今日のうた

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自由対談

2022-08-20 05:07:41 | ③好きな歌と句と詩とことばと
中村文則の対談集『自由対談』を読む。
さまざまなジャンルの方との対談が載っていて、
さまざまな中村文則を知ることができた。
だがどの場面でもぶれることなく、臆することなく、
その博学に驚く。

彼は読者を「読者さん」と呼ぶ。そして本のあとがきには
次の言葉が記されている。やさしい人だと思う。

「これからも、書き続けていきます。読者の皆さんも、
 生き続けてください。共に生きていきましょう。
 ではまた次作で」         (引用ここまで)

彼は社会問題を題材にする。その理由を「これから生きていく
読者さんが苦しむことのないように」と語っていたことがある。
津田大介との対談でも、このことを述べている。

「当時の日本には素晴らしい作家たちがいたのに、なぜ第二次
 世界大戦であんなことになってしまったんだということ。
 作家の力がどの程度かという議論は措くとして、こんなに素晴らしい
 作品を書いたのに、その数年後に日本はあそこまで戦争に突入し、
 敗戦する。そんな段階にまで至ってしまったときには作家は何も
 出来なくなってしまうので、その兆候が現れたときに抵抗して
 いかないと駄目だと思ったんです。それに、いま危機が訪れて
 いると自分自身が強く思っているのであれば、それを伝えないと
 読者に対する裏切りになるのではないかという思いもあって。」
                   (引用ここまで)

彼は地獄を見てきた人だと思う。そこからずっと自分と向き合い
ながら、自力ではい上がってきた人だと思う。
だからぶれない、芯の強さと寛大さを身につけている。
姜尚中との対談で、悪について次のように述べている。

「とにかく、悪というものが自分の中にあると自覚することが
 出発点になると思います。自覚すると、何か犯罪が起きたときに、
 被害者の立場で悲しむと同時に加害者の立場で悲しみ、事件を
 全体の悲しみとして捉えられるようになる。そういう社会は
 戦争が起きにくいと僕は思っています。」 
 
人は変われるかという問いに、
「僕は変わると思う。おそらく感情によって変わると。
 ドストエフスキーの受け売りですが、論理では変わらないけれど、
 存在を揺さぶられるような感情を経験すると、人は変わると思います。

 はい。ただ難しいのは、精神的な耐性が弱いと、存在を揺さぶられる
 ような強い感情に向き合えないんですね。それで拒否していまう、
 ものすごいストレスがかかることですから。ゆえに、人はなかなか
 変われないんだと思っていまが、変わること自体は絶対に可能だと
 僕は思っています。」         (引用ここまで)

映画・音楽では、彼の小説を原作とした映画に関わる
プロデューサーや監督、俳優との対談が興味深かった。
私は次の5作を観ているが、なかでも「銃」が一番面白かった。
①去年の冬、きみと別れ
②最後の命
③悪と仮面のルール
④火Hee
⑤銃

桃井かおり、玉木宏、岩田剛典、吉沢亮、村上虹郎、
そして「銃」の監督の武正晴、プロデュースした奥山和由。
武正晴は「銃」を、たまたま空いた2週間で撮影したというから驚く。

『教団X』の愛読者ということで集まった3人の中の、
スタジオジブリの鈴木敏夫はなぜこんなにも話が面白いのだろう。
いつも思うことだが。

綾野剛も中村の愛読者ということだ。
二人は同じ匂いがすると思ったが、次の中村の言葉で納得した。
「結局、演じることも物を作るということだから、そういう人は
 ある程度の狂気性を負いますよ。どんなにかわいらしく見える人でも
 何かしらはあると思うし。だからこそ、演じることが出来るって
 いうのもあるでしょうね。」      (引用ここまで)

中村文則と私の娘は同世代ということもあり、
やはり同じ世代の西加奈子、山崎ナオコーラとの会話が楽しかった。
西に「文則くん」と呼ばれる場面を想像するだけで笑ってしまう。

付箋を付けていたら付箋だらけになってしまったので、これでやめます。
これからも彼から学んでいこうと思う。     

追記1
この時期、フジファブリックの「若者のすべて」の次の歌詞に心引かれる。
「真夏のピークが去った
 天気予報士がテレビで言ってた・・・」

そしてこの時期、白井聡がガンジーの言葉を引いてあとがきに書いた
という次の言葉が心に染みる。

あなたがすることのほとんどは無意味であるが、
 それでもしなくてはならない。
 そうしたことをするのは、世界を変えるためではなく、
 世界によって自分が変えられないようにするためである
。」
                            (敬称略)
(2022年8月23日 記)


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