NHK短歌

　「 NHK短歌　2011年6月12日 」　花山多佳子選　佳作

ウランちゃん、アトムと呼びし科学の子　五十年経てその姿知る　　 題ー「呼ぶ」


　　　　※２０１２年１０月２３日の朝日新聞、「原発とメディア」に、
　　　　　「鉄腕アトム」の作者である手塚治虫氏は、核兵器も含め
　　　　　「あらゆる核エネルギーに反対」という立場を貫き通したとある。

　　　　　死後に出されたエッセイ集『ガラスの地球を救え』の中の
　　　　　「アトムの哀しみ」より引用します。

　　　　　「自然や人間性を置き忘れて、ひたすら進歩のみを目指して突っ走る科学技術が、
　　　　　　どんなに深い亀裂や歪みを社会にもたらし、差別を生み、人間や生命あるものを
　　　　　　無残に傷つけていくかをも描いたつもりです」

完走報告（梅田啓子）

５年続けて完走することができました。
消化不良の歌は多々ありますが、この５００首が
これから歌を続けていく上での、励みになってくれると思います。

このような場を設けてくださいました五十嵐きよみ様に、心より感謝いたします。
そして一緒に走ってくださった皆様、本当にありがとうございました。

100:完（梅田啓子）

荒波を受けて「唐獅子牡丹」観て稚き恋はほどなく「完」に

怒濤のあと「唐獅子牡丹」始まりぬ　稚き恋はほどなく「完」に　（推敲）

099:惑（梅田啓子）

砂時計の砂の落下が迅くなる　ビョルンに惑うダーク・ボガード

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　※迅く＝はやく

砂時計の砂の落下が迅くなる　タッジオに惑う老作曲家　（推敲）


　＊１９７１年の映画「ベニスに死す」より。
　　ベニスを訪れたドイツの高名な老作曲家を演じるダーク・ボガードが、
　　ビョルン・アンドレセン演じる少年タッジオに心を奪われます。

　　水兵服を着たタッジオの美しさは、喩えようがありません。
　　最後のシーンは、海に遊ぶタッジオを遠く見つめながら
　　老作曲家は死んでいきます。
　
　　老醜を少しでも隠そうと白粉と口紅を塗り、髪を真っ黒に染めたために、
　　化粧は醜く落ち、こめかみから黒い汗を流して死んでゆくのです。


追記
先日、NHK・BSプレミアムでこの映画を放送していた。
前回観た時よりも、映像や音楽の美しさが胸に響いた。
そしてタッジオの若さや美しさがより輝いて見えた。
老いるとは、こうしたものをより愛おしむようになることだと思った。
（２０２２年６月１３日　記）

098:味（梅田啓子）

深皿をまさぐる指が止まりたり　カールのカレー味がもうない！

097:毎（梅田啓子）

≪ おいしい ≫をテレビは毎日連呼する≪ 日本の力を、信じてる ≫の後

096:取（梅田啓子）

しり取りをして遊びたるおみなごの帰りてのちはぐったりさびし

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095:遠慮（梅田啓子）

消しゴムの汚れに消しゴム使うごと無遠慮なるは無遠慮に返す

094:裂（梅田啓子）

村民を裂きて争わせしことも利権という名の甘やかな罪

村民を裂きて争わせしことも利権という名の甘やかな罠　（推敲）

093:迫（梅田啓子）

迫害を受けたるごとく梔子の花の銹びおり わが留守の間に

　　　　　　　　　　　　　　　＊梔子＝クチナシ、銹＝さ

迫害を受けたるごとく梔子の花は銹びおり わが留守の間に　（推敲）