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直円錐の展開図。

2011-01-28 23:42:54 | mathematics
直円錐とは,頂点から底面に下ろした垂線の足が底面の中心に一致するような円錐のことである。
円錐において,頂点と底面の円周の一点とを結ぶ線分を母線という。

直円錐は小学校の算数または中学校の数学でお馴染みの図形だが,展開図についてふといくつかの疑問が浮かんだ。


【疑問1】

直円錐の側面を母線に沿って切り広げると平らな扇形になるが,それは何故だろうか?

この疑問はふたつに分けられる。ひとつは,「側面を切り開いて平にのすことができるのは何故か」ということであり,もうひとつは「切り広げた形はなぜ扇形なのだろうか」というものである。

前者は決して自明ではないと思う。なぜなら,直円錐の側面は曲がった曲面であるため,平らに広げようと思っても凸凹(でこぼこ)になってきれいに平坦にならせない可能性があるからである。
むしろ,曲面を切り開いたときには平らな形にのせないのが普通だと思われる。
例えば蜜柑の皮をむいて広げると,どうしても中央付近が膨らんでしまい,平らにすることはできない。
この問題は『曲面の曲率』に関係があると思うのだが,曲率に関する知識がないため,現時点では保留にせざるを得ない。

後者は解決した。
いま,直円錐の頂点をA,底面の中心をOとし,底面の円周上の任意の異なる2点をP,Qとおくと,二つの三角形AOPとAOQは,角AOPと角AOQが共に直角で等しく,辺 AO は共通で,辺OPと辺OQは共に底面の半径に等しいので,二辺とその間の角がそれぞれ等しいので合同になる。
したがってこれらの斜辺APと斜辺AQは等しく,それは直円錐の母線の長さに等しい(母線の長さは一意的に定まることを証明したことにもなっている)。

したがって,一本の母線と底面の円周に沿って切り開いたとき,底面の周と一致していた側面のへりの点は,すべて頂点から等しい距離にある。
よって,側面が平にならせることを認めれば,切り広げた側面の,底面と接していたへりの曲線は,頂点を中心とし,母線の長さを半径とする円周の一部分となることがわかる。そのような図形が扇形に他ならない。

なお,母線の長さが一定であることから,直円錐の頂点を中心とし,母線の長さを半径とする球面は,直円錐の底面の周にぴったり接することもわかる。


【疑問2】

直円錐を習った際に,必ず直円錐の表面積や体積を求める問題を解かされる。
表面積を求める際に,特に則面積を求めるため扇形の面積を求める必要があるが,扇形の面積は中心角に比例するという事実が使われる。ところで,それはなぜだろうか?よくよく考えてみると証明を習った覚えはない。
例えば,円を三等分や四等分すると中心角と面積のいずれも三等分や四等分されるというのは,図を描いてみれば素直に納得できることである。
しかし,たったそれだけの限られた例で成り立つからといって,いきなり『扇形の面積は中心角に比例する』と言明するのは,論理が飛躍しすぎているのではないだろうか。
小学生のときや中学生のときは疑問に思わずその事実を暗記しても仕方がないかもしれないが,大人になった今,その事実を証明できるものなのだろうか。それとも,やはりただ人の言うことを鵜呑みにするしかないのだろうか。

そのように自問してみたとき,どうしたものかと途方に暮れたが,すぐに次のような説明に思い至った。
ここで紹介する証明では,理系の大学生になって初めて習う「重積分」を使用する。

xy 平面において,中心が原点で,半径が R,中心角がαであるような扇形を D とする。
より具体的には,D の点 (x,y) について,x=rcosθ,y=rsinθとおいたとき,0≦r≦R かつ 0≦θ≦α(≦2π) であるという設定である。
D 上で恒等的に 1 という2変数関数を重積分すると,積分の値は D の面積に一致する。
(重積分の値は D を底面とする高さ1の柱状の立体の体積になるから,体積が底面積×高さであり,高さが 1 であることから体積の値と底面積の値が等しいことがわかるだろう。)
そこで,積分の変数変換を使うと dxdy=rdrdθ となるので,

(D の面積)=∬[D]dxdy=∫[θ=0→α]∫[r=0→R] rdrdθ=αR2/2

となり,扇形 D の面積が中心角αに比例することがきちんと証明された。

ちなみに,中心角に比例する量として有名なものに扇形の弧の長さがあるが,こちらは証明すべきことがらではなく,角の大きさの定義,つまり弧度法の原理そのものなので,定理ではなく定義である。

なお,直円錐の体積が,同じ底面を持つ円柱の体積の3分の1に等しいということも重積分を用いて証明することができる。また,球の体積や表面積の公式も重積分を使えば容易に導くことができる。


子供の頃に鵜呑みにしていた事柄で,大人になってからようやくその事柄が成り立つ理由が正しく理解できるような事はたくさんある。今回の話はそのほんの一例に過ぎない。
コメント (2)
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