081:自分（梅田啓子）

自分から求めしことはなかりけり　海は画面に見るものとなり

自分から求めたことはなかりけり　海は画面に見るものにして

080:修（梅田啓子）

修飾語を探しながらに見てゐたりバスに坐れる乗客五人

079:悪（梅田啓子）

悪意なき人の中へと身を置きぬただ前を向き讃美歌を聴いて

078:師（梅田啓子）

師と仰ぐ人に反骨多きこと堅焼煎餅食みつつ思ふ

077:うっすら（梅田啓子）

うつすらと髭の生えたる息子とはいかなるものか　貝割れを食む

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＊食＝は

076:納（梅田啓子）

手書きなる納品書を添へ送りくる歌集の活字は重みを刻む

手書きなる納品書を添へ送られきし歌集の活字は重みを刻む　（訂正）

075:良（梅田啓子）

湯の中にミニ柚子七つ浮かばせて良寛さまになりて遊べり

074:ワルツ（梅田啓子）

「ターミネーター」観し日のシュワルツェネッガーを永久凍土に放りやりたし


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

073:史（梅田啓子）

まつ白に海をそめゆく産卵はサンゴの歴史は地球の歴史

まつ白に海をそめゆく産卵よ　サンゴの歴史は地球の歴史　（推敲）

072:産（梅田啓子）

産土はわが胸のなか　風呂を焚く薪の匂ひも父母もなく

　　　　　　　　　　　＊産土＝うぶすな、父母＝ちちはは

産土はわが胸にあり　風呂を焚く薪の匂ひも父母もなく　（推敲）

071:得意（梅田啓子）

デパートの上得意様の一人らし買物券を束にして持つ

070:柿（梅田啓子）

柿落しのこけらは柿にあらざれば納得したり柿落しを

　　　　　　　　　　　　　　　　＊柿落し＝こけらおとし

069:視（梅田啓子）

視神経つかい過ぎたる夕ぐれはわさびの花をくちにふふめり

視神経つかひ過ぎたる夕ぐれはわさびの白き花をふふめり　（推敲）

068:兄弟（梅田啓子）

あそこにもここにもカインとアベルゐて兄弟とふは宿命の敵

067:闇（梅田啓子）

闇をもつ男がわれを見つけ出すやみを放りて差し出すために