ひとつ,印象に残っている技を紹介しよう。
問題
(b+c)(c+a)(a+b)+abc を因数分解せよ。
◆解法1
僕が好んでいるのは「中途半端に展開して整理する」というやり方である。
ただし,これは人には説明しづらい「野生のカン」のようなセンスが必要なので,汎用性は低い。
因数分解の常道である,「1文字に着目する」に従い,例えば a について式を整理すると
(b+c)(c+a)(a+b)+abc=(b+c){a2+(b+c)a+bc}+abc
=(b+c)a2+(b+c)2a+(b+c)bc+abc
を得る。
ここで一気に最後まで展開しきらないところがミソである。
ちょっと容器を傾けておきながら,こぼれる前に戻す,みたいなあやういバランス感覚が要求されるのである。
『なぜだか』あるいは『なんとなく』前の2項と後ろの2項をそれぞれペアにしてみると,
{(b+c)a2+(b+c)2a}+{(b+c)bc+abc}
=a(b+c){a+(b+c)}+{(b+c)+a}bc
=a(b+c)(a+b+c)+(a+b+c)bc
のように,思いがけない共通因数 a+b+c が見えてくる。
ここまでくれば,答えが
=(a+b+c)(bc+ca+ab)
となることは容易にわかる。
◆解法2
誰が思いついたのかは知らないけれども,次のように実に鮮やかな解法がある。これを紹介するのが今回の記事のメインテーマである。
s=a+b+c とおく。
すると b+c=s-a,c+a=s-b,a+b=s-c であるから,
(b+c)(c+a)(a+b)+abc=(s-a)(s-b)(s-c)+abc
={s3-(a+b+c)s2+(bc+ca+ab)s-abc}+abc
=s3-s•s2+(bc+ca+ab)s
=(bc+ca+ab)s
=(bc+ca+ab)(a+b+c)
となる。
いや~,実に見事である!
これはなかなか忘れない。
そして,機会があればこの方法を使ってみたいなあ,と思わせてくれる,そんな魅力を持った解法ではないだろうか?
◆解法3(蛇足)
思うに,解法2の背景には,因数分解すべき式が a,b,c に関して対称な3次式だから,基本対称式
s=a+b+c,
t=bc+ca+ab,
u=abc
の多項式として表せるのではないか,という考えがあるような気がする。
この観点に素直に従うと,
(b+c)(c+a)(a+b)+abc=xs3+yst+zu
とおいて係数 x, y, z を定める,という方針になりそうだ。
左辺を展開しても a3 は現れないが,右辺を展開すると xa3 が現れるので,x=0 でなければならないことがわかる。
あとは,a=b=1,c=0 なんかを代入してみて
左辺=2,
右辺=2y
より y=1,
次に a=1,b=1,c=-1 なんかを代入してみて,
左辺=-1,
右辺=-y-z
より,z=0 となる,というような流れで (x,y,z)=(0,1,0) であることを見出すことが可能である。
たったひとつの問題でも,かようにいろいろなことを考えることができるのである。
問題
(b+c)(c+a)(a+b)+abc を因数分解せよ。
◆解法1
僕が好んでいるのは「中途半端に展開して整理する」というやり方である。
ただし,これは人には説明しづらい「野生のカン」のようなセンスが必要なので,汎用性は低い。
因数分解の常道である,「1文字に着目する」に従い,例えば a について式を整理すると
(b+c)(c+a)(a+b)+abc=(b+c){a2+(b+c)a+bc}+abc
=(b+c)a2+(b+c)2a+(b+c)bc+abc
を得る。
ここで一気に最後まで展開しきらないところがミソである。
ちょっと容器を傾けておきながら,こぼれる前に戻す,みたいなあやういバランス感覚が要求されるのである。
『なぜだか』あるいは『なんとなく』前の2項と後ろの2項をそれぞれペアにしてみると,
{(b+c)a2+(b+c)2a}+{(b+c)bc+abc}
=a(b+c){a+(b+c)}+{(b+c)+a}bc
=a(b+c)(a+b+c)+(a+b+c)bc
のように,思いがけない共通因数 a+b+c が見えてくる。
ここまでくれば,答えが
=(a+b+c)(bc+ca+ab)
となることは容易にわかる。
◆解法2
誰が思いついたのかは知らないけれども,次のように実に鮮やかな解法がある。これを紹介するのが今回の記事のメインテーマである。
s=a+b+c とおく。
すると b+c=s-a,c+a=s-b,a+b=s-c であるから,
(b+c)(c+a)(a+b)+abc=(s-a)(s-b)(s-c)+abc
={s3-(a+b+c)s2+(bc+ca+ab)s-abc}+abc
=s3-s•s2+(bc+ca+ab)s
=(bc+ca+ab)s
=(bc+ca+ab)(a+b+c)
となる。
いや~,実に見事である!
これはなかなか忘れない。
そして,機会があればこの方法を使ってみたいなあ,と思わせてくれる,そんな魅力を持った解法ではないだろうか?
◆解法3(蛇足)
思うに,解法2の背景には,因数分解すべき式が a,b,c に関して対称な3次式だから,基本対称式
s=a+b+c,
t=bc+ca+ab,
u=abc
の多項式として表せるのではないか,という考えがあるような気がする。
この観点に素直に従うと,
(b+c)(c+a)(a+b)+abc=xs3+yst+zu
とおいて係数 x, y, z を定める,という方針になりそうだ。
左辺を展開しても a3 は現れないが,右辺を展開すると xa3 が現れるので,x=0 でなければならないことがわかる。
あとは,a=b=1,c=0 なんかを代入してみて
左辺=2,
右辺=2y
より y=1,
次に a=1,b=1,c=-1 なんかを代入してみて,
左辺=-1,
右辺=-y-z
より,z=0 となる,というような流れで (x,y,z)=(0,1,0) であることを見出すことが可能である。
たったひとつの問題でも,かようにいろいろなことを考えることができるのである。