今日のうた

思いつくままに書いています

春のこわいもの

2022-03-19 16:30:07 | ③好きな歌と句と詩とことばと
作家の皆さま、そして出版社の方々には申し訳ないが、
私は読みたい本のほとんどを図書館で借りている。
川上未映子著『春のこわいもの』を書評で知り、
早速、市の図書館にリクエストした。
誰も栞に触れていない本を手に取るのは快感だ。
ピンクを基調にした淡い装幀の本は春にふさわしい。
だが表紙の大半を占めるピンク色の頭陀袋は何なのだろう。
皺が寄っていて、何が入っているか不気味だ。

帯には「この作品はAmazon Audibleにて、岸井ゆきのさんの
朗読により配信されています」とある。
読むのと聞くのとではどういう違いがあるのだろう。

コロナ禍を生きる人間を描いた6つの短編は、どれも面白い。
どれもが五感に訴えてくるものだ。
その中でも「あなたの鼻がもう少し高ければ」と
「娘について」がよかった。
「春」に数滴の毒を垂らしたような内容だ。
一気に読み終えたが、読後感が実に爽快なのだ。

いつ終わるともしれないコロナ禍にあって、心も体も疲弊している。
自分の中の毒がじわりじわりと蓄積していくのが分かる。
この小説はまさに毒を以て毒を制す、作品の毒に救われた気分だ。

心に残った言葉を引用させて頂きます。

 わたしたちは互いにみわけがつかなくなるくらいに交わった
 ことがあったけれど、でも、うまくいかないときもあった。・・・

 彼の体は、まだ世界のどこかにあるだろうか、どうだろうか。
 わたしの時代のあの日々は、どこかに残っているだろうか。
 なぜ今も、わたしは思いだすのだろう。彼と交わっていた
 あの日々に、あのときわたしに満ちていたすべての死にたさ
 よりも、生き残った何かがあったということだろうか。

 家にひきこもっているのはいつものことだし、スーパーも
 昼間に行けば何の問題もないし、充分な量のマスクも消毒液も
 ある。人と会うことも話すこともないから感染の確率も低いと思う。
 でも、この騒ぎが起きてから眠れない日が続いている。やっと
 眠れたかと思うと真夜中に目が覚めて、そのまま朝を迎えるという
 ようなことも一度や二度ではなくなっている。

 新刊を出すたびに話題になって押しも押されもせぬ存在感を
 放っていたあの作家も、今では見る影もない。
 あんな人たちでもそうなのだ。彼らの足元にも及ばない、まるで
 水に濡れた紙コップみたいなわたしの先行きなんか、わざわざ
 想像してみるまでもない。         (引用ここまで)


そういえば、SEKAI NO OWARI のラジオ番組「The House」
(ラジオ欄ではセカオワ・ハウスになっている)の後に、
5分間だけの「東京カレンダーRADIO」という番組がある。
あやしげな物語で惹きつけておいて、「この続きはスマホアプリ・
オーディで」で終わる。オーディとは、AuDee のことらしい。

Amazon Audibleといい、AuDeeといい、
物語は聞く時代に変わっていくのだろうか

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 82年生まれ、キム・ジヨン... | トップ | あと千回の晩飯 ② »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

③好きな歌と句と詩とことばと」カテゴリの最新記事