数学に関する記事を最近全然書いてないので,久々に書くことにしよう。もっとも,そもそもブログの更新自体,サボり気味なのだが。
数十年前の記事だが,Davis という人の一般向けの数学雑誌 The Mathematical Gazette の記事に次のような内容のものがあった。
空間ベクトル x, y, z で作ったスカラー三重積を [x y z] と書くことにする。成分で考えると,サイクリックな置き換えに関する不変性
[x y z]=[y z x]=[z x y]
が成り立つことが容易に確かめられる。(確か,この性質はスカラー三重積の他の性質を公理に据え,それらから導くこともできたはず。)
スカラー三重積は内積や外積をもとに定義されるので,次のような性質があることもすぐに確かめられる。
(i) x, y, z のうちどれか二つを入れ替えると符号が変わるという反対称性:[x y z]=-[y x z].
(ii) x, y, z の3つの変数全てに関する線形性,つまり三重線形性:[ax+by+cz u v]=a[x u v]+b[y u v]+c[z u v], ただし,a, b, c はスカラー。
これらを用いて展開すると,3つの線型結合 a[1]x+b[1]y+c[1]z, a[2]x+b[2]y+c[2]z, a[3]x+b[3]y+c[3]z のスカラー三重積が,3次正方行列
a[1] b[1] c[1]
a[2] b[2] c[2]
a[3] b[3] c[3]
の行列式と,スカラー三重積 [x y z] の積になるということを指摘したのが,Davis 氏の記事の内容である。そのような話は,知っていそうで今まで目にしたことがなかったように思う。
計算規則に従って素直に展開すれば確かにそうなるわけだが,[x y z] も x, y, z の成分を用いて表せば,それらの成分を並べてできる行列の行列式になるわけだから,この結果を直接計算によらずにもっと別の視点から説明できないものかと考えた。そもそも,スカラー三重積の値が成分を並べた行列の行列式に一致するということ自体,当然の結果だと思えるようなとらえ方はないだろうか。
考え始めて,すぐに謎は解明された。実に簡単な話である。スカラー三重積の性質 (i),(ii) は,行列を形作る行ベクトルたち(または列ベクトルたち)に関する行列式の性質と全く同じなのである。行列式は,行ベクトル(列ベクトル)に関して線形性と反対称性をもった関数である。したがって,スカラー三重積が行列式に一致するのは不思議でもなんでもない。むしろ必然なのである。ただし,基本ベクトルの組のスカラー三重積 [i j k] の値だけは個別に計算する必要があるが,j×k=i であることを用いれば
[i j k]=i・(j×k)=i・i=1
のように簡単に求められる。これはちょうど,単位行列の行列式の値が 1 であることに対応する。
これで話は済んだが,ここまで書いて,ふと次のことが気になった。スカラー三重積と内積をあらかじめ与えておいて,それらから外積を構成することができるだろうか。
それはそんなに難しいことではないだろう。まず,y と z を固定した時,x に [x y z] を対応させる写像は線形形式になるので,あるベクトル w を用いて
[x y z]=x・w
と表すことができる。この w は y と z を与えるごとにただ一つだけ決まるので,それを w=y×z と書くことにするのである。そうすると,この y×z という写像がベクトルの外積の性質(双線形性と反対称性)をすべて満たすことが容易に示せるだろう。そしてもちろん,スカラー三重積の版対称性から
[y y z]=-[y y z]
となるので [y y z]=0 であることが言え,y と y×z が垂直である,なんていうこともわかる。
あとは内積と合わせた三平方の定理が成り立つかどうかだが,それもなんとかなるんじゃなかろうか。
最後の吟味が不十分だが,この話はここまでとしよう。
数十年前の記事だが,Davis という人の一般向けの数学雑誌 The Mathematical Gazette の記事に次のような内容のものがあった。
空間ベクトル x, y, z で作ったスカラー三重積を [x y z] と書くことにする。成分で考えると,サイクリックな置き換えに関する不変性
[x y z]=[y z x]=[z x y]
が成り立つことが容易に確かめられる。(確か,この性質はスカラー三重積の他の性質を公理に据え,それらから導くこともできたはず。)
スカラー三重積は内積や外積をもとに定義されるので,次のような性質があることもすぐに確かめられる。
(i) x, y, z のうちどれか二つを入れ替えると符号が変わるという反対称性:[x y z]=-[y x z].
(ii) x, y, z の3つの変数全てに関する線形性,つまり三重線形性:[ax+by+cz u v]=a[x u v]+b[y u v]+c[z u v], ただし,a, b, c はスカラー。
これらを用いて展開すると,3つの線型結合 a[1]x+b[1]y+c[1]z, a[2]x+b[2]y+c[2]z, a[3]x+b[3]y+c[3]z のスカラー三重積が,3次正方行列
a[1] b[1] c[1]
a[2] b[2] c[2]
a[3] b[3] c[3]
の行列式と,スカラー三重積 [x y z] の積になるということを指摘したのが,Davis 氏の記事の内容である。そのような話は,知っていそうで今まで目にしたことがなかったように思う。
計算規則に従って素直に展開すれば確かにそうなるわけだが,[x y z] も x, y, z の成分を用いて表せば,それらの成分を並べてできる行列の行列式になるわけだから,この結果を直接計算によらずにもっと別の視点から説明できないものかと考えた。そもそも,スカラー三重積の値が成分を並べた行列の行列式に一致するということ自体,当然の結果だと思えるようなとらえ方はないだろうか。
考え始めて,すぐに謎は解明された。実に簡単な話である。スカラー三重積の性質 (i),(ii) は,行列を形作る行ベクトルたち(または列ベクトルたち)に関する行列式の性質と全く同じなのである。行列式は,行ベクトル(列ベクトル)に関して線形性と反対称性をもった関数である。したがって,スカラー三重積が行列式に一致するのは不思議でもなんでもない。むしろ必然なのである。ただし,基本ベクトルの組のスカラー三重積 [i j k] の値だけは個別に計算する必要があるが,j×k=i であることを用いれば
[i j k]=i・(j×k)=i・i=1
のように簡単に求められる。これはちょうど,単位行列の行列式の値が 1 であることに対応する。
これで話は済んだが,ここまで書いて,ふと次のことが気になった。スカラー三重積と内積をあらかじめ与えておいて,それらから外積を構成することができるだろうか。
それはそんなに難しいことではないだろう。まず,y と z を固定した時,x に [x y z] を対応させる写像は線形形式になるので,あるベクトル w を用いて
[x y z]=x・w
と表すことができる。この w は y と z を与えるごとにただ一つだけ決まるので,それを w=y×z と書くことにするのである。そうすると,この y×z という写像がベクトルの外積の性質(双線形性と反対称性)をすべて満たすことが容易に示せるだろう。そしてもちろん,スカラー三重積の版対称性から
[y y z]=-[y y z]
となるので [y y z]=0 であることが言え,y と y×z が垂直である,なんていうこともわかる。
あとは内積と合わせた三平方の定理が成り立つかどうかだが,それもなんとかなるんじゃなかろうか。
最後の吟味が不十分だが,この話はここまでとしよう。
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