西洋音楽歳時記

旧称「A・Sカンタービレ」。07年には、1日1話を。その後は、敬愛する作曲家たちについて折に触れて書いていきます。

ミサ(7)

2017-06-11 21:47:50 | 音楽一般
Agnus Dei(神の子羊)
 
Agnus Dei, qui tollis peccata mundi:
アーグヌス デイー、クィー トッリス ペッカータ ムンディー:

miserere nobis.
ミセレーレ ノービース

Agnus Dei, qui tollis peccata mundi:
アーグヌス デイー、クウィー トッリス ペッカータ ムンディー:

dona nobis pacem.
ドーナーノービースパーケム。
   
Agnus agnus(2)仔羊、の主格。多くは「子羊よ」、と呼格のように訳している。「こ」羊は、「子、小、仔」などが使われているが、どれが正解?すべて?
Deiは、deus(2)神、の属格。
donaは、(1)贈る、の命令法現在単数2人称。
nobisは、人称代名詞nos(我々は)の与格。
pacem歯、pax(3女)平和、の単数対格。

(筆者訳) 
世界の罪を除きたもうところの神の子羊よ、
私たちを憐れんで下さい。

世界の罪を除きたもうところの神の子羊よ、
私たちに平和を与えて下さい。

ラテン語の読み方は、時代により変わってきている。これまで読みをカタカナで振ってきたが、前にも述べたように古典期の読みを付けた。普通ラテン語を勉強する時、古典期を中心とした読み物を学習の目的とすることが多いからだ。語彙においても、そのため辞書にない語がここには多く出てきたが、それと共に、読みも教会音楽に関する歌詞を読む時にはそれにふさわしい読みを取るべきというふうに考えるのが普通だろうが、あえて古典期の読みにこだわった。
agnusは、合唱においては、アーニュスと読むようだ。他にも、合唱ではドイツ式で読むかイタリア式で読むかでずいぶんと違うようだ。

ミサ(6)

2017-06-10 11:21:02 | 音楽一般
Benedictus(祝福された)
 
Benedictus, qui venit in nomine Domini.
ベネディクトゥス、クウィー ウェーニト イン ノーミネ ドミニー
      
Hosanna in excelsis.
ホサンナ イン エクスケルスィース。

Benedictusは、beneとdicoの合成語から来ている。beneは(副)よく・正しく・幸に、の意。dicoは(3)言う、でdictusはその完了分詞。辞書には合成する前の形で出ていて、praise(ほめる・称賛する)とある。
venitは、venio(4)来る、の直説法完了単数3人称。歌詞には長音符が付かないので、現在(ウェニト、と読む)というふうにも取れますが、文意から完了と取ります。
nomineは、nomen(3中)名前、の単数奪格。
          
(筆者訳)
主の名により来た者は祝福された。
いと高き所で万歳。

  


ミサ(5)

2017-06-09 21:51:18 | 音楽一般
Sanctus(神聖である) 

Sanctus, Sanctus, Sanctus Dominus Deus Sabaoth.
サンクトゥス、サンクトゥス、サンクトゥス ドミヌス デウス サバオト。
 
Pleni sunt coeli et terra gloria tua.
プレーニー スント コエリー エト テッラ グローリアー トゥアー。
       
Hosanna in excelsis.
ホサンナ イン エクスケルスィース。

Sanctus, Sanctus, Sanctus Dominus Deus Sabaoth.  
Pleni sunt coeli et terra gloria tua(ejus).          
Hosanna in excelsis.

Sabaothは、辞書にもちろん無く、英和辞典を見ると(もう一つの、これもかなり詳しい辞書だが、それには無し)Sabaothと全く同じ綴りで出ている。複数扱いで、万軍、軍勢、とある。さらにthe Lord of Sabaothで「万軍の主、神」とある。語源はヘブライ語からとも。
Pleniは、plenus(形)満ちた、の男性複数主格。属格または奪格を支配するが、ここでは奪格が来ている。
tuaは、tuus(所有代名詞、または所有形容詞とも言われる)の、gloriaに合わせて女性単数奪格。。
Hosannaは、辞書に無く、英和辞典でhosanna(間)(名)ホサナ(神を賛美することば)。とある。
excelsisは、前にも出たが、excelsum(2)a height.とある。heightを辞書で引くと、高いこと・高さ、とまずあって、後に、(おもに複数)高い所;(聖書で)いと高き所、天(heavens).とある。これの複数奪格である。

(筆者訳)
神聖な、神聖な、神聖な 万軍の神である主は。
天と地は汝の栄光に満ちている。
いと高き所で万歳。

ベートーベンのミサ・ソレムニスなどでは、クレドのあとにサンクトゥスとベネディクトゥスが一つの楽章に収まっているが、まずサンクトゥスのみを取り上げた。

ミサ(4)

2017-06-08 22:20:45 | 音楽一般
Credo(私は信じる)-その2
             
Et in Spiritum Sanctum, Dominum et vivificantem,  
エト イン スピーリトゥム サンクトゥム、ドミヌム エト ウィウィフィカンテム、

qui ex Patre Filoque procedit.         
クィー エクス パトレ フィーロークェ プロケーディト。

Qui cum Patre et Filio simul         
クィー クム パトレ エト フィリオー スィムル

adoratur et conglorificatur:      
アドーラートゥル エト コングロ―リフィカートゥル:

qui locutus est per Prophetas
クィー ロクートゥス エスト ペル プロペータース
                   
Et unam, sanctam, catholicam          
エト ウーナム、サンクタム、カトリカム
                 
et apostolicam Ecclesiam.        
エト アポストリカム エックレスィアム。
   
Confiteor unum baptisma in remissionem peccatorum.
コンフィテオル ウーヌム バプティスマ イン レミッスィオーネム ペッカートールム。
  
Et exspecto resurrectionem mortuorum,
エト エクススペクトー レスッレクティオーネム モルトゥオールム、
         
et vitam ventri saeculi. 
エト ウィータム ウェントリー サエクリー。

Amen.
アーメン。

   
Spiritum Sanctumは、先述のSpiritus Sanctus(聖霊)の対格。
vivificantemはvivificans(生命の与え主、の意)が単数主格。動詞vivifico(生命を与える、の意)の現在分詞。この語は辞書になし。vivus(生命)+facio(作る)ということのようだ。
Patre Filoqueは、Patre et Filo(父と子)ということ。-queは、後倚字で、2つ以上の語を「そして」の意で繋ぐときに後の語に付けて使われる。
proceditは、procedo(3)前進する・現われる、の直説法現在単数3人称。
simulは、(副)一緒に・同時に
adoraturはadoro(1)(崇拝する)の、受動相直説法現在単数3人称。
conglorificaturは先述のglorifico(1)崇める、に接頭辞cumが付いたもの。それの受動相直説法現在単数3人称。
locutus形式所相動詞loquor(3)話す、の完了分詞で、estと共に直説法完了形単数3人称を作る。
Prophetasは、propheta(1男)預言者、の複数対格。
catholicamは、catholicus(形)の女性単数対格。辞書にはないが、英語のcatholic(形)普遍的な、の元の語。「万人の・公教の」の訳語をネットで見ました。         
apostolicamは、apostolicus(形)の女性単数対格。この語は辞書になし。辞書は、古典期(紀元前80年頃―紀元後14年)のラテン語、また恐らくは後期(14年―180頃)までを扱っているので(前者をラテン語の黄金時代、後者をラテン語の白銀時代と呼ぶことがある。)、キリスト教がローマ帝国内で公認されたのは、313年のコンスタンティヌス帝によるミラノ勅令からなので、ミサの歌詞に出るような語は載せられていないのだろう。apostolicusの意味はネットに「使徒継承の」とある。英語にapostolic(形)使徒の・使徒から伝承された」があるが、ラテン語から恐らく直で、英語に入ったものだろう。ラテン語辞書にないものは英語でずいぶんと補えるようだ。
Ecclesiamは、ecclesia(1)の単数対格。辞書にないが、これも英語のecclesiastical(形)キリスト教会の、から「教会」の意と取れる。
Confiteorは、形式所相動詞confiteor(2)認める、の直説法現在単数1人称。
baptismaは、baptisma(3中)のここでは単数の対格。辞書にない。英語のbaptism(名)(キリスト教の)洗礼、の元の語でもちろん「洗礼」の意。
remissionemは、remissio(3女)releasing(解放すること)の単数対格。
peccatorumは、peccatum(2中)罪、の複数属格。
exspectoは、(1)待つ・期待する、の現在単数1人称。
resurrectionemは、resurrectio(3女)の単数対格。これはresurgo(自)appear again(再び現われる)の名詞形で「復活」の意になることは、英語にもresurge(自)復活する、があり、名詞形はresurrection(復活)であることからわかる。これもラテン語から英語に直で来たものであろう。
mortuorumは、mortuus(2)a dead man(死者)、の複数属格。
vitamは、vita(1)life(生命)、の単数対格。
ventriは、venio(4)来る、の未来分詞venturusの中性単数属格。
saeculiは、saeculum(2)世代・世紀、の単数属格。未来分詞は「~しようとするところの」の意で、ventri saeculiで「来るべき世の」の意となる。

(筆者訳)
そして聖なる、主の、生命を与える霊を(私は信じる)、
その者は父と子より現われる。
その者は父と子と同時に
礼拝されそして讃えられる:
その者は預言者によって話した。
そして一つの、聖なる、公の
そして使徒の教会を(私は信じる)。
私は罪の赦しのための唯一の洗礼を承認する.
そして私は死者の復活、
そして来たるべき世の生命を待ち望む。
アーメン(そうでありますように)。

ラテン語の形容詞は、変化は名詞に準じている。名詞変化の第一と第二が一つの型を作り、第三がもう一つの変化の型を作っている。名詞変化の第四、第五に当たるものはない。第一第二変化には一部異なる変化を示すものがあり、また第三はいくつかの型に細分される。

ラテン語は、特に強調するなどの場合を除いて、主語の代名詞を置くことはない。動詞の語尾により、数・人称がわかるからだ。能動相・受動相でも異なる語尾を持ち、また能動の完了形は特別の語尾を取る。それらを単数・複数、また1~3人称の順に示すと、
能動相(完了以外)は、-o(オー)または-m(ム),-s(ス),-t(ト),-mus(ムス),-tis(ティス),-nt(ント)
能動相(完了)は、-i(イー),-isti(イスティー),-it(イト),-imus(イムス),-istis(イスティス),-erunt(エールント)または-ere(エーレ)
受動相は、-r(ル),-ris(リス)または-re(レ),tur(トゥル),mur(ムル),mini(ミニー),ntur(ントゥル)
となる。

ラテン語は、一般に初心者用に、長音は伸ばす符号を、母音に付けるが、宗教音楽の解説のラテン文には普通付いていない。ここでも付けていないので、カタカナを振り、それを示している。