イ短調、行進曲-”3つのオレンジへの恋”より、リスト ペトラルカのソネット第123番~巡礼の年第2年イタリアより、ラフマニノフ 音の絵第4番
キリル・コンドラシン/モスクワフィルハーモニー管弦楽団
5.ブラームス ピアノ協奏曲第1番
ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー/モスクワ放送交響楽団
以上です。
1.は上に書いたようにCD版と同じですが、前奏曲第25番 嬰ハ短調が含まれています。なぜCDには載せなかったのだろう。スクリャービンに揃えるため?収録時間の関係で?とにかくこれまでLPで出ていなかったものが出されたことは嬉しく思いました。さらに思うには、まだまだ商業ベースの理由でこれまで出ていない録音がたくさんあるのでは?
上の5枚のLPは、言うまでもなくそれらの曲の第1に取り上げられるべき名演と思っています。評論家の人たちは、あまり取り上げているのを見ていなかったように思いますが。
以前発売されたのは10枚ほどではないかと書きましたが、この5枚のようでした。ただ私には、放送を録音したものがあります。ショパンのソナタ第2番と同じくショパンの英雄ポロネーズです。カセットに録音しましたが現在行方不明。出てきたらCDに移し替えようと思っています。この両曲も実演ですが間違いなく名演と思っています。
今回購入したCDで私が知りたかったのは、その後このピアニストはどうしているのだろうということです。上の5枚のLPは来日記念盤ということで1973年に発売されたものです。ケーレルはモスクワ音楽院の教授になり1990年まで勤めたということです。1991年にはドイツに移住。90年代半ばからウィーンに住みそこの音楽学校で教えたとあり、今も存命ということであれば、1923年生まれですから、現在90歳ということでしょうか。
ケーレルは「奇蹟のピアニスト」と言われていました。なぜか?その経歴文の中に、ケーレルの父親は、第2次大戦が始まった年の1939年「公共の敵」ということで逮捕され、ケーレルは中央アジア・タシケント近郊の村に強制移住させられたとある。そしてそこでの生活では、次のような文が書かれていた。
Having no piano, he "played" the table with black and white keys drawn on it.
CDのライナーノートの最後にケーレルの言葉があった。
「音楽とは、実際、私にとってあらゆることを意味します。自分を表現する、つまり何か-私の感情や思索-を述べる機会なのです。それは作曲家が言葉でなく音楽を用いることと全く同様です。音楽は他のものが言葉で表現すること、愛情、信心深さ、苦難など、を表現できるのです。-音楽を通しどんなことも語ることができます。この点、音楽はとても豊かなものです。音楽は言葉が終わるところから始まるのです。」
ケーレルのこの言葉は深い自身の体験から出てきたものと思います。この言葉を噛みしめもう一度このピアニストの演奏を味わいたいと思います。
http://www.youtube.com/watch?v=1tbEmYBhqJw