今日のうた

思いつくままに書いています

色のない虹

2020-06-10 16:16:37 | ③好きな歌と句と詩とことばと
石牟礼道子さんの『〈句・画〉集 色のない虹』を読む。
画や俳句はなんの気負いも衒(てら)いもなく、作者を傍に感じることができました。
画はのびやかに描かれていて、句には短いエッセイが添えられています。。
石牟礼さんの句や言葉をPCに打ち込んでいると、まるで写経をしているような
穏やかな気持ちになれます。
だが年には勝てません。すぐに目と腰が痛くなり、長くは続けられません。
心に残る句や言葉を引用させて頂きます。

(1)亡魂とおもう蛍と道行す  (2016年4月9日)

(2)あめつちの身ぶるいのごとき地震くる   (2016年6月18日)

    私たち人間は、大前提として、悠久の宇宙的な時間に包まれています。
   それは、宇宙の摂理に従って生きる卑小な存在であるということです。
   その摂理にいくら反抗しても無駄だし、それは良くないことです。
   でも人間には、その大前提を忘れてしまう癖がある。
    私は天の声をつねに聞こうとしながら、生きてきたように思います。
    地震はとても怖いです。でもはるかな宇宙の時空にくるまれて生きる
   存在であることを感じると、人間の生死は小さな問題に思え、本当の
   意味では怖くなくなってくるのです。

(3)泣きなが原 鬼女ひとりいて虫の声   (2016年10月8日)

(4)わが道は大河のごとし薄月夜   (2016年11月19日)

(5)谷の道いまだ蕾めり梅一輪   (2017年2月25日)

(6)渚(なぎさ)にてタコの子らじゃれつく母の脛(すね)  
  (2017年3月11日)

    かつて、人間はを含むあらゆる生き物は、命の根源である海、山の恵みに
   抱かれ、今では考えられないほど幸福だったことでしょう。しかし近代の
   人間は、海も陸も着々と自分たちのものにし、利用するようになってしまいました。
   その結果起きたのが、水俣病です。

(7)汝(なれ)はそも人間なりや春の地震(なゐ)   (2017年4月8日)

(8)きょうも雨あすも雨わたしは魂の遠ざれき   (2017年6月10日)
           ※遠ざれきとは、魂がさすらって行方不明になるという意味。

(9)戦(いくさ)して赤いクレヨンもなくなりぬ   (2017年8月12日)

(10)朝の夢なごりが原はひかりいろ   (2017年10月14日)

    村人たちは、自分たちはいのちのにぎわいにあふれた世界に生きているという
   自覚があるのです。私は土手に迷い込んでは、その世界と一体化したいと思って
   いました。人間が嫌で嫌で、キツネになりたかったのです。

(11)モスリンの晴れ着着てまた荷を負いぬ   (2018年1月13日)

    年が改まり、また一つ年を重ねていくわけです。ただ、それは同時にまた
   一つ荷が重くなることでもあると、いつからか自覚したように思います。
   パーキンソン病を患ったこともそうですが、生きるとは荷を負うことだと
   実感しています。そういう生き方を私は選んでしまっているのでしょう。

(12)徒然(とぜん)のうなか イルカと漕ぎ出す晩の海   (2018年2月11日)
        ※徒然のうなかとは、寂しくない、孤独でないという意味。

(13)山しゃくやく盲しいの花のあかりにて   
       (可憐な画に、このことばが添えられています)

(14)顔なしの姫が笑えり波すすき   (1984年)

(15)のぞけばまだ現世かもしれず天の洞   (1986年8月12日)

(16)いつの世の声きかんとて花すすき   (1992年12月)

(17)わが海に入る陽昏しも虚空悲母   (1996年元旦)

(18)青梅の落つるや雨に紅さして   (2000年6月21日)

(19)前の世のわれなりや今ゆきし草の笛   (2006年6月8日)

(20)いつもより柿食べており母恋ひし   (2007年12月)

(21)目ざめては童女となりて母を呼びぬ   (2007年12月)

(22)花びらの吐息のごとし指先に   (2015年5月9日)

(23)一輪の緋の花ふるえ白象もゆく   (2015年)

(24)死化粧を嫋々(じょうじょう)として山すすき

(25)向きあえば仏もわれもひとりかな

※人疲れした時は、石牟礼さんのこの言葉を思い出します。
 「人間が嫌で嫌で、キツネになりたかったのです。」

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