西洋音楽歳時記

旧称「A・Sカンタービレ」。07年には、1日1話を。その後は、敬愛する作曲家たちについて折に触れて書いていきます。

ガウデアームス(されば楽しまん)―ブラームス「大学祝典序曲」(続)

2016-08-08 22:14:16 | 音楽一般
3.
Ubi sunt, qui ante nos, In mundo fuere?
ウビ スント, クウィー アンテ ノース, イン ムンドー フエーレ?
Vadite ad superos, Transite ad inferos,
ワーディテ アド スペロース, トラーンスィーテ アド イーンフェロース,
Ubi jam fuere.
ウビ ヤム フエーレ.

ubi (疑問副詞)どこに
sunt sum(前掲)ここでは「存在する・いる」の意、の直説法現在複数3人称
qui (関係代名詞)男性複数主格
ante (前)~の前に
in (前)~の中で(奪格支配)
mundo mundus(2)世界、の単数奪格
fuere sumの直説法現在完了複数3人称
vadite vado(3)「進む・歩む」の能動相命令法現在複数2人称
ad (前)~の方へ・~に
superos superus(形)上の、の男性複数対格形。しかしここでは、辞典にof heavenとあることなどから、「天国」の意の名詞ととっていいだろう。
transite transeo(不規則動詞)「渡る」の命令法現在複数2人称
inferos inferus(形)下の、の男中性複数対格形。中性複数名詞inferiとして「地獄・下界」とあるので、ここではこの意。形容詞の名詞化はラテン語によくある。(近代語でも同様)
ubi ここでは(関係副詞)で「~のところに」
jam (副)すでに

(筆者訳)
我々の前にこの世界にいた者たちはいまどこにいるのか?
天国に行きたまえ、地獄に渡ってみたまえ、
そこがその者たちが前からいたところなのだ。

4.
Vivat academia, Vivant professores;
ウィーワト アカデーミア, ウィーワント プロフェッソーレース;
Vivat mebrum quodlibet, vivant membra quaelibet,
ウィーワト メムブルム クウォドリベット, ウィーワント メムブラ クワエリベット,
Semper sint in flore!
セムペル スィント イン フローレ!

vivat vivo(3)「生きる」の能動相接続法現在単数3人称、ここでの接続法は、「願望」を表わしている。後にある2つの接続法も同じである。
academia (1)大学
vivant vivo(前掲)の能動相接続法現在複数3人称
professores professor,soris (男)教授、の複数主格
membrum membrum(2)仲間・構成員、の単数主格
quodlibet quilibet(不定代名詞)誰でも・何でも、の中性単数主格
membra (前掲)の複数主格
quaelibet quilibet(不定代名詞)誰でも・何でも、の中性複数主格
semper (副)いつも・常に
sint sum(前掲)の接続法現在複数3人称
flore flos (男)花、の単数奪格

(筆者訳)
大学万歳、先生方万歳
仲間の誰であれ万歳、仲間のみんな万歳
彼らがこれからも常に花の盛りにありますように!

読み方を見て気づかれた方も多いと思いますが、vは[w]の音で、英語のveryなどにある音にはならない。またsも常に[s]音で、英語のisにあるような音ではない。また母音についても、a,e,i,o,u,yの6文字で、これらには長短2つの読み方が生じる。学習書では、長音のとき記号を付けるが、ここでは付けていない。読み方に「-」を付けそれを示した。(-)としたのは、長短いずれでもよいということです。
ラテン語は近代語に比べ、語形変化が厄介だと書きましたが、作成した動詞の変化表で数えたら、1つの動詞がざっと140くらいの語形変化をしている。数え方を変えるともっと多いかもしれません。バッハやベートーベンは当然ラテン語に対する理解もあったことでしょう。

そういえば、ベートーベンの臨終の2日前でしたか、彼はこのようなこと(ラテン語)を医者たちに向かって言った。

Plaudite amici, 
プラウディテ アミーキー、
Finita est comoedia!
フィーニータ エスト コーモエディア! 

plaudite plaudo (3)拍手する、の命令法現在複数2人称
amici amicus (2)友、の複数呼格
finita finio (4)(受動)終る、の完了分詞で、ここではestと受動相直説法の現在完了単数3人称を作っている。
comoedia I1)喜劇、単数主格

友よ 喝采したまえ、
喜劇は終わった! (筆者訳)

いろいろなところでラテン語は出てきます。もっと勉強しなくては。

(完)

ガウデアームス(されば楽しまん)―ブラームス「大学祝典序曲」

2016-08-07 13:55:10 | 音楽一般
ヨハネス・ブラームスに作品80「大学祝典序曲」があるが、これには4曲の学生歌より構成されている。そのうちの一つが「ガウデアームス」である。この曲は13世紀に、ボローニャの司教が作曲したものということだ。
中世の大学ということで、使われている言葉は、ラテン語である。ラテン語は、ミサ曲をはじめ、音楽の理解にも必要で、バッハやベートーベンのミサ曲、ブルックナーのモテットなどを深く知るにはどうしてもその知識が必要になる。現代語と異なり、かなり語形変化が厄介である。大学時代に学んだが、十分理解したなどとは言えない。自分でその変化を理解したいとこの何か月か取り組み、自分なりにわかりやすい変化表を作ったりした。まだその入り口のところで、統語論には入っていけてないが、とりあえず、目にしたこの「ガウデアームス」の分析を試みた。
やはり声に出さないと理解も十分にはならないので、カタカナ読みを付けてみた。ラテン語は極めて日本語に近い音を持ち、その点は我々日本人に向いた言語だ。

Gaudeamus igitur

1.
Gaudeamus igitur, juvenes dum sumus;
ガウデアームス イギトゥル, ユウェネース ドゥム スムス;
Post jucundam juventutem, post molestam senectutem,
ポスト ユークンダム ユウェントゥーテム, ポスト モレスタム セネクトゥーテム,
nos habebit humus.
ノース ハベービト フムス.

gaudeamus gaudeo(2)「喜ぶ・楽しむ」の接続法現在複数1人称。「意志の接続法」の働きをし、「~しようではないか」(勧奨)の意。
igitur (接)それ故に・されば
dum (接)~の間に
sumus sum「~である」の能動相直説法現在複数1人称
juvenes juvenis,e(形)若い、の男・女性複数主格
post (前)~の後で
jucundam jucundus,a,um(形)快い・楽しい、の女性単数対格
juventutem yuventus,tutis(女)青年・青春、の単数対格
molestam molestus,a,um(形)煩わしい・不快な・苦痛な、の女性単数対格
senectutem  senectus,tutis(女)老年、の単数対格
nos nos(人称代名詞)我々は、のここでは同形の対格「我々を」
habebit habeo(2)「持つ」の能動相直説法未来単数3人称
humus humus(女)大地、の単数主格

(筆者訳)
されば楽しまん、若さのあるうちに;
楽しさあふれる青春の後には、煩い多い老年の後には、
大地がわれらの帰るところとなることだろう。

(男)(女)(中)は、(ここでは女だけだが)は名詞の性を表わす(ドイツ語などと同じ)
(形)(前)(接)などは、英語と同じく品詞を表わす。
(対)は、格変化の一つで、ラテン語は、主格(~は)、属格(~の)、与格(~に)、対格(~を)、奪格(または従格)(~とともに・~によって・~から・~において)、呼格(~よ)の6つの格がある。ドイツ語より2つ多い。

2.
Vita nostra brevis est, Brevi finietur.
ウィータ ノストラ ブレウィス エスト, ブレウィー フィーニエートゥル.
Venit mors velociter, Rapit nos atrociter,
ウェニト モルス ウェーローキテル, ラピト ノース ア(-)トローキテル,
Nemini parcetur.
ネーミニー パルケートゥル.

vita(1)生命・人生・生涯、の単数主格(女性名詞)
nostra noster(所有形容詞)「我々の」の女性単数主格、vitaが女性名詞であることに合わせている
brevis brevis,e(形)短い、のここでは女性単数主格
est sum(前掲)の能動相直説法現在単数3人称
brevi (副)「簡単に・すみやかに」
finietur finio(4)「終える・(受動)終る」の受動相直説法未来単数3人称。
venit venio(4)「来る」の能動相直説法現在単数3人称
mors mors,mortis(女)死、の単数主格
velociter (副)swiftly,speedilyとラテン語・英語辞典にある。「すばやく・速く」
rapit rapio(3b)「奪う・ひったくる」の能動相直説法現在単数3人称
nos (前掲)
atrociter (副)violently,fiercely,cruelly,harshly、と辞典にある。「乱暴に・激しく・猛烈に・残酷に」
nemini nemo(3)何人も~ない、の単数与格(男女性)
parcetur parco(3)「容赦する」の受動相直説法未来単数3人称、与格を支配する。

(筆者訳)
我々の人生は短い、あっという間に終わってしまうだろう。
死はすばやくやって来て、われらを残酷に奪い取ってしまう、
死は誰をも容赦しないのだ。

名詞は、5つの変化に分かれる。そのうち、-aで終わる(1)は女性名詞を、-us,-umで終わり(2)とあるのは、それぞれ男性名詞、中性名詞を表わす。その他については、男女中で示される。
動詞は、(1)(2)(3)(3b)(4)の5つに分類される。動詞には、不規則動詞以外はこの分類が示される。

(続く)