今日のうた

思いつくままに書いています

チィファの手紙

2021-02-25 10:05:38 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
岩井俊二原作・脚本・監督の「チィファの手紙」を観る。
この作品は同じ題材で、日本と中国とで作られている。
日本での映画のタイトルは「ラストレター」。

あらすじは、
中学時代に妹が憧れていた姉のクラスの転校生は、
お姉ちゃんのことが好きだった。
二人は大学で再会し、交際が始まる。
だが姉はならず者と結婚してしまう。そして二人の子どもをもうけるが、
夫は蒸発し、姉は自殺する。
妹は姉の代理で中学の同窓会に出席し、姉の死を報告しようとする。
だが姉と間違えられ、スピーチまですることになる。
そこで憧れの転校生と再会し、手紙を介した物語が始まる。

脚本もさることながら、妹役のジョウ・シュンが抜群にいい。
遺された二人の子どもを見守る妹家族があったかい。
妹が、姉の息子に
「もういいから 大丈夫だから
 心配ないよ きっと大丈夫だから
 そんなに苦しまないで 分かってるよ
 大丈夫だから 大丈夫だよ 一緒に帰ろう」   (引用ここまで)

妹の子(Aとする)は、姉の娘(Bとする)が心配で
しばらく泊まることになる。

A:「あたしね、好きな人ができた
  この人好きかもって 気づいたのが12月
  隣の席の男子
  やっぱり この人のことが好きだって
  気づいたのが1月
  そのまま冬休みに入って
  そのまま気持ちが膨らんで
  もうどうしようもないくらい膨らんで
  そうしたら だんだん怖くなってきて
  冬休みが終わって教室で再会したら
  絶対 顔真っ赤になる
  授業中 彼が隣にいたら
  絶対 顔真っ赤になる

B:「まさかそれが登校拒否の理由?
  そんなこと?」

A:「言わなきゃよかった」

B:「いいじゃん そんなの大丈夫よ」

A:「だからね、わたし学校に行く
  今日 睦睦(ムームー=姉の娘)の話を聞いたら
  恥ずかしくなった
  自分はちっちゃいなって思った
  だから あたしも頑張って
  学校に行こうと思った 彼に会いに」    (引用ここまで)

妹が、姉の息子に
「泣いていいのよ 泣いたらきっと楽になる
 男の子も 泣いていいの
 いい子ね 泣きなさい   (引用ここまで)

当時の姉は、中学の卒業式で挨拶をすることになっていた。
姉のことが好きな転校生は文章を書くのが上手なので(後に作家になる)、
挨拶を見てもらうことになる。
その時の様子がフラッシュバックされる。

「本日、私達は卒業の日を迎えました
 中学時代は私達にとって
 おそらく生涯忘れがたい
 かけがえのない想い出に なることでしょう

 将来の夢は? と問われたら
 私自身 まだ何も浮かびません
 でも それでいいと思います
 私達の未来には 無限の可能性があり
 数えきれないほどの人生の
 選択肢があると思います

 ここにいる卒業生 一人ひとりが
 今でも そしてこれからも
 他の誰とも違う人生を歩むのです

 夢を叶える人もいるでしょう
 叶えきれない人もいるでしょう
 つらいことがあった時
 生きているのが苦しくなった時
 きっと私達は幾度も
 この場所を思い出すのでしょう
 自分の夢や可能性が
 まだ無限に思えた この場所を
 お互いが等しく 尊く 輝いていた
 この場所を」          (引用ここまで)

こんなに素晴らしい挨拶をした姉が・・・
姉の結末が分かっているだけに、涙が出た。
心が柔らかくなるような、いい映画だ。


追記1
同じ題材で同じ監督が作った日本版「チィファの手紙」を観る。
タイトルは「ラストレター」。
「チィファの手紙」は岩井監督が伸び伸び撮った様子が窺われる。
上にも書いたが、妹役のジョウ・シュンが抜群にいい。
軽妙な演技で笑わせたり、甥をいたわるシーンなど彼女なしには
この映画は考えられないほどだ。

とかく日本映画は、内容よりも客を呼べる俳優にスポットライトを
当てがちだ。俳優を引き立たせるために作られた映画ほど
つまらないものはない。
「ラストレター」の出だしは妹役の松たか子から始まる。
声が甲高い。(歳をとると高い声が苦手になる。)
美人で明るくて素敵なお母さん、もしかして彼女のために作られた
映画なのだろうかと不安になった。
以前テレビでラグビーを題材にしたドラマを観たが、
その時は夫や息子を怒ってばかりいる役だった。
怒るにしてもそれぞれ状況が違うはずだが、ワンパターンだった。
今回は明るい役だが、明るさが独りよがりで平面的なのだ。
このままドラマは進行してしまうのだろうか。

だが脇を固める役者に救われた。
木内みどり、森七菜、豊川悦司、中山美穂。
妹の子の役の森七菜は、自然な演技が際立っている。
これは天性のものなのだろうか。
「チィファの手紙」では、ならず者の夫の肩書くらいしか語られていない。
「ラストレター」では、豊川悦司によって彼の苦悩やそうせざるをえなかった
心の内を生身で知ることができた。
中山美穂は、下に書く「ラブレター」から25年が過ぎ、堂々とした
女優に成長していた。そして
最初に感じた私の危惧を吹き飛ばすようにして、映画は終わりを迎える。
だがやはり私は、「チィファの手紙」が一番好きだ。

最後に、岩井俊二監督三部作の最初に撮られた「ラブレター」を観る。
冬山が美しく印象的だ。
初々しい中山美穂が二役を演じ、ファンにはたまらないだろう。
この映画も、中山美穂のためにあるような映画だった。
それにしても、25年前も豊川悦司は相も変わらずうまい。
岩井俊二監督には伸び伸びと、外国で映画を撮って欲しいと
個人的には思った。
(2021年3月17日 記)

追記2
私は森七菜を「ラストレター」で初めて知ったのだが、
第44回 日本アカデミー賞の新人優秀賞に選ばれていた。
おめでとうございます。これからが楽しみな役者だ。
(2021年3月20日 記)

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げいさい

2021-02-16 17:39:27 | ③好きな歌と句と詩とことばと
ツイッター上で、会田誠「げいさい」と書いてあるのを何度か
目にしたが、何のことか分からなかった。「げいさい」とは何ぞや?
図書館の新刊コーナーでそれが小説だということを知った。
会田誠著『げいさい』を読む。

会田さんの作品は、2013年に「天才でごめんなさい」を観ただけだ。
その時のことをブログに書いている。
        
「これでもかというくらい煩雑で残酷な作品にあっても、
 清浄で品のあるやさしさ、のびやかさを感じる。
 これは少女を描く時に際立つ。
 彼のやわらかい筆致や心根、そして男性ということにも拠るのだろうか」

この印象は小説を読んでも変わらない。
自分に誠実だという思いを、より強くした。
私は私小説として読んだのだが、違うかもしれない。
主人公は2浪して芸大を目指している。
1浪していた時の仲間の、「多摩美芸術祭ー通称「芸祭(げいさい)」
に加わった1986年の一日を描いている。

「行き交う人々の多くははしゃいでいる。無理もないーー年に一度の
 無礼講的なお祭りなのだ。この三日間だけは学生の自治が認められ、
 普段は地味なキャンパスが異空間に生まれ変わるのだ。
 何らかのビジュアルものを作るプロを目指す美大生なら、
 さぞや腕が鳴ることだろう」

「芸祭は・・・まさにオレたちの青春だった・・・クサいこと言っちゃう
 けどさ。それが終わっちまうってことなんだよォ!」

絵の予備校の仲間をはじめ、様々な人が出てくる。
これだけ登場人物が多いとごちゃまぜになるのだが、その一人一人が
くっきり浮かび上がってくる。そして時空を超えた展開にも、
すっと入っていける。余計な言葉を使っていないからなのか、
構成が見事なのか、気持ちよく読めるのだ。

主人公は予備校で、芸大に入るための訓練を徹底的に受ける。
だが入試の実技の課題は「自由に、絵を、描きなさい」
鎮魂のために絵を描く。

「廊下の方で試験終了の鐘が鳴り響いて、僕は我に返った。
 もはや自分の絵の良し悪しをあれこれ斟酌するような心境ではなかった。
 こうする他はなかったーーやれることはすべてやったーー
 という清々しい充実感だけがあった。こうして暫定的に描くことが
 終了した自分の絵を、僕は堂々と誇りを持って、真正面から
 見ることができた。にわかに感動がこみ上げてきて、
 落涙こそしなかったが、僕の目は涙で溢れ返った。

 こうして僕は芸大に落ちた。」     (引用ここまで)

誠実で繊細で品のあるやさしさ、あたたかさに満ちた文章は、
若い人たちが生きていく上でのマイルストーンになることだろう。
本のタイトルを、「芸祭」とせずに「げいさい」にした気持ちが
わかった気がする。

2013年4月2日のブログ「天才でごめんなさい」
           ↓
https://blog.goo.ne.jp/keichan1192/e/efdb5a424993e713b138caa6245d116f







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短歌のまとめ Ⅰ

2021-02-07 09:32:49 | ⑯第一歌集 『ふたりご』・その他
私は2004年に短歌を初め、2014年に唐突にやめてしまった。
それからの6年間は短歌とは無縁の生活を送ってきたのだが、
最近になって春日真木子さんを詠んだ歌について書いたのをきっかけに、
古いノートを引っ張り出してきた。
懐かしいと同時に、いろいろなところに歌を送っていたことに
われながら驚いた。
「NHK短歌」、「NHK全国短歌大会」、「朝日歌壇」、
朝日千葉版の「歌壇」、現代歌人協会主催「全国短歌大会」などなど。

たくさん出詠してはたくさん落とされた。
それでも時に選歌されると励みにもなった。
短歌の“た”の字もわからずに初めた私だが、選歌されることで
少しずつ短歌というものが解ってきたように思う。
それまで「百人一首」を読んだことがなかったが、市民講座で
本が1冊あまっているということなので、頂くことにした。
古文は苦手だったが、内容が解らないなりに毎日音読していると、
だんだんリズムが掴めてきた。

今後、新型コロナウィルスに感染して、この世とおさらばする日が
突然来るかもしれない。そうなる前に
選歌して頂いた歌をブログに残そうと思います。
選歌してくださった方々に感謝します。有難うございます。

(1)NHK短歌(佳作は2カ月遅れで本に載ります)

①2008年3月号 高野公彦選 佳作(怒る) 
噴門より入(い)りて幽門出(い)でゆきぬ夕べの怒りすこしこなれて

②2008年8月号 栗木京子選 佳作(抜)
大鰺(あじ)の腸(わた)を抜かむと入(い)る指が
 やはきに触れて一瞬ひるむ

③2009年4月号 川野里子選 佳作(帰る)
帰るたびグンと伸びゐる実生(みしやう)の木 
 廃家となれるふるさとの庭に

④2009年5月号 栗木京子選 佳作(左)
左手に痛む右腕さすりやる永井陽子のうた写し終へて

⑤2009年6月号 加藤治郎選 佳作(恋)
〈光の春〉を教へてくれし日は過ぎて
 ひだまりに夫(つま)は爪を切りをり

⑥2009年7月号 加藤治郎選 佳作(食べ物)
定型になると饒舌 あはび・烏賊・まぐろに海老とちらしに溢る

⑦2009年8月2日放送 今野寿美選 一席(煙)
ピシピキと薪の火はぜて煙立ついつかは終はる子と過ごす夏

今野評
一家でキャンプ。火がはぜる音を個性的に添えて楽しい場面を
浮かばせた。親子で過ごす夏は子が少年少女期のうちだけ。
母の率直な見きわめに情感が漂う。

⑧2010年1月号 東直子選 佳作(白)
人群れがわれに向かひて押し寄せる白き朝(あした)は過呼吸になる

⑨2010年1月24日放送 東直子選 一席(器)
永久凍土けふも融けゆくこの星の洗面器にてかほを洗へり

※歌集では新仮名遣いにしたが、やはり旧仮名遣いが生きる歌だと思う。

⑩2010年8月号 加藤治郎選 佳作(雨ーテーマ詠)
雨の日のわが間脳はゆるびゐてとろとろとろとろ魚のねむり

⑪2010年9月号 東直子選 佳作(宿)
鯉と鯉しづかに淡くすれちがふ死者のたましひ宿せるごとく

※これより新仮名遣いになります。

⑫2010年10月号 加藤治郎選 佳作(昭和ーテーマ詠)
横丁の文化がひとつ無くなりぬ銭湯で飲むフルーツ牛乳

⑬2010年10月号 東直子選 佳作(島)
団塊の星と呼ばるる島耕作すべて手に入れいかに老いゆく

⑭2010年10月24日 ニッポン全国短歌日和(NHKBS)100選
打っちゃりの決まったような秋の空どこまでもどこまでもこすもす

⑮2010年10月24日 ニッポン全国短歌日和 花山多佳子選(打つ)
石打ちて火を熾(おこ)したる古代人そのあつき掌(て)に触れたき夕べ

⑯2011年2月13日放送 加藤治郎選 入選(思い出ーテーマ詠)
ぎしぎしとわたしの髪を洗うのはリウマチを病む前の母の手

⑰2011年5月8日放送 花山多佳子選 入選(扉・戸)
ノックをせずに扉をあける人と居て知らぬまにわれはゆるびていたり

⑱2011年8月号 花山多佳子選 佳作(呼ぶ)
ウランちゃん、アトムと呼びし科学の子 五十年経てその姿知る

⑲2011年9月号 来嶋靖生選 佳作(山・川)
汗かきて乳房(ちぶさ)冷えゆく初夏(はつなつ)の
 山にひびかう時鳥(ホトトギス)の声
         
⑳2011年9月号 花山多佳子選 佳作(葉)
蓮の葉の漏斗(ろうと)のような窪みへときるきる雨が吸い込まれゆく

21 2011年9月号 坂井修一選 佳作(輝)
輝ける柿の若葉はいろを増しわれにこんもり木陰をつくる

22  2011年10月号 坂井修一選 佳作(戦争)
気の弱き父が一番撲(う)たれしと共に戦争に行きし人告ぐ

23 2012年3月号 佐伯裕子選 佳作(橋)
濁流の橋脚を揉む映像がいくどもいくども巻き戻される

24 2012年4月号 花山多佳子選 佳作(穴)
口だけがひとつの穴であることの止むことのなき友のおしゃべり

25 2012年6月号 坂井修一選 佳作(子)
子の内に何歳(いくつ)のわれが棲むならむ二十年のち、五十年のち

26 2012年8月号 来嶋靖生選 佳作(涙)
超音波画像に胎児と会える子の涙は枕につつっと落ちぬ

27 2012年8月号 花山多佳子選 佳作(鏡)
四十年、黒縁眼鏡に笑いいる写真一枚残さぬ人は

28 2012年12月号 坂井修一選 佳作(電車・汽車)
身長の三分の二ほどの籠を背負(しょ)い行商のおうな電車に乗りくる

29 2013年3月号 花山多佳子選 佳作(鉄)
鉄さびが轍(わだち)のごとく残りたり形見のハサミに白布裁ちて

(2)NHK全国短歌大会

①2006年1月14日 石田比呂志選 秀作(自由詠)
空砲の鳴る畑道(はたみち)をゆく朝(あした)
 やらねばならぬこと何もなし

②2006年1月14日 稲葉峯子選 秀作(題詠―光)
火屋(ひや)の母 灰となりたるその中に人工関節赤く光れり

③2006年1月14日 入選(自由詠)
風に揺れ凌霄花(のうぜんかづら)ひとつ落つ
 母に背(そむ)きし夏の思ほゆ

④2008年1月26日 入選(自由詠)
大ぶりの茶碗に飯(いひ)を食(は)みてをり
 旅に出(い)でたる君に代はりて

⑤2008年1月26日 入選(題詠―声)
北の果てノールカップにいま立つと夫(つま)の声きく午前三時に

Ⅱにつづく
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短歌のまとめ Ⅱ

2021-02-07 09:30:55 | ⑯第一歌集 『ふたりご』・その他
(3)市の広報や市の短歌大会・現代歌人協会主催「全国短歌大会」・その他

①2005年6月16日 広報
鎌首をもたげるごとく茎伸ばしアロエは初の莟(つぼみ)をつけぬ

②2005年8月16日 広報
祭りから帰る幼(をさな)の足取りは太鼓の音になほ踊りゐる

③2005年9月16日 広報
意志をもち歩き初(そ)めたる孫ちひろ
 地球を感じよその足裏(あなうら)に

④2006年1月16日 広報
ぬばたまの黒き鳥なる大鷭(おほばん)の額(ぬか)のみしろく神は創れり

⑤手賀沼短歌
手賀沼の水面(みなも)にひかり転(まろ)びゐて長雨あとの心躍らす

⑥2005年10月 市の短歌大会 池田弓子選
笑顔のみ思ひ出さるる亡き父よ生垣に咲く満天星(はくちやうげ)のごと

⑦2006年10月28日 市の短歌大会 小池光・依田仁美(よしはる)・市長選
蝉の声重なり合ひてギシギシと空を軋(きし)ます終戦記念日

⑧2007年10月28日 市の短歌大会 依田仁美選
吹きゆきし風のゆくへをたどるごとけやき青葉は波打ちてをり

⑨2011年10月22日 市の短歌大会 4位 蒔田さくら子・依田仁美・
 榊原敦子・市長選
火の見えぬファン・ヒーターに暖をとる輪郭のなき冬のいちにち

⑩2008年10月19日 明治神宮総合歌会 佳作
嫁ぎたる子より着信けふもなし初生りトマトを滴らせ食ぶ

⑪2007年9月号 短歌研究 予選通過作品
雀は鵯(ひよ)と交はることのあらざるや鵯の木のあり雀の木あり
                       鵯=ヒヨドリ

⑫2007年9月号 短歌研究 予選通過作品
エニシダは黄(きい)の光をまきちらす二度と還らぬこの一瞬を

⑬2007年11月25日 角川「短歌」 久々湊盈子選(喫茶店)
初めてのデモに終電乗りおくれ深夜喫茶に朝を待ちゐき

⑭2009年3月11日 角川全国短歌大賞 参加作品
冬空を噴き上げゐたる水ふいに止みていつきに我も落ちゆく

(4)現代歌人協会主催「全国短歌大会」

①2006年10月14日 春日真木子選 選者賞
山おほひ送電線をものぼりゆく葛とふ姓を子は嫁してもつ

②2006年10月14日 三枝昂之選 佳作
ラーメンの汁飲み干して汗ぬぐふこの煮干し味三十年ぶり

③2007年10月13日 加藤治郎選 佳作
病もつ前にタイムスリップをしたしと子のいふ七夕の夜

④2008年10月11日 松平盟子選 佳作
クリップに散(ばら)ける紙を留むるごと職退きし夫は気を使ひをり
                     退=ひ、夫=つま

⑤2009年10月3日 坂井修一選 佳作
白米がバターライスになつたやう付け睫毛ながき姪の笑顔は

⑥2009年10月3日 花山多佳子選 佳作
「すしのこ」の匂ひがするとをみなごの髪を娘は拭きてまたかぐ

⑦2010年9月23日 沖ななも選 佳作
プレミアムモルツのやうに君だけが光りつつ来るカートを押して

⑧2011年10月15日 久我田鶴子選 選者賞
葉洩れ日のなかに咲きいる柿のはな乳歯のごとき光を返す

⑨2011年10月15日 小高賢選 佳作第二席
割烹着のポケットにいつも入ってた母が拾いし輪ゴムが二、三

⑩2011年10月15日 松平盟子選 佳作
新旧の石鹸ひったり貼られおり壮年の夫をわれは知らざる
                     夫=つま

Ⅲにつづく
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短歌のまとめ Ⅲ

2021-02-06 09:44:10 | ⑯第一歌集 『ふたりご』・その他
(5)朝日歌壇

①2005年11月14日 高野公彦選
ひゅるひゅると気管支の鳴る秋の夜は母の胸にて泣きたきものを

②2007年3月5日 高野公彦選
雪に顔を埋(うづ)めて草を食(は)みてゐる
 寒立馬(かんだちめ)の背(せな)湯気立ちのぼる

③2010年2月15日 永田和宏選 佐佐木幸綱選
小沢氏を囲む鋭き四つの眼みぎにひだりに水平移動す

永田和宏 評
記者のインタビューを受けることの多い小沢氏を詠うが、イデオロギーが
先立つのではなく、画面の中での思わぬ発見が新鮮だ。
佐佐木幸綱 評
資金管理団体をめぐる事件で連日テレビニュースに登場した小沢一郎幹事長。
警備の人の目の動きを表現した下句が独特。

④2011年1月24日 永田和宏選
映らねば上をたたきし日のありきテレビは家族のまん中に居た

(6)朝日新聞千葉版 歌壇 藤田武 推薦
藤田さんは「潮音」と「環」に所属していました。私が所属していた「塔」とは
歌風が違います。「塔」では採ってもらえない歌も、採ってくださいました。
いろいろと冒険ができて楽しかったです。
2014年にお亡くなりになっていたことを知りました。

①2006年10月11日 
うつむきて待ちゐるわれの視界へとひらひら君の手が現れき

②2006年11月22日
うす紅の絞りのやうなあかまんま二十歳(はたち)の恋を秘めて生き来し

③2017年1月17日
身のおくか熱の生(あ)れきて耳たぶのふるへ始むる新月の夜

④2007年1月31日
愛しさの風化するまであとすこしメタセコイアの針の葉を踏む

⑤2007年2月15日
昨夜(よべ)ゆめに顕(た)ちて口づけ迫りたる男が電車の向かひに坐る

⑥2007年12月5日
ふくらみに沿ひてうぶ毛のひかりゐる電車に眠る少女の胸は

藤田武 評
電車のなかで無心に眠る少女の胸のふくらみに沿ってのうぶ毛の
ひかるさまに、作者は掛け替えのない生命の尊さを、美しさを見出したので
あろう。あるいはそこに母の眼が重ねられていたのかもしれない。
作者の眼もまた純一である。

⑦2007年12月19日
マスカラをつけゐる人の眼球は哀しみをもつ石となりゆく

⑧2008年1月9日
絵の隅にくれなゐのすぢ過(よぎ)りゐるムンクのあら血を塗りこめたるか

⑨2008年1月23日
柚子の香の残るわが腕撫でをれば子のわれになきごとくさびしき

⑩2008年3月12日
ヒマラヤの岩塩ふふむわが舌に太古の海のまろきしほあぢ

⑪2008年3月26日
酒々井(しすい)とふ淋しきひびきのふるさとよ父はお酒を愛し憎みき

⑫2008年5月21日
白髪のなびくがごとく風にのり吉野の谷にさくら散りゆく

⑬2008年6月4日
原つぱの土管の中にまどろめり遠くにわれを呼ぶこゑがして

⑭2008月8月6日
わが胸に風ゆく道のあるらしも淋しき時はひゆうひゆうと響(な)る

⑮2008月10月1日
ウォーキングをしたる日の夜(よ)の体(からだ)から
 獣がにほふ鏡のまへは

⑯2008年10月15日
曼殊沙華(まんじゆしやげ)のまつ赤な花が咲いてゐた
 おもひですくなきはたちの恋は

(7)千葉市民芸術祭
藤田さんからのお誘いで出詠しました。

①2007年3月11日 藤田武選 2位
蠟梅(らふばい)の香を封じおく小瓶欲し夜具にしのばせ君を待たむと

②2007年10月21日 日高堯子(ひたかたかこ)選 9位
夕畑に紋白蝶のあまた飛び草ひくわれの肌に触れゆく

③2008月3月9日 千葉市教育委員会教育長賞
久々湊盈子選 1位、久我田鶴子選 2位、藤田武選 10位
葱坊主のうす皮ごしに花の見ゆ はちきれさうな少女のふともも

④2008年10月19日 藤田武選 4位、久我田鶴子選 10位
畑なかの支柱は白き軍手はめ「プレーボール」と夏空に告ぐ

(8)朝日川柳
①2012年7月10日
反原発 万のクラゲが加勢する

※2012年7月9日、大飯原発3号機がフル稼働の状態になったが、
 8日からクラゲが大量発生し、出力が低下する事態が起きた。
 クラゲ、ありがとう!

②2013年11月12日
川柳で逮捕者のでる近未来

③2014年1月9日
★ 重箱にごまめの歯ぎしり残りけり

(敬称略 多少変更しているものもあります)


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