西洋音楽歳時記

旧称「A・Sカンタービレ」。07年には、1日1話を。その後は、敬愛する作曲家たちについて折に触れて書いていきます。

シューベルト 「セレナーデ」(続々)

2016-03-04 22:23:53 | 音楽一般
今日の箇所はこれまでと曲調が変わるところです。

Laß auch dir die Brust bewegen,
Liebchen, höre mich!
Bebend harr’ ich dir entgegen!
Komm, beglücke mich!

Laß auch dir die Brust bewegen,
Liebchen, höre mich!

laßは新正書法ではlassとなります。元はlassenで「第9」にも出ました。英語のletと同語源で「~させる」の意の話法の助動詞です。命令法の単数2人称で語尾のeが付くこともありますが、ここは省略されています。Brustは英語のbreastと同語源で「胸」の意です。bewegenは他動詞で「動かす・心を揺り動かす」の意です。höreは前に出たhörenの命令法2人称単数形です。ここは語尾のeが付いています。

Bebend harr’ ich dir entgegen!
Komm, beglücke mich!

Bebendはbeben(「震える」)に-dが付いて現在分詞です。harr’はharren(「待つ」)の1人称単数形harreのeが略されアポストロフが置かれています。entgegenは英語のagainstと同語源です。3格支配の前置詞で「~を出迎えて」の意で英語と異なりその目的語は前に置かれているdirです。beglückeは他動詞beglücken(「幸福にする・喜ばせる」)の命令法2人称単数形です。


この詩を書いたのはドイツの詩人ルートヴィヒ・レルシュタープ(1799-1860)です。この崇高なシューベルトの「セレナーデ」は、この詩があって生まれたわけで、私はいつもそのようなことを思うと、詩人にも同様に感謝しないわけにはいきません。詩と旋律とを結びつけたものは何なのだろうといつも思ってしまいます。

(完)

シューベルト 「セレナーデ」(続)

2016-03-03 17:41:23 | 音楽一般
Hörst die Nachtigallen schlagen?
Ach! sie flehen dich,
Mit der Töne süßen Klagen
Flehen sie für mich.

Hörst die Nachtigallen schlagen?
Ach! sie flehen dich,

Hörstはhören(英 hear、意味は「聞く・聞こえる」)の単数2人称現在形です。その後に主語のduが省略されています。疑問符があり疑問文です。Nachtigallは英語のnightingaleと同語源で意味は「サヨナキドリ」、ここはその複数4格です。schlagenは、ここでは自動詞で「さえずる・鳴く」の意で、不定詞です。sieは複数3人称の代名詞でここはもちろんdie Nachtigallenを指しています。flehenはここでは他動詞で使われていて「~に懇願(嘆願)する」です。dichはdu(「君」)の4格です。

Mit der Töne süßen Klagen
Flehen sie für mich.

der Töneは「第9」で出てきました。Ton(「調子・音調・メロディー」)の複数2格形です。süßen Klagenはsüß(「甘い」)、Klage(「悲嘆・・悲しみ・悲しみ(苦しみ)のうめき[声]」)の複数3格形です。mitは「~と・~で・~を持って」の意の3格支配の前置詞です。次のflehenは自動詞(「懇願(嘆願)する」)で使われています。fürは英語のforと同語源の4格支配の前置詞です。意味は「~のために・~の味方で[代理で]」です。

Sie verstehn des Busens Sehnen,
Kennen Liebesschmerz,
Rühren mit den Silbertönen
Jedes weiche Herz.

ここは主語Sie(=die Nachtigallen)の動詞が3つ続きます。
verstehnは辞書にある形はverstehen(「理解する」の意)です。弱音節のeは頻繁に略されるようです。アポストロフが置かれるかと思いますが、これも略されるようです。Busenは英語のbosomと同語源で、「胸(とくに女の)・心・心の中」と辞書に意味が出ています。Sehnenは元は動詞sehnen(「あこがれる・慕う」の意)で、そのまま名詞化され使われています。この動詞の名詞はSehnsuchtで「あこがれ・憧憬」の意となり、ベートーベンはこのタイトルの2人の詩人(ゲーテとライシッヒ)の詩にそれぞれ1810年と15年に作曲しています。
2つ目の動詞は、kennenで「知っている」です。Liebesschmerzは辞書にありません。Liebeは英語のloveと同語源で「愛」です。Schmerzは「苦痛・苦悩」です。
3つ目の他動詞rührenは英語のtouchに訳され、「動かす・感動させる」の意です。Silbertöneはもちろん辞書にありません。Silber(英 silber)は「銀」です。動詞の目的語はJedes(元はjeder(「おのおのの・すべての」)で不定代名詞) weich(「柔和な・思いやりのある」)Herz(「心」)です。

(続く)

シューベルト 「セレナーデ」

2016-03-02 13:47:05 | 音楽一般
シューベルトのセレナーデもつい口に出して歌いたくなる曲の一つです。本当に素晴らしい曲だと思います。単語を辞書で引いて行くと、ドイツ語の勉強にもなります。今回は、「第9」に引き続き、この曲を取り上げます。

「セレナーデ」ですが、ドイツ語は、英語のserenade(フランス語、イタリア語が元になっています)とは関連のない語を使っています。Ständchenです。これはStand(英 stand)の縮小名詞です。Standは「立っていること」の意の名詞です。-chenを付けると(幹母音が変音します)元の語の「小・親愛」などの意を持つ縮小名詞を作ります。代表例が、Mädchen(「少女・女の子」)です。何と-chenが付いた名詞は中性名詞です。元に戻ります。なぜ「立っていること」がセレナーデなのかと思っていましたが、辞書(木村・相良)を見ると「セレナーデ(愛人又は敬愛する人の窓下に立って歌う)」と出ています。ここから来たようですね。

Ständchen

Leise flehen meine Lieder
Durch die Nacht zu dir;
In den stillen Hain hernieder,
Liebchen, komm zu mir!


Leise flehen meine Lieder
Durch die Nacht zu dir;

leiseは「小声で・かすかに・おだやかに」の意の副詞です。flehenは「懇願(切願・嘆願)する」です。 LiederはLied(「歌・リート」)の複数形1格。Nachtは「夜」で、英語のnightと同語源。Nachtmusik(「小夜曲」)はモーツァルトの曲名でよく聞きます。

In den stillen Hain hernieder,
Liebchen, komm zu mir!

stillは「静かな」の意で英語のstillと同語源。(綴りが全く同じ。でも発音はシュティルです。)Hainは「森」で、詩語です。herniederは副詞で「[こちらの]下へ、下方へ」とあります。Liebchenは「いとしい人・恋人」で、Liebe(「いとしい人」)の縮小名詞です。kommはkommen(英 come、「来る」の意)の命令法単数2人称形です。
 *すぐ前にdir、ここにmirが出てきましたが、人称代名詞の単数3格形で、それぞれ2人称、1人称で、「君(あなた)に」「私に」です。なぜ3格かというと、zu(英 to、「~の方へ」の意))は3格支配の前置詞だからです。

Flüsternd schlanke Wipfel rauschen
In des Mondes Licht;
Des Verräters feindlich Lauschen
Fürchte, Holde, nicht.

Flüsternd schlanke Wipfel rauschen
In des Mondes Licht;

Flüsterndはflüstern「ささやく・(風が)ささやくようにそよぐ」に-dが付いて現在分詞になっています。schlankは「細い・ほっそりした・しなやかな」の意の形容詞です。Wipfelは「こずえ(梢)」の意の名詞で語尾は付いていません(同尾型です)がここは複数1格です。rauschenは英語のrushと同語源で「ざわざわと音をたてる・さやぐ・ざわめく」の意です。Mondは英語のmoonと同語源で「月」です。ここはその属格(2格)で「月の」Licht(英 light,「光」の意)です。

Des Verräters feindlich Lauschen
Fürchte, Holde, nicht.

Verräterは「裏切者・反逆人・スパイ」の意でここは-sの語尾が付いて上と同じく属格です。feindlichは元は、名詞Feind(英語のfiend(「悪魔・鬼のようなやつ」)と同語源で「敵・憎悪する人」の意)に形容詞語尾の-lichが付いて「敵の・敵意のある」の意になります。Lauschenは動詞lauschen「(人の)ことばに聞き耳をたてる」がそのまま名詞化したものと見ていいでしょう。Fürchteはfürchten(英 frighten)は他動詞で「恐れる・こわがる・気づかう」の意で、ここは語幹に語尾-eが付いて命令法2人称単数形です。行の最後のnicht(「~しない」)と共に「恐れるな」の意になります。Holdeは元はholdで「やさしい・かわいらしい」の意の形容詞でここは名詞化され、語尾の-eが付いていることから相手の女性に呼びかけで使われていて、英訳だとmy darling(私の最愛の人)となっています。

(続く)